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左右に並んだ木々の枝が互いに向けて差し伸べられ、ぶどうの房のように小さな花が集まって垂れている。いくつもの房がアーチ状に続いている。それらの花々がふうわりと光り、夜道を照らす。風が吹き、やさしく揺さぶると花の明かりはゆらゆらと揺らめく。こっちだよ、こっちへおいでと言っているかのようだ。
「ドワーフも妖精だものね」
「でも、大丈夫だよ。だって、ゴーストさんの友だちだもん」
言って見上げるソウタとユリをケッティはそれ以上、止めかった。
「そうだな。妖精の路は妖精の友であるソウタとユリ、ワンダフルが通ることができた。ならば、この先はゴーストがいれば進むことができるだろう」
ケッティの言葉に背を押されるように、ゴーストがするすると前へ出た。一行はその後について行く。
ぶどうの房のカーテンの向こうに、こぢんまりした家が現れた。緑色の三角屋根に煙突がついている。ゴーストがノッカーに触れると、ひとりでに打ち鳴らされた。
「誰だ?」
中から怪訝そうな声がくぐもって聞こえてくる。
『小さきものよ、俺だ』
「お前、まさか!」
ばっと音がしそうなほど勢いよく扉が開く。初老の縮れっ毛の背の低い男性が姿を見せた。
「ディレクか!」
『おお、ツヴェルク、ようやく会えたな!』
『ほう、そうか、ソウタたちは妖精の友の称号を得たのか』
それはすごいと頷くゴーストことディレクさんは今や姿がはっきりとしていた。首肯するに合わせて首の部分を形成する靄の濃密度合いが変わる。今までのようにすぐに霧散してしまいそうな雰囲気はなかった。
ツヴェルクさんというドワーフはケッティが魔力を豊富に持つのを見て取って、ディレクさんに注いでみろと言ったのだ。
「ディレクなみの魔力量の持ち主なんて初めて見た。そのくらいあるのなら、ちいとばかり譲渡しても構わんだろう」
ケッティは物は試しとばかりにツヴェルクさんの提案に従った。そうしてみると、靄は次第に色濃くなり、うつくしい壮年くらいの人族の男性の姿が現れた。向こうがぼんやり透けているけれど。
「ほほう。種を異にする魔力をこうもあっさり馴染ませるなど、魔力操作もディレク並みか、あるいはそれ以上だな」
ツヴェルクさんは目を丸くした。この場合、ケッティもディレクさんも優れているということなのだろう。
ディレクさんは上機嫌だった。ツヴェルクさんの提案に従ってケッティが魔力を注入してくれたら、意識が明瞭となった。さらには探していたゴーレムと再会することが叶った。
『妖精の路に拒まれたのだとしても、どうしてもっと早くツヴェルクを訪ねようとしなかったのだろうな』
「そういうものだ。生前のように筋道だった考えができなくなる。それに、もしかすると、隠れ家を出ては存在の維持が難しかったかもしれんしな」
返事をするツヴェルクさんはしかし、ディレクさんの方を見ていない。作業台に横たえたゴーレムの調整をしているから、誰も咎めない。
共同制作者であり、指揮者でもあったディレクさんを失ってからツヴェルクさんはゴーレムを動かすことはほとんどなかったという。大切に保管し、定期的にメンテナンスを行っていたことは、今にも動き出しそうなことからも一目瞭然だ。
一行はその家で一番広い部屋の中にいた。
そこは工房で、ごちゃごちゃした物がたくさんあるのに、壁一面に何段にもわたって架けられた棚に整然としまわれているから雑然とした感じはない。あちこちに魔道ランプが灯され、特に作業台は煌々としていて明るい。いろんな角度から照らせるように、魔道ランプは移動と固定ができる仕組みになっている。
なにかの魔道具なのか、時折光を発したりかたかた揺れるものもある。どこからかジーというかすかな音がする。この工房自体に生命が宿り息づいているかのようだ。
ソウタとケッティはすべてに興味を惹かれ、ツヴェルクのなすことや室内の機材、ゴーレムに注視していた。特に、ソウタからしたら憧れのドワーフ、そして彼の工房である。
「人形に見えないや」
「ね、人族が眠っているみたいだよね」
ソウタとユリが囁き合うのに、ディレクさんが自慢げに顎を上げる。
「ほう、ゴーレムでもあり、オートマタでもあるんだな」
「どう違うの?」
感心しきりのケッティに、ユリが尋ねる。
「ざっくり言うと、ゴーレムは魔法で動く人形でオートマタは機械、ゼンマイなどで動く人形だ」
「良く知っているな」
ツヴェルクさんがゴーレムに向けて顔を伏せたまま言う。
『動力源は魔力だからゴーレムと言っているが、内部は繊細な部品が複雑な構造をなしているんだ』
「その構造は俺が設計して作り出したんだ。なんでお前が偉そうなんだ」
『俺がマスターだからな!』
「あっ! もしかして、口の悪いゴーレムって、」
ユリがゴーストハウスでディレクさんがつぶやいていたことを思い出す。とたんに、ディレクさんが苦虫を噛み潰したような顔つきになる。ツヴェルクさんがくく、と喉を鳴らす。
「そら、お客人たちにお前たちの毒舌を聞かせてやれ」
言って、ツヴェルクさんが上半身を起こす。作業台ではゴーレムが目を開け、身じろぎした。
「「動いた!!」」




