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ゴーストを前にしてみなであれこれ話しながら、ソウタはふと、滑稽に思う。すぐ近くの村に住む者の多くはこのゴーストハウスを怖がっていた。なのに、よそ者のはずのソウタたちがやって来てゴーストを見つけた。挙句の果てにはゴーストの意思を汲み取ろうとしているのだ。
でもそれは自分たちらしい気がした。分からないのなら、聞けば良い。意思疎通ができるのだから、思い込まず勝手に決めつけず、当事者の意見を知れば良い。ソウタとユリはいつだってそうしてきた。そして、これからもそうだろう。
ソウタがそんなふうなことを考えているうちにも、話が進み、ユリが尋ねる。
「妖精の路って、ケット・シーたちの妖精の環みたいなもの?」
「ああ。同じようなものだな」
離れた別の場所、特に妖精の住処などへ移動する妖精が使う路なのだとケッティが言う。
「招かれた者や許可や資格がある者が通れば終着点にたどり着ける。そうでない者が足を踏み入れれば、迷い続けることになる」
それはほんの数時間のことであるかもしれないし、未来永劫であるかもしれない。
「おとぎ話の、不思議な路に入り込んで迷い続け、出口に着いたら老いさばらえていたというやつだな」
ケッティの淡々とした説明にソウタとユリはうす気味悪さに身を震わし、ワンダフルさんが両前脚を組む。
「ケット・シーたちに協力してもらおうよ」
「そうだね。もしその妖精の路を通れなかったとしても、ケット・シーたちに同じところへ出る妖精の環を繋げてもらおう」
「いや、それはどうかな」
ソウタとユリの言葉に、ケッティがモノクルの奥の瞳を細める。
「妖精の路なんていうのはとんでもないものだ。ほかの妖精が創ったものに干渉するのは、いかな妖精とはいえ難しいんじゃないか?」
「その通りだ」
ワンダフルさんの推測に、ケッティが称賛の眼差しを送る。
「ケッティはさっき「それはどうか」と言った。ということは、できるかもしれないし、できないかもしれない、ということじゃないか?」
「つまり、そのくらいあやふやなことなんだね」
ワンダフルさんの言葉に、ソウタも得心がいったと頷く。
「そうだ。不確定要素が多いんだ」
そんな風に話していると、つとワンダフルさんが顔を出入り口の方へ向けた。すぐさま足音を立てずに戸口に向かう。ソウタたちはなにがあったのだと問いかけたい気持ちを抑えてじっと周囲の気配を読み取ろうとする。
かすかになにか物音が聞こえてきた。
「子供の声がする」
「「あっ」」
「わたしたちの探し物の方は見つかったようだな」
一行がここにやって来た目的が果たせそうである。
ワンダフルさんがひとりで行こうとするも、「こんな場所で大きな犬族と出会ったらびっくりするよ」「わたしたち猫族の子供がいた方が安心すると思う」というソウタとユリの言葉に理を認め、結局四人で移動する。
一階に降り、左手、正面玄関から見れば右の方の廊下を進む。
「ぎゃあ、お化け!」
「なんだかこの悲鳴も懐かしい気がする」
ニャントロフさんを思い出してソウタはついそんなふうに言う。そんなソウタを他所に、同行を主張した通り、ユリは自分の役目を果たそうと子供に話しかける。
「わたしたちは獣人の旅人だよ。迎えに来たの」
子供の親の名前を出すと、悲鳴は止んだ。
「迎えに来るのが遅いぞ!」
「こりゃあ、親子そっくりだなあ」
ワンダフルさんは呆れ、ケッティなどは声もない。
「一旦村へ送ってから戻って来るとするか」
ワンダフルさんがソウタたちにそう言うと、子供が目を剥く。
「な、なんだと?! ザイホウを独り占めする気だな!」
ザイホウってなんだっけ、とソウタは頭をひねり、そうだった、子供はゴーストハウスに財宝があるに違いないと言っていたのだった、と思い出す。
「そんなもん、ありはせんよ」
そう言って背中を押して館の外へ出そうとするワンダフルさんは、人族の子供の身体のやわさを慮って力加減をした。この場合、その気遣いは裏目に出た。
ワンダフルさんの前足を振り払って、子供は飛び出した。
「待て!」
「そっちはだめ!」
子供はよりにもよって、階段を登り始めた。ひとりでは行けなかった階上へも、今は同行者がいる。なにかあれば、助けてくれるだろうという他力本願をベースに自分勝手をした。
なかなかにすばしっこく階段を駆けあがり、廊下の途中、開いていた扉の向こうへ飛び込む。追いかけるソウタたちも続く。
「ぎゃあ! お化け!」
「だから言ったのに」
そう言うユリの後ろに隠れようとするから、ソウタはむっとする。
ワンダフルさんの持ったランプとケッティの杖の先で部屋はうすぼんやりと明るくなる。それでも、ゴーストは消えることなくゆらゆらと漂っていた。
「あっ! あるじゃないか、ザイホウ!」
子供は目ざとくドワーフが作製した台座を見つけてそちらへ駆けだした。
『止せ! 触れるんじゃない!』
それまでの穏やかさとは打って変わって、ゴーストが鋭く制止する。子供はびくりとその場で固まった。
ソウタたちもその剣幕に驚く。友だちであるドワーフが作った大切なものだから触れられたくないということだろうか。
「これはなんなんだ?」
ワンダフルさんがゴーストの様子を観察しながら静かに尋ねる。ゴーストにそうやって接することができるということに、子供は力を得た。
「な、なんだよ! 俺が見つけたんだぞ! 俺のもんだ! お前ら、奪おうったって、そうはいかないぞ!」
子供が台座に飛びついた。
カッと光があふれた。部屋は白く塗りつぶされる。
ソウタとユリはとっさに目をつぶる。瞼を閉じてさえなお強烈な明度だ。子供がぎゃあぎゃあ騒ぐ声が聞こえたが、ばちんと切り落とされたようにしんと静かになる。
「しまった!」
ワンダフルさんの珍しく焦った声に薄目を開ける。光りはいつの間にか収まっている。光源はワンダフルさんの持つランプとケッティの杖の先だけだ。
ソウタとユリは部屋を見渡す。ふたりのほかには、ワンダフルさんとケッティ、ゴーストの姿が確認できた。
「人族の子は?」
「まさか、」
「妖精の路が開いた。台座は鍵だったんだ」
ケッティがまっすぐに台座の向こうの壁を見ながら言う。その険しい表情の横顔を見ながら先ほど言っていたことを思い出す。
招かれざる者や許可を得ていない者が足を踏み入れれば、迷い続けると。それはほんの数時間のことかもしれない。だが、未来永劫かもしれない。
ソウタの横からさっとユリが飛び出した。台座に触れる。
「ユリ!」
「今すぐに路を繋げたら、間に合うかもしれない!」
ふたたび、部屋は白に染まる。
ソウタは目をつぶったまま前進した。ユリの言うとおりならば、すぐに子供を救い出さねば。路を進み迷われては、助け出せない。
そして、ユリの考えは正しかった。ぽっかりと壁に穴が開いた向こう、べそをかいてうずくまっている子供がいた。
すぐ傍に駆け寄っていたソウタは、想像よりも近づいていたことに内心驚きながらも、子供の腕を掴んで力任せに引っ張る。子供が泣いてぐしゃぐしゃの顔を上げるのがはっきりと見えた。
「「「ソウタ!」」」
ソウタは前のめりになりながらも、あらん限りの力を籠めて子供を後ろに放り投げる。どすんという音を聞いた気がする。しかし、目の前に広がる景色に気を取られて後ろを振り返る余裕はなかった。
ソウタは妖精の路に足を踏み入れてしまっていたのだ。後ろで穴が閉じる気配を感じた。




