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挿話6

本日、二回目の投稿です。

 

 自分の居場所を守るために必死だった。なのに、なにが悪いというの。このくらいで。このくらい、許される。




 幼いころの記憶の父は、ふだんは無口で面白みがないが、酒乱で暴れた。働いた金銭は酒につぎ込む父の代わりに母は働き、それであまり傍にいてくれなかった。そんな母がとうとう病みつき、母方の親戚が引き取った。父が面倒だとばかりに押し付けたのかもしれない。自分も連れて行ってと泣いて懇願したが、父が放さなかった。子供攫いが横行する中、国では両親から子供を引き離すことを厳しく取り締まっていたことが裏目に出た。引き離さないようにしたその親こそが子供を害するなど考えないのだろうか。


 そこからは地獄だった。

 慣れない家事を強いられ、不満があれば八つ当たりされ殴られ蹴られる。

 そのうち、ねっとりした視線で見まわされ身体を触られるようになった。

 逃げ出してもすぐに連れ戻され、暴力をふるわれ、正常な思考を奪われた。逃げることすらできなくなった。その日その日をやり過ごすしかなかった。縮こまって、父の意識に引っかからないようにして生きるしかなかった。

 そんな自分を救い出してくれる者がようやっと現れた。


 冬の日、父は酒を飲んで夜半に置きだし、水を飲もうとしたのか、台所で大の字になって冷たくなっていた。朝、それを自分が見つけた。

 ぼうぜんとした。

 怖く怖くて外に出て、ただ震えて泣いていた。そうしていると、通りかかった老女が自分の上着を脱いでかけてくれ、根気強く話を聞きだし、後始末をしてくれた。

 自分も子供を失ったことがあるといって、面倒を見てくれることとなった。母はもうどこにいるのか分からなくなっていた。


 老女はこの場所にいたくないとしがみつく自分を連れ出してくれた。ただ、老女自身は先が長くないからと言って、一族の子供がない夫婦に養子の話を持ち掛け、了承され、新しい家族ができた。その後も、助けてくれた老女を本当の祖母のように慕った。

 平穏な暮らしに初めは戸惑ったが、次第に慣れた。


 ただ、しばらくすると、この一族にはなにか秘密があるようだと気づいた。あまり、他の者たちとは交流しない。けれど、自分にはそれを強要しなかった。そして、十五になった際、ゆくゆくはあなたはここを出て、広い世界へ行きなさいと言われた。


 引き取られて十年近く、よくしてくれたが、どこか一線を引いている気配がずっと付きまとった。それがいやだった。もし、広い世界へ出たとしても、戻ってくる場所であってほしい。そう言ったが、自分たち一族は他の者たちとあまりかかわりを持たないのだと言った。自分たち一族に恩を感じるのであれば、自分たち一族がかかわりを持たないようにするのに協力してほしいと言った。


 それを聞いたとき、拒絶された気がした。締め出された気がした。どうして、自分を受け入れてくれないのか。本当の家族になってほしかった。

 色んな事をがんばった。身なりを清潔にし、学び、身体を鍛えた。その結果、みなからうつくしい、賢いと称賛されるようになった。思慕の視線を送られることも増えた。それでも、一族の一員には迎え入れられないのだ。


 では、自分で作ろう。

 自分の居場所を。自分がなくてはならない場所を。


 このくらいなら、いいだろう。わたしは不幸の連続だったのだから、ちょっとくらい良いだろう。ほかの者たちはたくさん持っていて幸せなのだから、少しくらい良いだろう。

 だから、わたしが良い目を見たっていいだろう。

 そうして、多くの男を虜にし、自分の思い通りに操る。


 欠けている部分があるという表現があるけれど、わたしは心のどこかにひびが入っていて、そこからするするとこぼれ落ちていく。だから、どれだけ注いでもどんどん減って行く。水位が下がって行くのが怖くて、どんどん入れたかった。欲しかった。からからに乾いたら砕け散ってしまい、もう元に戻ることができないだろうから。




 母がいたころ、一度だけ作ってくれたプンティがとても美味しくて覚えている。そのとき、ちょうど父親の機嫌もよく、食材を買うお金を母に与えた。母は喜んで料理を作ったから、もともとは料理が得意だったのかもしれない。

「ほうれんそうは身体を丈夫にするからね」

「おう、じゃあ、いっぱい食べな」

「うん!」

 思い返せば幸せなひとときもあったのだ。


 少し年上の子供たちがお金を出し合って大きなパンを買ってちぎって食べていた。そうやって食べるものなのだというのは、自分と同じ年頃の子が父親らしき男に買ってもらって、ちぎり取ったのを手渡されているのを見て知った。次に、男は女に渡した。そして、最後に自分がひと欠片口に放り込む。まずは子供から、そして妻、最後に自分だ。それはとてもうつくしく、清らかで、そして踏みつけたいような気にさせる光景だった。




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