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ソウタとユリが戻って来てから、フェレット族兄弟は旅のことをいろいろ聞いた。
あちこちで食べた美味しいもののことを聞いて羨ましがった。けれど、後から、カントさんの手伝いをしたフェムがほかの兄弟たちに、ソウタとユリの足はとてもひどい状態であったと聞いてしょんぼりした。
「カントさんが渡した軟膏も使い果たしたそうだよ」
だからこそ、ケット・シーたちをレースに参加させ、妖精の環を繋げさせ、少しでも旅の困難を取り除こうとしたのだ。
ソウタとユリが話した各地の美味しいもののなかには魚料理もあった。川魚しか食べたことがなかったが、旅先で分けてもらって食べた海の魚を使った料理も美味しかったという。猫族だから魚好きなのである。
フェレット母さんとしても海魚も扱ってみたいが、ここいらではなかなか手に入らない。
それでも、大変な思いをする者の助けにならないかと思ったフェレット母さんは、旅先で食べたという別の料理を作ってみることにした。
ワンダフルさんからリトラで食べた煮込み料理が美味しかったと聞いて、具体的にどんな味だったか、具材はなにを使っていたかをヒアリングする。
「牛肉とベーコン、タマネギが入っていたなあ。付け合わせでジャガイモやピラフがあった」
「結構なボリュームですね」
「ああ。バターやエールで煮込まれていてな。クセになる苦味と、バターの豊かさやタマネギの甘さが複雑な味わいを出していたよ」
フェレット母さんはここに香辛料を使ったパンをいっしょに煮込むことでスパイスの風味と甘味を加え、味に広がりを出して見せ、ワンダフルさんをうならせた。
「味の再現だけでなく、そこからひと味違ったものにするなんて」
「いやあ、実に美味しいです」
相伴に預かるカントさんが垂れ目を細めるのに、フェレット母さんはへの字口を緩ませたが、料理を食べつつトムさんが言ったのには仰天した。
「フェリィも定休日に、妖精の環を使ってリトラへ行ってあれこれ食べて来ると良い」
「え、わ、わたしがですか」
「そうだよ。料理店に食べにくる妖精たちに人族や獣人族が使う貨幣で支払えないか聞いてみよう」
具体的な方策を検討しだしたトムさんに、本気なのだとフェレット母さんは息を呑む。
「それは良い。そうすれば、フェリィさんもいろんな料理を食べられますね」
「料理人は味だけでなく、鼻で嗅いで目で見た方が良いだろうからな」
カントさんもワンダフルさんも全面的に賛成する。特に、獣人である彼らは匂いは重要な要素だ。
「フェリィさんはこれほど素晴らしい腕前をお持ちなのですから、実際にいろんな料理を食べてみたら世界が広がりますよ」
カントさんが言うのに、フェレット母さんもじわじわと高揚してくる。けれど。
「でも、あの、わたしは大きな町へ行ったことがなくて、」
「そうか。リトラは大きな街らしいから、まごつくし腰が引けるな」
フェレット母さんの躊躇をトムさんが理解する。
「では、よろしければ、わたしがごいっしょしますよ」
カントさんが申し出ると、フェレット母さんはぱあ、と表情を明るくする。ひとりでは心もとないが、カントさんといっしょならば楽しんでくることができる気がした。それはカントさんがとても穏やかで思慮深く、好ましい性質をしているからでもある。
「そりゃあ良い。ついでにふたりで市も見ておいでよ。カントも料理店に使う素材を育てる一員だ。ちゃんと給金を支払わなくてはな」
「良いですね。料理の素材や器具なんかも探してみましょう。わたしも薬の素材や器材を見てみたいです。トムさん、苗があれば買ってきましょうか?」
「おお、良いな。じゃあ、一度で全部見て来よう、食べて来ようとせずに、何度か通うと良い。そうすりゃあ、どんなものがあるか見てきてもらって、話を聞いてから決めることができるからな」
そんなふうにどんどん話が進んでいき、フェレット母さんとカントさんはリトラへ行くことに決まった。
「ロケットの持ち主を見つけて返すことができたら、ソウタとユリがフェレット族兄弟といっしょにリトラ見物をするのも良いな」
静かにみなのやり取りを聞きながら料理を食べていたケッティさんがそんなふうに言う。
「そりゃあ、良い」
「そうですね。子供たちもソウタ君とユリ君がまた旅立つのを寂しく思っているでしょうから」
「みんなにお小遣いを渡せるようにがんばって働きます」
トムさんが相好を崩し、楽しみが先にあれば我慢することもできるだろうとカントさんが言い、フェレット母さんも喜んだ。
「おう、じゃあ、ケット・シーたちが情報を持って来たら出発するか。ソウタとユリの具合も大分よくなった様子だしな」
泣き言を言わないソウタとユリ、そしてケッティの気持ちを汲んで殊更大仰に庇いだてすることのなかったワンダフルは、それでもフェレット族兄弟が知恵を絞ってふたりのためにまんまとケット・シーたちを遊びに巻き込んで妖精の環を繋げさせることに成功したと知り、度肝を抜かれた。そして、実に爽快な気分になった。あのケット・シーたちをして。
いや、ケット・シーたちもしてやられたのではなく、フェレット族兄弟の気持ちにほだされたのではないだろうか。あるいは、ケット・シーたちの気持ちを動かしてみせることができたなら、気持ちよく妖精の環を繋げてくれるのかもしれない。
その妖精の環はそんなケット・シーたちの胃袋を掴んだフェレット母さんとトムの片腕ともなったカントであれば、間違いなくリトラへ運んでくれる。そして、事がなされた暁には、ソウタとユリといっしょにフェレット族兄弟をも通してくれるだろう。
ケッティに魔力の充填を頼めば、動力源は問題ない。
なお、このエール風味の煮込み料理はルジェクも気に入り、料理店にもときおり顔を出すようになった。




