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挿話5

 

「決してあんなできごとを繰り返させやしない。これ以上は誰ひとり欠けることなんてない。必ずだ。だから、取り戻す」

 ズィーベン(ななばんめ)を。


 自分には彼らの行く末を見守る責任があった。

 誰でもない自分が行わなければならない。ときにその責任の重さに押しつぶされそうになり、藁をもつかむ、なにかにすがりたい気持ちになることもある。でも、神頼みなんて、自分らしくない。


「お前らはな、自由なんだ。高度知能も情感も与えられた。創造主はその責任を取らなきゃならん」

 いつだって、彼らの前では真っすぐ顔を上げていなければならない。彼らのような素晴らしい特性を持たない自分に従ってくれる、せめてもの姿勢だ。


「自分がしたくてしでかした悪事なら責任を取りゃあいい。操られて悪事をさせるなんて、そんな最悪なこと、あってたまるか。お前たちには自分の考えも情感もある。なのに、自分たちの知識欲を満足させたり一部分を切り出して素材にする? 物じゃないんだよ!」

 常に言い続けてきた。

 学習能力を持つ彼らは善悪は自分で身に付ける。悪いことをしていないのに、悪事に手を染めさせることなんてさせやしない。

 自分のその考えは、彼らに浸透していた。だから、彼らは自分たちを守る以外に力をふるうことなど、ほとんどなかった。




 ディレクの死後、十四年が経ったそのとき、魔力供給を拒んだゴーレムにも定期的にメンテンスを行っていた。起動させ、外へ出たとたん、襲撃を受けた。追及の手が及んでいた。それによってゴーレム二体が激しい損傷を受けた。


『俺が食い止める!』


 彼らは見た。ズィーベン(ななばんめ)が押し包まれ、倒れ伏し、拘束され運搬されるのを。

 なんとか妖精の路(フェアリー・ロード)を通って隠れ家のひとつにたどり着いたが、ドライ(さんばんめ)アハト(はちばんめ)の損傷が激しく、応急措置をしてツヴァイ(にばんめ)を護衛にして残した。

 もともと、ディレク(マスター)から以外の魔力供給を拒んでいたアインス、フィーア、フュンフはほぼ魔力がなく、移動させるだけで精いっぱいだった。




 ディレクと彼のゴーレムは国軍が破れたほどの凶暴な魔獣を討伐したこともある。病が猛威をふるう国で、罹患しないゴーレムは救助活動で活躍したこともある。その国ではディレクとそのゴーレムをたたえた。

 民衆は沸きに沸いた。その偉業は周辺諸国に知れ渡るようになる。


『ねえ、ねえ、ツヴェルクさま、おねがーい』

『フィーアがつけるのなら、わたくしにも搭載して下さい』

「仕方がないな」

 フィーアとフュンフに左右からせがまれ、ツヴェルクは早々に陥落した。


「おいおい、それ以上扱う武器が増えてどうするんだよ」

「役に立つだろう」

 それでなくとも、ツヴァイがいれば戦闘は十分だ。だというのに、ツヴェルクは平然と返す。


『そうそう。こうなったら、あらゆる武器を扱えるようになりたい!』

『わたしも』

 ツヴェルクは言われるがままにゴーレムたちの願いを叶えてやりそうである。


「ゴーレムたちには甘いな」

「どの口が言うか。お前さんなぞ、一番性能の良いアインスがマスターの従僕然とするのを容認しとるじゃないか。宝の持ち腐れとはこのことだ」

 ツヴェルクが少し視線をずらして件のアインスを見やる。


「本人がそこは譲れないって言うんだから仕方がないだろう。まあ、あれだ、お陰で多様なゴーレムたちが生まれて各分野で活躍できているんだから、いいじゃないか。アインスも統率をしっかりとっているしな」

『マスターのお傍でお仕えすることこそが、我が望み。叶えていただけて、感謝しております』

 言ってアインスはうっすら微笑み、片手を胸に置き軽く頭を下げる。すばらしく洗練された動作で、品があった。


 マスターであるディレクが命じれば、アインスは従う。けれど、アインスは常にディレクの傍に付き従うことを望んだ。そして、ゴーレム・マスターは最も安全な場所にいるものである。マスターが討ち取られれば、とたんにゴーレムたちは制御を失うというのが定説だ。


「ゴーレムたちは自由意志で動く方が、いちいち命令を待つより効率が良いし、齟齬そごも生まれず、タイムラグも減る。俺がどうなっても動けるようなゴーレムにする」

 その結果、ほかの高度知能生命体と見分けがつかないゴーレムたちが誕生した。




『マスター、どうしてわたしの冷却器その他の機能は身長を伸ばす方に用いたのだ』

「うん? なんだあ?」

 ディレクは透き通る白っぽい金髪(ホワイトブロンド)を持つ、二十代半ばの冷たい美貌の女性型ゴーレムが唐突に言いだしたのに首を傾げた。


『フィーアとフュンフは胸を大きくすることでその機能を搭載している。なのに、わたしはなぜ、身長なんだ』

「なんだ、ドライ、巨乳になりたかったのか」

 賢者とまで称される知能の持ち主が言い出した思いもよらぬことに、ディレクは目を見開く。


『なりたいのではない。なぜかを聞いているのだ』

「そりゃあ、お前、ツヴェルクの趣味だよ。しかし、お前、妙なことにこだわるね」

「俺のせいにするな」

 隅で魔道具をいじっていたツヴェルクが顔を上げる。


『いいじゃん、ドライはスレンダーですらりとしているんだから。フィーアみたいな容姿だけ良くて頭が悪そうな女とは違うんだって』

 少年が後頭部で両手を組みながらにししと笑う。魔法をく使う彼は、その分野にも詳しいドライに一目置いている。


『なんですって! よくも言ったわね、アハト! このちびっこが!』

『言ったがどうした! ちびっこ言うな!』


「こら、室内で暴れるな! 武器を出すな、魔法を使おうとするな!」

 ディレクの叱責は届かず、ふたりはどたばたと動き回る。そんなディレクにすすす、とフュンフが近づく。

『マスター、わたしの大きな冷却器、もとい胸を触っても良いですよ?』

 言って、両手で持ち上げて見せる。


「いや、間に合っている」

『さっすが、希代のゴーレム・マスター! 容姿も良いし、金も持っているし、モテるもんなあ』

 四十代のくたびれたおじさん然としたゼクスが口笛を吹いてはやしたてる。


『口は悪いけれどな』

 ドライがぽつりと漏らす。


『ちゃんと弾力たっぷりですよ』

 なおもぐいぐいとディレクにせまり、胸を押し付けようとする寸前、ぐわ、と長い指を広げ片手でフュンフの頭を掴み上げ、ぽい、と無造作に放り投げた。アインスだ。軽々としたもので、穏やかな物腰からは想像もつかないほどの膂力である。対するフュンフは中空で一回転して華麗に着地する。なお、室内である。天井すれすれまで空間を有効に使っての行動だ。


 アインスはそちらを見もせずに、フィーアとアハトに向けて言う。

『ふたりとも、いい加減に静かになさい』

『『はーい』』

「お前らな、なんで(マスター)の言うことよりもアインスの言葉を聞くんだ」


『そりゃあ、アインスが一番おっかねえからだろう』

 濃い茶色の髪と目の精悍な顔立ちの三十代の男性がにやりと笑う。


『ツヴァイ、なにか?』

 アインスは静かにほほえみながら聞いた。

『いいえ、なんでもございません』

 ツヴァイは反射的に身を引いて答える。


『はっはっは、さしものツヴァイもアインスには形無しだねえ』

 ゼクスにズィーベンが無言で頷く。それだけで風が起こりそうな大男だ。そんな大男もツヴァイの戦闘能力は認めている。アインスがその上を行くだけである。


『もう、こんなに散らかして!』

 二十代後半のふだんはおっとりした女性が憤慨する。

『手伝うよ、ノイン』

『ありがとう、フュンフ』


 彼らは周辺諸国で英雄視されていたが、仲間内で集まればこんなものだった。そして、このやり取りはいつまでも続くと思っていた。





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