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 石を積み上げた家屋、オレンジ色の屋根材は所々苔むして緑色になっていて、カラフルだ。家屋の横手に細長く高いイトスギが二本植えられている。そこを中心として広々とした農場と牧場がある。


「帰ってきたね」

「なんだか、懐かしい気がする」

 ソウタとユリは遠くまで見渡しながら、猫の姿の妖精ケット・シーたちがスキップをしているのですら、なんだかおなじみになっているふうに感じる。


「んにゃっ、んにゃっ、んにゃっ、んにゃっ、んにゃっ」

「きょ、う、の~、おやつは~、なにかにゃ~」

「ケット・シーたち、おやつまでねだっているのかな。フェレット母さんも忙しいっていうのに!」

 ケット・シーの鼻歌交じりの言葉を聞いて、ユリが釣り目をさらに吊り上げる。


「なあ、おい、あれ、ふたつ尾の妖精ケット・シーだよな?」

『はい、マスター』

 ディレクさんがぼうぜんと言うのに、アインスが穏やかに返事をする。

「おいおい、なんだありゃあ。ケット・シーたちが楽しそうにしているのに、畑は荒されちゃいないし、家畜ものんびりしたものだ」

『ケット・シーってもっとハチャメチャだと思っていました』

『こんなにのどかな景色に溶け込める存在でしたっけ』

 ツヴェルクさんの言葉にフィーアも同意し、フュンフは混乱している様子だ。


「ソウタとユリが手綱を握っているからだな」

「それにしても、随分大勢来ているな」

 ワンダフルさんもまた懐かしそうに目を細める一方で、ケッティが農場を見渡して目を見開く。


 そんな一行を迎えたのはクッシィだ。

「帰ってきたか」

「クッシィ!」

「ただいま」

 ソウタとユリはいつの間にか農場牧場の入り口にするりと姿を現した妖精犬に飛びついた。ふさふさの尾が大きく左右に揺られる。


 農場牧場へ訪れた者はまず真っ先に大きな仔牛ほどもある黒い犬に迎えられる。まかり間違って迷い込んできた者はその威容に恐れをなして回れ右をする。用がある者は勇気を奮い、その善良さ、無害さが認められれば足を踏み入れることを許可される。


 一見恐ろしいが、心やさしいクッシィはトムさんやカントさん、フェレット族一家の手伝いをよくする。力があるから、重いものを運んだり、ちょっとしたこと、たとえばすり鉢や桶を押さえておくといったことで活躍する。


 ソウタとユリ、そしてフェレット族兄弟はその背に乗せてもらって移動することもある。幼少三人組などはいっしょくたに乗せてもらってきゃっきゃとはしゃぐ。そんなときはフェムかフェマが兄弟が転がり落ちないようにクッシィの脇につく。そんな彼らに、クッシィは仲の良いすばらしい兄弟だとばかりに目を細める。子供たちといっしょにおやつを食べることもある。また、牧畜たちもトムさんの次にクッシィの指示をよく聞き守る。


「ケット・シーたちが大勢来ているんだね」

 ソウタがそう言うと、クッシィは最近ずっとこんなものだと答える。

「わたし、ちょっと遠慮するように言ってくるわ」

 ソウタはずんずんとケット・シーに向かっていくユリの後を慌てて追う。


 ユリはおやつがどうのと口ずさんでいたケット・シーに近づいて「ちょっと!」と声を掛ける。

「あっ! ユリにゃん! ソウにゃんも! お帰りなさーい!」

 ぱっと笑顔になったケット・シーの言葉を聞きつけ、ほかのケット・シーが集まって来た。

「え、ユリにゃん? ソウにゃんもいるにゃ!」

「「「お帰りなさーい!」」」

 どこからともなく、わらわらとケット・シーたちが現れる。


「にゃわわっ! ちょっと、どこから湧いて出たのよ!」

「湧いて出るって! このユリにゃん節! 久しぶりにゃねえ」

「ようやっと我らがトリックスターが帰ってきたのにゃ! 感慨深いにゃ!」

「トリックスターってなによ。そんなものになった覚えはないわよ!」

「ユリ、落ち着いて。ほら、ケット・シーたちは農場や牧場の仕事を手伝ってくれていたみたいだよ」

「そうにゃよ。ソウにゃん、もっと言ってやって」

「ユリにゃんストッパーのソウにゃん! ケット・シーたちの心強い味方!」

「びっくりポーションを振りまくゼンマイ式ハムスターの生みの親!」

「ソウにゃーん!」

 ソウタとユリを囲んで胴上げでもしそうなくらいにケット・シーたちが盛り上がり、熱烈歓迎の様相を呈している。


「ほらな?」

「本当に大人気なんだな」

 ワンダフルさんがにやりと笑い、ディレクさんが呆然と呟く。


「ソウタ」

「ユリちゃん」

「帰ってきたー!」

「おかえりー」

「キキキュ!」

 そこへアーミィを含むフェレット族兄弟やトムさん、カントさんまでやって来る。カントさんはトムさんと植物の生育具合を確かめていたようだが、ケット・シーたちに荒されないか心配していたのではないだろうか。彼らは抜く必要のないものまで面白ずくで抜いてしまいそうだ。


「フェム、ただいま」

「久しぶり、フェマ。フェレット母さんのお店の手伝いはいいの?」

「料理店は定休日を設けたんですよ」

「フェリィもたまには休まないとな」

 カントさんとトムさんがそう言うのに、ユリは「せっかくのお休みの日なのに、こんなにたくさんのケット・シーたちのおやつを作っていたら休めないよ」とへの字口を急角度にする。


「みんなお帰りなさい。怪我はしていませんか? まずはお風呂に入ってゆっくりしてください」

「そうだな。腹は減っていないか?」

 カントさんやトムさんはまず真っ先に怪我の有無や体調などを気に掛けてくれる。フェレット族兄弟も久しぶりに会うソウタたちの話を聞きたそうにするも、まずは休息をとることを勧めた。


「ありがとう。元気いっぱいだよ」

「あ、でも、カントさんの軟膏がなくなっちゃった」

 事実、帰ってきたという安堵と懐かしい顔ぶれに、疲れや足の痛みも一時忘れていた。カントさんはまた作りましょうね、でもその前に診察しましょうと気づかわしそうにする。


「先に紹介する」

 そう言って、ワンダフルさんがトムさんたちとディレクさんたちを紹介し合う。とたんに、ケット・シーたちが騒ぎ出す。

「おお、ドワーフの名工にゃ!」

「滅多に人前に出にゃい名工とこんなところで会えるとは!」

「さすがはソウにゃんとユリにゃん!」

「ワンにゃんも!」

「ついでにケッティも!」

『ワンにゃんとは、はたして犬なのか猫なのか』

『しっ、フィーア、これ以上ひっかきまわしちゃダメ! それでなくともケット・シーたちがハチャメチャにしているのに!』

 フィーアをいさめているふうではあるが、フュンフはまったく潜めていない声で言う。

 ソウタはこっそり、フィーアとフュンフはケット・シーたちと相性が良すぎて、相乗効果で混乱度合いがいや増すかもしれないとにわかに不安になる。


「みんな、おやつですよ!」

「「「「「わ~い」」」」」

 フェレット母さんがやって来た。とたんに、わいわい騒いでいた者たちがそちらへ行く。ようやっと解放されたソウタとユリがほっと息をつく。

「あら、ソウタ君、ユリちゃん、ワンダフルさんにケッティさんも。帰っていたんですね。ご無事でなによりです。あら、そちらは? お客さま? よろしかったら、いっしょにどうぞ」


 フェレット族一家とアーミィに、フィーアとフュンフが身もだえする。

『なに、この可愛い生き物たち!』

『フィーア、フェレット族よ。しかも、子供のころは獣のフェレットとそっくりで小さいの』

『やだ、絶対にドライが気に入るわ』

『ノインだって、きっと気が合うわね』

 フィーアとフュンフはそんなことを言い合いながら、さりげなくフェレット母さんを手伝う。お代わり用にたくさん用意しているが、増えた人数分の皿やカトラリーを取って来たリ給仕をしたりと忙しい。ケット・シーたちも手伝う。


『あのケット・シーたちと協力し合う日が来るなんて』

「あの名工が手掛けたゴーレムと協力し合う日が来るなんてにゃ」

 やっぱり、気が合いそうな者たちである。


『騒がしくて申し訳ございません』

 アインスが抜かりなく、農場牧場の主であるトムさんに丁寧にあいさつをした。

 ツヴェルクさんは口を挟めずにいたが、カントさんから旅疲れを癒すためにと滋養強壮の薬酒をもらって相好を崩していた。


 そんなふうにして、一行は農場牧場へ戻ってきた。






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