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本日、二回目の投稿です。

 

 ケット・シーたちが見つけてきた印は、メサニア国にほど近いシュラク国の端っこの村モーノート村のそばの森の樹々に隠されるようにして立つ石碑に刻まれていた。


「こんなの、良く見つけてきたなあ」

 ソウタはロケットを取り出して模様を見比べる。

「ケット・シーは世界のあちこちに出没する妖精なんだね」

 ユリもしみじみと呟く。

 妖精ステップを踏んでは気の向くままに世界のあちこちに現れるのだろう。


「村で情報収集をしてから、狼族の商人から教わった場所へ向かうか」

「どちらかで有力情報を掴めると良いんだがな」

 ワンダフルさんに応えるケッティの声は少しばかり疲れがにじんでいた。


「ああ、だが、小さい村だからどうかな」

 ワンダフルさんが言うには、追手の目をくらませるには大きい街の方が有利なのだそうだ。

「雑多な種族が入り乱れている方が、紛れやすい」

「それもそうか」


「ケッティ、疲れた? 先に宿屋に行って休んでおく?」

「なにか美味しそうなものを見つけたら、買って行くよ」

 ソウタとユリはいろいろあったから、ケッティが心身ともに疲弊しているのではないかと心配する。


 ケッティはしばらくふたりをじっと見つめ、ふっとほほえんだ。モノクルをした知的な雰囲気だからこそ、硬質な感じのするケッティが柔らかい表情を見せると希少さを感じさせる。

「いいや、大丈夫だ。心配してくれてありがとう」

「ううん」

「疲れたら言ってね」

「分かった。ふたりもちゃんと言うんだぞ」

「「うん!」」

 そんな風にやり取りする傍らで、ワンダフルさんは畑から村に帰るモーノートの村人を見つけて話しかけている。


「へえ、そんな遠くから!」

「そうなんだ。もうメサニアは目の前なんだろう? ということはシュラクを横断した形になるな」

 と言っても、細長く伸びているシュラクの南の狭まっている部分である。ワンダフルとしては大した距離ではないのだが、ここは村人に合わせておいた。

「ここはなんにもないよ。それにさ、」

 声を潜める様子に、手ごたえを感じて続く言葉を待つ。おそらく、村中で知っているから、他所から来た者に言いたくて仕方がないのだ。


「村はずれの家にはゴーストが出るから、行くんじゃないぞ」

「「お化けぇ?!」」

 途中からワンダフルさんと村人の会話に耳を傾けていたソウタとユリは素っ頓狂な声を上げた。




 もう自分も戻るという村人のお兄さんと村ではどんなジャムを作るか、どんなジャム料理があるかを話しながら歩くうち、すっかり打ち解けた。

「今日は俺の家に泊まっておいきよ。遠慮すんなって。ちょうど冬におふくろが亡くなって、部屋も余っているし、うちのも子供もたまにはお客が来たら賑やかになるってもんだ」

 ちょっぴり強引な感じで連れて行かれた家は確かに夫婦と子供ひとりが住むには大きい。


「ただいま。お客を連れてきたよ。シュラクの向こう側から旅して来た獣人さんたちだ」

「えぇ?!」

 扉を開いてソウタたちに入るように言ってから、自身もずんずん奥へ入って行きながら、奥さんに声をかける。答える声は急なことに戸惑っているふうである。


「やっぱり迷惑なんじゃないかな」

「突然だものね」

「おかみさんに挨拶だけしたら、お暇するか」

「そうだな」

 そんなふうに話していると、小さな子供を抱きかかえたお兄さんがお姉さんを連れて戻って来た。


「なんだあ、まだそんなところにいたのか。さあ、入って入って」

「いや、やっぱり迷惑だろうから、」

 ワンダフルさんの言葉をさえぎるようにして、子供が小さな手を伸ばして声を上げた。

「わんわん! わんわん!」

「まあ、すみません、この子ったら」

「気を悪くせんでくれなあ。うちの子、犬が大好きなんだ。近所の犬は全部友だちだと思っているんだ」


「でっかいわんわーん!」

 今まで見たどの犬よりも大きい、とばかりに目を輝かせて両手を振り回す。抱えるお兄さんは顔に当たりそうで避けるのに四苦八苦している。


「まあ、こんなに小さいのによく遠くまでやって来たものね。さあ、奥へ入ってちょうだい。なんにもないけれど、あ、そうだ、ちょうどジャムをたくさん作ったところなのよ。ジャムはお好き? 本当にねえ、猫族のこんなに小さな子がねえ。大きい方はふたりの兄さん? あら、違うの?」

 子供はワンダフルさんに大興奮で、奥さんはソウタとユリに感心しきりである。


「忘れてた。うちのは猫が大好きなんだ」

 ソウタとユリは顔を見合わせて笑い出した。

「ぼくたち、ちょうど猫族と犬族の集まりだもんね」

「ね、本当にお邪魔じゃない?」

「そんなことあるもんか!」

「そうですよ。お湯を沸かしてあげるから、ゆっくり汚れを落とすと良いわ」

 ソウタとユリにお兄さんとお姉さん夫婦は歓迎する姿勢を見せた。ソウタとユリはワンダフルさんとケッティを、お言葉に甘えようという風に見上げた。ワンダフルさんとケッティもそういうことならば、と厚意を受けることにした。


 ケッティの魔法で氷漬けにしていた肉を提供したところたいへん喜ばれた。

「おお、今晩はご馳走だな!」

 ソウタとユリはさっそくバスタブを使わせてもらう。お湯はケッティが沸かしてくれた。ワンダフルさんは子供の相手をしている。


 ソウタとユリがお風呂から上がると、ケッティがふたりを風の魔法で乾かしてくれた後、浴室に向かった。

 ふたりは身体を洗うついでにリネン類も洗濯し、干場を借りて乾かす。ついでに撥水布のマントも洗っておいた。

「ありがとう、お姉さん」

「洗濯物干したよ」

「まあ、偉いわねえ。うちの子にもそのうち教えなくちゃね」

 やることなすこと褒めてくれるのでなんだか気恥ずかしくなる。


 ふたりは夕食をこしらえる手伝いを買って出た。

「ここへ来るまでにお兄さんがジャムを使った料理をいろいろ教えてくれたの」

「きっと、お姉さんの料理が大好きなんだね」

 得意げに語るお兄さんの様子を思い出しながら言うユリとソウタに、奥さんの頬が上気する。


 プルプルジャムをたっぷりかけたサラダ、フィフィグジャムでソテーした肉、シチューにパンが食卓に並ぶ。プルプルジャムのとろりとした甘さが、少し辛みのある葉野菜を使ったサラダにやさしいまろやかさを加えている。フィフィグジャムはこっくりとした独特な甘さで肉の味わいに厚みを与えている。


「パンにはクルルンベリーのジャムをつけてね」

「わあ、ジャムがいっぱい!」

「ありがとう。いただきます」

 美味しい料理を食べながら、ランタンキンギョソウを用いた祭りや大きな街で買い物したことなどを話した。


「うちの子もお兄ちゃんお姉ちゃんにつられてたくさん食べたわあ」

 奥さんがそう言うも、どちらかと言えば、健啖ぶりを発揮したワンダフルさんにつられたのだと思う。


 食後の皿洗いをお兄さんとワンダフルさんに任せ、ユリは子供の相手をし、ソウタは奥さんが調子が悪いとこぼしていた古い魔道具の具合を見ることにした。

「ここいらの冬はとっても寒いんだけれどね。この暖房魔道具がガタピシガタピシいってろくに働いてくれないから、お義母さんも寒さに耐えかねたんじゃないかって思ってねえ」

 自分が小さいころから使っていて、嫁入りのときに持ってきたのだと言いながら、魔道具を撫でる手つきは優しい。きっと、傷ひとつとっても思い出があるのだろう。

 ソウタが魔道具いじりが得意だと聞いて、分解するのを許可してくれた。


「ううん、ここの部品が摩耗しているから、取り替えておくね」

「ずっと使っているからねえ。悪くなっているところもたんと出て来るわね」

 さらには、ケッティが魔石の部分に魔力を籠め、元通りに閉じられた魔道具はスイッチを入れるとすんなり動いた。

「あら! ガタピシ言わないわ!」

 稼働中によほど賑やかな音をたてていたのだろう。奥さんはまず真っ先に静かに働くことに驚いた。


「あらあら、暖かい風が出て来るわ。これで今度冬が来ても、うちの子も風邪をひくこともないね」

 奥さんはとても感謝して、ソウタとケッティにあれもこれもとジャムをたくさんくれた。

「プルプルジャムにフィフィグのジャム、それとクルルンベリーのジャムだ」

「夕食に出たもの全部だな。こんなにいただいて良いのか?」

「もちろんよ。このくらいしかできないけれど」

 魔道具は高価なもので、だから、奥さんも不調であってもだましだまし使っていたのだ。それが、ひょんなことからやって来た旅人が直してくれた。しかも、動力源である魔石に魔力をこめてまでくれた。


「ううん、とても嬉しいよ。晩ごはん、美味しかったから!」

 ソウタはぴっかぴかの笑顔で言うものだから、報酬としては十分だという気持ちが伝わって来る。


「フェムたちにも食べさせてやりたいな」

「氷漬けにしたとして、もつかな」

 ソウタが小瓶を見つめながらついこぼすと、すぐさまケッティが検討を始めるものだから、慌てる。

「ううん、そうできたらいいなって思っただけだから。でも、ありがとう、ケッティ」


 奥さんがソウタとケッティを兄弟みたいだねえ、と微笑ましそうに眺めていた。なんの因果で成獣もしていない子供たちが旅をしているのは分からないが、元いた場所に美味しいものを分かち合いたいと思う者たちがいるというのならば、安心だ。


 片付けが終わったワンダフルさんとおじさんも居間にやって来て、お茶でも飲もうかと言っていたときのことである。


「なんだあ、外が騒がしいな」

 お兄さんが様子を見に外へ出るため、扉を開いたとき、ひきつった声が届いた。

「大変だ! 子供がいなくなった!」





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