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 空いっぱいに星々が銀の砂粒のようにふりまかれていた。

「フェレット母さんがお菓子に粉砂糖を振ったのみたい」

 ひと筋の帯を成して地平線から上に高く伸びあがっているのもあれば、ところどころ強い光を発するものもある。

「フェレット母さんならもっと均等にまぶすよ」

「そうね。じゃあ、わたしがやったのかな。ちょっと塊になっているところあるもんね」

「そのくらい、塊と言えないくらいのものだよ。筋になっているのも、模様だと思えば」

 ユリはふふ、と笑った。

「そうだね。味があるね。わたしが作る料理はいつもそう。わたしらしさしか出ない」

「それでいいじゃないか」

「うん」



 散水機を創り上げたソウタは興奮冷めらぬまま、そっとベッドを抜け出した。

 物音がして居間に行くと、先客がいた。うすぼんやりした灯りの下、ユリとケッティが座って窓の外を見上げている。ソウタが戸口に立つとケッティが振り向いた。

「眠れないのか、ソウタ」

「うん。ユリとケッティはどうしたの?」

「わたしはちょっと喉が渇いたから水を飲もうと思ったの」

 そうしたら、ケッティが居間にいたのだという。

 そこで、ふたりはケッティを挟んで長椅子に座り、モノクルのケット・シーが夜空を指し示しながら星にまつわる話をしてくれるのに耳を傾けた。

 そして、ユリが星空を粉砂糖をまぶすことに例えたのだ。


 ケッティはふたりの会話に耳を傾けていた。

 ユリらしい。自分らしさしか出ない。でも、それでいい。

 すとんと胸に落ちて来る感情を、ケッティはそのまま口にした。

「わたしはケット・シーという種族にありながら、ステップを踏めないから、妖精の環(フェアリー・サークル)を繋げられない。そのことがずっと気がかりだった。だから村を出ようと思った」

 そこには少しばかり捨て鉢な気分やむきになる部分があった。それでも旅をして良かったと今では思う。


「旅をしてどうだった?」

「いろいろ知ることができた?」

「ああ、想像以上だった。とても楽しい。ソウタとユリのお陰だ」

 両側から見上げて来る猫族の子供たちを、モノクルのケット・シーは両前足でそれぞれ撫でる。釣り目が細められるのに、全幅の信頼を実感し、この子供らをきっと守ろうと心に誓う。そんな彼の心を読み取ったかのように、ふたりは嬉しい言葉をくれる。

「そんなことないよ。ぼくたちの方がケッティにたくさん助けられているよ」

「それに、ケッティと旅をするのはとても楽しいよ」


 純粋でいつもだれかのために動くふたりだからこそ、稀血の一族の特異性やそれを追う権力者に不穏を感じる。妖精攫いという言葉に、妖精ならば誰もが嫌悪を抱く。それは見世物にされたり、コレクションとされたり、錬金術や薬の素材に用いられたりするのだという。稀血の一族もそういった事柄を目的として標的にされているのだという。


 ふたりは仁楊にゃん村に家族や友がいる。ワンダフルに依頼し、結局ふたりにも託すこととなった駄菓子屋の老女は今、とても気を揉んでいるのではないだろうか。ソウタとユリになにかあったら、村の者たちが悲しむ。




「キキキュー!」

 ニャントロフさんが帰って来た。アーミィが喜びのあまり、駆け寄った勢いを活かしてジャンプし、見事、ふかふかの毛並みの腹に飛びついた。

「ただいまあ。アーミィ、元気そうだねえ」

 オコジョ姿の小さな獣に飛びつかれたくらいでは小ゆるぎもしないニャントロフさんはアーミィを見下ろす。


「ニャントロフさんだ!」

「ニャントロフさんが帰って来たよ!」

 フェロとフェンもアーミィの後を追う。つられるようにして、遊びに来ていた宝石姫が守護犬とともにゆっくりそちらへ歩いて行く。なお、アーミィは短い四肢できゅっとニャントロフさんにしがみついたまままだ。しばらくぶりのふとんの感触を味わっているかのようだ。


「お土産があるよお」

 言って、ニャントロフさんは背負った大きな袋からポケットのようなものを取り出した。

「これ、なあに?」

「わあ、ふかふか!」

「キキュ!」

「アーミィ、入ってみたいって」

「そうだよお。これは小さな寝袋みたいなものだよお」

「ニャントロフさんがいないときに使う」

「本物の方が良いよ」

「キキュ!」

「アーミィが眠気を誘うお腹の上下運動付き!だって」

 それは褒め言葉なのか。

「し、仕方がないねえ」

 ニャントロフさん的には良かったらしい。今にもごろりと仰向けになりそうである。そうなったら、きっとフェレット族兄弟(年少組)はいそいそと腹に乗りあがっただろう。


「ふかふかの毛に足がうずもれている」

 思わず、といったふうにそう漏らしたのは、ニャントロフさんが連れてきた人族の旅人だ。

「なんとも愛らしい光景ですわね」

「まことに。わたしはルジェクと言います」

 宝石姫が漏らした言葉を受け取って、いっかな紹介してくれないニャントロフさんに見切りをつけて自分で挨拶をした。


「実家が薬問屋を営んでいるため、方々で良い薬や薬草を探しており、ニャントロフさんには無理を言って連れて来てもらいました」

 旅慣れたふうで如才なく宝石姫に挨拶するルジェクさんは短い金髪、緑色の瞳で、ほどよく筋肉がついた身体は少し高めで均整がとれている。


「こちらの犬がこの農場牧場を守る妖精犬なんですか?」

 ニャントロフさんから聞いているのか、クー・シーなのかと尋ねる。ソウタとユリもニャントロフさんを迎えに出てきたが、珍しく宝石姫が見知らぬ者と会話しているので、口を挟まずにいた。

 それよりも、「アーミィ、ニャントロフさん、旅疲れしているだろうから」とソウタがアーミィの身体をそっと掴んでニャントロフさんから引き離そうとしたり、「キキューキュ!」「あ、爪を立てちゃ、ニャントロフさんが痛いわよ」ユリが慌てたりしててんやわんやだった。

 その間、わきまえたもので、ニャントロフさんはじっとしていた。こういうときは下手に動いた方がもっと痛い思いをすると分かっているのだ。


「いいえ、彼はわたくしの守護犬です。同じ妖精犬ですわ」

 賑やかなニャントロフさんとその周囲とを他所に、宝石姫はおっとりと答える。

「素晴らしく大きく見事な身体つき、艶やかな毛並みをしていますね」

 ルジェクさんは実家でも犬をたくさん飼っていて、忙しい両親に代わって兄弟のように暮らしていたのだという。


「幼いころはそれこそ、わたしの乳母のようなものでした」

「まあ、では乳母御がたくさんおられましたのね」

「そうですね。してはいけないことなど、すべて彼らから学びました。賢い犬たちです。しかも、駆けまわることが好きなものだから、いっしょに過ごすうちにわたしはすっかり丈夫に育ちました」

「わたくしも、両親が忙しいから、この守護犬が育ててくれたようなものですわ」

「彼もとても聡明そうですものね」


「おほめに預かり、光栄だ」

 しばらく様子を見ていた守護犬がルジェクさんにはある程度打ち解けても良かろうと判断して話しかけた。

「おお、喋るのですね。良いなあ。うちの兄弟たちも話してくれれば、なにを欲しいのかや身体の不具合なんかを教えてもらえることができるのに」

 そんなふうに言うものだから、宝石姫も守護犬もすっかりルジェクさんに気を許し、あれこれと話は弾んだ。


 ルジェクさんは頭の回転が速く、薬や薬草だけでなく、いろんな植物について造詣が深い。そのため、カントさんやトムさんとも話が弾み、滞在を勧められて喜んで受けた。

「農場妖精トムテ! ああ、お会いできるなんて、光栄です! 遠目にも素晴らしい農場牧場ですね。カントさんはトムさんが作った素材で製薬するんですね。うらやましいことです」

「ええ、わたくしもこの僥倖にいつも感謝しています」

 感激しきりのルジェクさんに、その気持ちはとてもよく分かるとばかりにカントさんも頷く。


「カントのお陰で、指をくわえて眺めているだけだったレシピを使っていろいろ作ってもらえて助かっているんだ」

 ふたりがお互いに協力し合っているのだと知り、ルジェクさんは羨ましそうにする。


「こちらは散水機? すばらしい魔道具ですね。これをソウタ君が? そう、お師匠さまに教わって作ったんですね。その若さでいっぱしの魔道具師なんですね。こちらの畑で採れた食材で作った料理がなんてまた美味なことか。しかも、身体を元気にするメニューを考案されているとは。いや、なんてすごい場所なんだ!」

 ルジェクさんは農場牧場に驚き、農場妖精のトムさんに感激し、その素材で薬を作るカントさんをうらやみ、散水機に驚き、料理に舌鼓を打ち、身体に良いというメニューに感心した。


「あたしが話したごくごく断片的なことを繋ぎ合わせて、不思議な農場牧場があると察して付きまとうんだものお。ほとんど無理やりついて来たんだよお」

 ニャントロフさんは困り切ってそう言うものの、ルジェクさんのここでのことすべてを尊重する態度に、みなはすんなり彼を受け入れた。





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