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 ユリはその日、ふと農場脇に建つ小屋の扉が空いているのに気づいて、閉めておこうと思った。急な雨が降りでもしたら大変だと思った。湿気でだめになる素材も置いてあるかもしれないからだ。

 そして、最近、アイテム玉を作っていないなと思い出す。そのとたん、作りたくなった。

 ケット・シーたちが稀血の一族という新しい情報を得て、いつ新事実を発見して来てくれるか分からない。ならば、すぐに旅立てるように備えておく必要があるだろう。

 トムさんとカントさんにそう言うと、小屋や貯蔵庫に置いてある素材は好きに使って良いと言ってくれた。


 ユリは早速、素材を探しに貯蔵庫へやって来た。棚を物色していると、初めて見るものもたくさんある。

「あれ、これって、」

 ユリが袋を開けたとたん、目の前で火花が散ったような気がして「みぎゃっ」と言って放り出す。そのとき、階段から慌てて降りて来る物音がした。


「遅かったか!」

「ユリ君、大丈夫ですか?」

「なに、これ。酸っぱい。酸っぱくて目がチカチカする」

 ぼろぼろ大粒の涙を流しながらユリはやって来たトムさんとカントさんに訴えかける。


「悪かった。おいらが最初に言っておけばよかった」

「うん、大丈夫。涙で【びっくり梅】の成分はおおかた流されました」

「【びっくり梅】? それってびっくりシリーズの野菜?」

「そうなんだ。新しいのを栽培して収穫したのを置いておいたんだ」

「わあ!」

 とたんに、ユリがきらきらした目でトムさんとカントさんを見る。


「カントの栄養剤のお陰で、新しいびっくりシリーズの野菜を育てることに成功したんだ」

 トムさんが誇らしげに胸を張る。新たな協力者を得て、新しい物を作りだす。充実している様子がうかがえた。


「ほかにも、【びっくりトウガラシ】や【びっくりレモン】がありますが、取り扱いには注意して下さいね」

 言って、カントさんはそれぞれが入った袋を棚から下ろしてくれた。

【びっくり梅】が目の前で火花が散るくらい酸っぱい梅であるなら、【びっくりトウガラシ】は激辛なのだという。

「一説によると、あまりの辛さで死者も目覚めると言われている」

「うわあ」


【びっくりレモン】もふるっている。衝撃の甘いレモンなのだという。

「甘いの?」

「そうだ。ただ、擬態はぴか一で、どれが甘いのか分からない」

「だいたいはとんでもなく酸っぱいんです。だから、端からかじって死屍累々なんです」

「えぇ……」

 ちょっと訳が分からなくなったユリが渋い顔つきになる。大体、擬態とはなんだ。衝撃的に甘いものがありつつ、実は酸っぱいものばかりなのだ。


 ともあれ、ユリは新しいびっくりシリーズの野菜を手に入れ、ポーションづくりに励んだ。ソウタも手伝う。カントさんやフェムまでも下処理に加わってくれた。


「ううん、上手くいかないなあ」

「これを使ってみるか?」

 うんうん唸りながら、あれこれ試した調合メモをノートに書きつけていくユリに、トムさんがなにかを差し出した。

「これはなあに?」

 小首を傾げるユリの前で、トムさんが開いた紙包みの中からは粉末状の薬が出てきた。

「【きゅっとすぼめるトルメンティル】だ」

 根を粉末状にしたのだという。ルジェクさんに請われていくらか渡したばかりなので、ふと思い出したのだという。


「それって、たしか、薬草の一種だったよね」

「そうですよ。よく覚えていましたね」

 トムさんの言葉に、フェムがいっしょうけんめい思い出しながら言うと、カントさんが良くできましたと頭を撫でた。


「へえ、薬草か。どんな効果があるの?」

「身体の内部組織や血管を縮める作用を持つんです」

 ソウタが尋ねると、するするとカントさんが説明してくれる。

「口の中が無感覚になるほどの渋い薬草だ」

 トムさんがにやりと笑う。びっくりシリーズの野菜もかくやの味のようだ。


「よし! やってみよう!」

 ユリもわくわくと新素材を試用してみることにした。


「ううん、もうちょっと、という感じなんだけれど」

「ああ、これは、【びっくり梅】と【びっくりレモン】が相乗効果でちょっと効果が強すぎますね」

「じゃあ、分量を減らしてみるね」

 そうやって試行錯誤を繰り返し、その都度記録をつけ、どんどん試験を繰り返した。

 そうして。


「やった、できた!」

「え、でも、ユリ、それって」

「それでいいの?」

 両前足で小瓶を掴んで高く掲げるユリに、ソウタとフェムが戸惑う。

「そうよ。これはこういうものなの!」

 ユリは自信満々に言い切る。


「みなで力を合わせて作り出したものを喜ぶ。良いものだな」

「本当にそうですね」

 トムがカントに教え、あるいはカントがトムに教授したことを、フェムが学ぶ。そして、今ソウタやユリも加わってひとつの物を作り上げる。

 そうやっていろんな者へ知識が渡り、それによってさまざまなことが引き起こされる。トムは自分ひとりが知っていたことが巡りめぐって起きる出来事を楽しむようになった。


 願わくば、悪いことに使われませんように。自分の手を離れた事柄が責任を取れる範囲のものでありますように。

 そう、心の中で祈った。



 どうか、どうか。良いことだけに用いられますように。




 さて、びっくりシリーズの野菜の種類が増え、ユリとソウタはトムさんやカントさん、フェムの手を借り、新たなびっくりポーションを作ろうと試行錯誤した結果、少しばかり毛色が違うポーションを作り出すこととなった。

 ユリはそれに<ルーレットポーション>と名付けた。

「なんの効果がつくかは運命ルーレット次第! <サプライズディッシュ>ならぬサプライズポーションよ!」

「ユリはさあ、」

「なによ」

 このやり取りももはや定番である。

 そして。


「「「「気まぐれポーション!!」」」」


 ケット・シーたちがこのポーションを気に入らないはずがない。

「やっぱりユリにゃんはトリックスターの再来にゃ!」

 ケット・シーたちはもはやユリを崇拝するに至った。「【モヤモヤシ】を捕まえよう!」ゲームの優勝者にやったように、胴上げしようとしたので、ユリは逃げ回る羽目になった。


「もうこれはあれにゃね」

「ソウにゃんとユリにゃんを合わせてトリックスター!」

「ぼくまで?!」

 ソウタも逃げ回ることとなり、それを見ていたディレクさんが、「どうだ、俺の気持ちが分かったか!」となぜか尊大に言ったものである。姿は可愛いハムスターだけれど。

 ケット・シーたちにせがまれ、トムさんはせっせとびっくりシリーズの野菜を作り続けた。






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