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 そこは洞窟のような並木道だった。両側に立つブナの樹がうねうねと梢を掲げて続いている。今にも鞭のようにしなって梢を打ち付けてきそうだ。道の向こうは真っすぐなのに霞んでいる。

 妖しい雰囲気だ。


 ゴーストハウスから唐突に野外に出たことから、ソウタは結論を導く。

「これが妖精の路(フェアリー・ロード)


 生ぬるい風が吹き、気が付け道の向こうにうすぼんやり誰かが立っていて、瞬きするうちに、どんどんその人影は大きくなっている。そんな考えが恐怖によって湧き上がり、実際見ているかのような気がしてくる。

 迷う術もないほど真っすぐだ。ただ、道はアップダウンしているらしく、視界から消える部分もある。

 歩いても歩いても終着点にたどり着かないということではないのだろうか。


「迷うって聞いたから迷路みたいなのを想像していたわ」

「だよね。————って、えぇ、ユリ?!」

「なによ」

 横を見ると当然のようにユリがいる。


「俺たちもいるぞ」

「ワンダフルさんにケッティまで! ————って、えぇ、ゴーストもいっしょに連れてきたの?!」


「「「え?!」」」

 驚いた三人に、ソウタが何度目かで驚愕する。三人ともゴーストもついてきたことを知らなかったのだ。

 ワンダフルさんとケッティの後ろに、ゴーストがふわふわと浮いている。


「よ、良かった。人族の子供は戻すことができたんだね。自分で村に戻れるよね」

 ソウタはとにかくひとつだけは良い点があったと思おうとした。

「その代わり、全員来ちまったけれどな」

「ゴーストまでね」

 肩をすくめるワンダフルさんにユリが付け加える。


「でも、妖精のケッティがいてくれるから、なんとか通れるかもしれないよ」

 振り返って見たケッティは硬い表情を浮かべている。なにがあったのかと聞こうとしたが、ゴーストが感激する声に気を取られる。

『おお、おお! 何度も挑戦してことごとくはじき返されたというのに!』


「ゴーストはわたしたちについてきたんじゃない。助けようとしてソウタについて行ったんだ」

 周囲をしきりに見渡すゴーストに向けるケッティの顔つきが緩む。

「わたしたち、みんなそうだったよ」

「あ、ありがとう」

 ユリの言葉に、ソウタはみんなを見渡してお礼を言う。

「とにかく、進んでみようよ」

 ユリが照れ隠しでそう言って、ずんずん歩き始める。


「そうだな。先に進んでみないことには始まらないか」

 そう言って、ワンダフルさんも後に続く。単独行動をして離れてしまっては、いきなり姿をかき消さないとも限らないと言わんばかりだ。

 ソウタとケッティが追いかけ、ゴーストもついて来る。


 風もないのに葉がさわさわとこすれる音がする。侵入者の様子をうかがっているのだろうか。

「ねえ、ゴーストさんのお友だちのドワーフさんってどんな妖精なの?」

『俺の友は偏屈だ』

 ユリが道を歩きながらゴーストを振り仰ぎ尋ねると、案外すんなりと答えが返って来る。


「偏屈! ドワーフっぽい!」

「そうかあ? ドワーフは酒好きで気の好いやつが多いと思うがなあ」

 名工が多いドワーフに憧れを持つソウタが目を輝かせ、ワンダフルさんが首をひねる。

「そうなんだ!」

「ソウタはドワーフが好きなんだな」

「だって、鉱物を扱わせたら世界一の種族だよ! からくりも得意なんだ!」

 ケッティがからかうように言い、ソウタはそう返しつつ、先程の硬い表情は霧散していることにこっそり胸をなでおろした。


『俺だって名の知れた人形遣いだったんだぞ』

 ゴーストが胸を張る。ふわふわ靄が漂っているような感じなのだが、そういう時はちゃんと集まって来て仕草が分かる。


「人形遣いってどんなの?」

「からくり人形みたいなの?」

 ユリの質問にソウタも問いを重ねる。

『そうだ。土くれに魔力を通して自在に操るものが一般的だが、友のからくりを内蔵しているから、俺のゴーレムは人族そっくりだ』

 外見も動作もな、と言うゴーストはどこか自慢げだった。


「なるほど、それで口が悪いのね?」

 ユリの言葉にゴーストがしょげる。

『そうなんだ。あいつら、ことあるごとにけちょんけちょんに言うんだ』

「そ、そういう関係性が築けるくらい、繊細で複雑なんだね!」

 ソウタが励ますように言う。


『お前も魔道具師なのか?』

「うん、そうなんだ。まだ目指しているって段階なんだけれど」

「お前じゃなくてソウタだよ。ゼンマイ式ハムスターを改良して噴霧器をのっけたんだよ!」

『そうだな。既存のものをカスタマイズしていってオリジナリティを持たせていくものだな』

 ユリの力説にゴーストが気圧されながらも頷く。前のめりになっていたユリが姿勢を正す。


『俺のゴーレムは性能が良すぎた。だから、権力者たちに目を付けられた。本当は、命が失われる前に処分しようと思っていたんだ』

 でも、できなかった。主であるはずのゴーストに好き勝手言えるようなゴーレムたちを、自身の手で破壊することをためらっているうちに、気が付けば肉体を失っていた。


『俺のゴーレムが権力者たちの良い様に扱われるのは耐えられん。ましてや、悪事に使われでもしたら』

「それでゴーレムを探していたんだね」

 死してなお、在り続ける強い願い。

 ソウタたち四人は口を閉じ、それぞれの考えにふけった。


「友だちのドワーフさんならなにか知っているかもしれないもんね」

 ユリも感じ入ったように、あるいはゴーストを励ますように言う。

 到着すると良いなあ、と言ったのはソウタとユリ、どちらかだったか。


 木々のトンネルをいつの間にか抜けていた。

 夜空の下にいた。目の前には庭園の向こうに家が見える。

『友の家だ』

「待て、この庭園も招かざるものを拒否している」

 それまでゴーストが生前のことを思い出すに任せて語るのを黙って聞いていたケッティが制止の声を上げる。

 妖精の路(フェアリー・ロード)の終着点にたどり着いたと意気揚々と足を踏み出そうとしていたソウタとユリが動きを止めた。





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