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 食事と入浴の後、ソウタとユリが昼寝している間、ワンダフルとケッティはトムとカントに声をかけ、ケット・シーを交えてディレクたちと内密の会談を行った。ディレク側はディレクとツヴェルク、アインスが参加する。フィーアとフュンフはフェレット母さんの手伝いをして、今ごろ洗濯や洗い物をしているはずだ。


「それで、どこがあんたを追いかけまわしていたんだ?」

 ワンダフルに問われたディレクはテーブルの上に鎮座している。

「シュラクの怪物だ。あそこの前王弟だ」

 即答するハムスターのとぼけた顔がにやりと笑ったような気がした。

 カントなどは声もなく、さすがのワンダフルも権力の中枢にあまりにも近しい者の存在に蒼ざめる。


「シュラクの権力者に目を付けられたというのに、シュラク国内に隠れ住んでいたのか」

 ケッティにハムスターはあっけらかんと言う。

「そうだ。国外へ逃げると思わせておいて国境付近に潜んでいたんだ」

「なるほど。その方が意表を衝けるかもな」

 ワンダフルが顎に片前足をやる。


「シュラクの現在の国王が即位されたのは十五年前でしたでしょうか」

 話が進むうち、カントも落ち着きを取り戻す。一方で、ケッティやトム、ケット・シーたち妖精は人族と獣人族の世界には関与しないとばかりに口を挟まない。


 しかし、残る妖精であるツヴェルクは口を開く。

「ディレクが亡くなったのは十六年前だ」

「おお、そうだったのか。ということは五十五のときか?」

 当の本人のディレクはその辺りの記憶はあいまいらしい。

「そうだ」

 ツヴェルクは無念そうな表情でそれきり押し黙る。

 王権の交代間近となったため、シュラクの怪物も下手に動くことができず、追捕の手がやんだ。だというのに、ディレクは病に倒れた。


『シュラク前王弟は公爵位を得て王族の座を退くこととなり権力の多くを失うことになりました。けれど、同時にある程度の自由も得ることとなったのです』

 ツヴェルクに代わってアインスが事情を語る。アインスはディレクのすぐ傍に控えている。

「ずいぶん、詳しいな」

『ゴーレムたちで情報を集めておりますれば』

 感心するワンダフルに、アインスはうっすらほほえむ。


『シュラク前王弟は現在の地位を得て諸々のことが落ち着いた後、マスターを探した形跡があります。しかし、人形遣い(ゴーレムマスター)ディレクの足取りはつかめなかった』

「ディレクが亡くなった後、アインスやフィーア、フュンフは魔力供給を拒んだからな。ほかのゴーレムたちも積極的に活動しようとしなかった。だからずっと籠っていたんだ」

 アインスの言を受けて、ツヴェルクが簡単にそれまでの事情を話す。


『マスターのご意思を守るには、動かない方が良いと愚考しました』

「ディレクの意思とは?」

 ケッティの問いに、ディレク、アインス、ツヴェルクがしばし沈黙したが、ドワーフが口を開いた。

「誰ひとり欠けないこと、ゴーレムの自由意志で動くこと、操られて悪事を働かないこと」

「それと、俺は死ぬ前にゴーレムの行く末を定める腹積もりでいた」

 ディレクが付け加える。


「つまり、権力者の道具にされるのならば、」

 ワンダフルが言い差し、それ以上続けるかどうか迷う。

「そうだ。破棄することも考えた」

 間近で見て話しをするアインスを見ても、人族だと言われればそう信じただろう。人とドワーフが生み出した創り物とはとうてい思えない。それを、自身の手で破壊するというのだ。

 カントとトムが息を呑む。ケッティは考え込み、ケット・シーはひたすら傍観を決め込む。


「それで死んでも死にきれなかったってわけだな」

 そうして、いつしか彼はゴーストとしてこの世に残った。彼らの行く末に責任を持っていたからだ。誰でもない自分が行わなければならないと考えていたからだ。


「それもそのうち消えてしまったんだろうけれどな。今はなにがどうなったか、こうしてソウタのゼンマイ式ハムスターに憑依して、存在が定着しつつある」

『お願いします。マスターの存続のために力を貸してください』

 アインスが深々と頭を下げる。

「それと、アインスたちに魔力供給をしたい。ケッティに魔力充填と譲渡の手伝いをしてもらいたい」


 ディレクは連れ去られたゴーレムをなんとしてでも取り戻すのだと言う。そのためにも、ほかのゴーレムたちに魔力供給をし、損傷を修理する必要がある。

「俺はこのためにゴーストとしてこの世界に残っていたのかもしれない」

「しかし、二年も前のことだろう? しかも、三メートルもある大きなゴーレムなんて、ちょっと動かしただけでも噂になりそうなものだが」

 情報を常に集める冒険者であるワンダフルはそんな話を聞いたことはない。

「そこを含めて、情報収集をしているゼクスとノインに話を聞きたいところだな」


 悪事に使われていないことは僥倖だが、研究のために解体されていたり、実験材料とされていることも考えられる。

「だとしても、部品だけでも取り戻す」

 ディレクは静かに言う。コアや動力回路はおそらく研究しつくされ、もしかするとなにかの機械に組み込まれているかもしれない。できれば、それらも回収したいところだ。


「ディレクの存続は良いとしても、そんなシュラクの前王弟なんてとんでもない権力の持ち主にまだ狙われているんだろう? そんな中で奪われたゴーレムを取り返すのにソウタを巻き込むのはおいらは賛同しない」

「申し訳ないですが、わたくしもトムさんと同意見です」

 トムとカントが口を挟む。彼らにも譲れないものがある。ソウタの保護者ではないが、それに近しい役割を果たそうとしていた。そして、それはワンダフルもケッティも同じだった。


「ディレクが会ったという稀血の一族もまた、シュレクの前王弟に狙われているのか?」

「おそらくな」

 ワンダフルにディレクは答える。

「前王弟の狙いはなんなのだ?」

「———これは俺の予想だが、不老不死だろう」

 核心を衝くケッティの問いに、ディレクは一瞬迷って、それでも答えた。ワンダフルたちが息を呑む。多くの権力者たちが追い求める代物だ。けれど、それは雲をつかむようなもので、実際に聞くことがあろうとは想像だにしなかった。


『妖精にも手出ししているという情報を掴んでいます』

「アインス、」

 ケッティとトム、そしてケット・シーという妖精たちに、決して他人事ではないと示唆するアインスを、ディレクが制止する。

『出過ぎた真似をいたしました』

 恭しく頭を下げつつも、必要とあらばいつでも容喙ようかいするだろうことは容易に想像がつく。


「妖精攫いには、わたしもその場に居合わせた。誰か裏で糸を引いているのか?」

「ケット・シーにはなにも伝わっていないのにゃ」

「妖精の国からはなにも公表していないよ」

 ケッティの問いにケット・シーもトムも首を左右に振る。口を開いたのをきっかけに、ケット・シーが問う。

「ソウにゃんとユリにゃんが探している人族たちは見つかったのかにゃ」

「いや。だが、このディレクが会ったことがあるらしい」

「それに、稀血の一族は商取引きをしているそうだ」

 旅の途中で出会った商人が紋章を見たと言うと、ケット・シーは目を光らせる。

「活動すると目撃情報が出るにゃね」

 それらの情報を聞き集めるのは妖精であるケット・シーには難しいところがある。ソウタとユリが旅に出たゆえんであり、こうして情報を得てきたのだから、その労力は報われたのだ。


「分かったにゃ。商人周辺を探すのにゃ」

「それと、シュラクの前王弟の方も探ってはもらえないだろうか?」

 ワンダフルの要請に、ディレクとツヴェルクが身じろぎする。即答を避けたケット・シーは片目だけを器用にすがめる。

「ソウにゃんとユリにゃんは我らケット・シーの大切な存在にゃ。害をなすなら———」

 とたんに室内の空気が重くなる。アインスは即応し警戒態勢を取る。穏やかな物腰のゴーレムがにわかに緊張する。

 ケット・シーはじっとディレクを見つめる。やがて、ぽつりとこぼした。


「ずるいにゃ」


「「「「「え?」」」」」

 聞き間違いかと幾人かが声を上げる。


「その姿にゃよ! 怒れないにゃ!」

 その場で跳び跳ねそうな勢いで言う。憤慨しているようでもあり、面白がっているようでもあり、相反する感情を同時に発奮させて違和感を覚えないのはケット・シーならではと言える。


「噴霧器を搭載しないかにゃ? そうなれば完璧にゃ!」

「なんだそれ! よくわからないが絶対に嫌だ」

 らんらんと輝く目で注視され、ディレクは悪寒に襲われ、反射的に断る。


「仕方がないから、シュラクの前王弟とゴーレムのことも探ってきてやるにゃよ。だから、噴霧器を搭載しないかにゃ?」

 その後、ディレクとケット・シーの攻防は続き、会談は笑い交じりのままお開きとなった。






読んでいただき、ありがとうございます。


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