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本日、二回目の投稿です。

 

 ケッティは面倒くさがることなく、ソウタやユリの買い物に付き合ってくれた。

 大通りから逸れた路地のさらにまた奥の路地にひっそりと構える店は、完成品の魔道具ではなく、壊れたものを分解してパーツで売る店だった。狭い店内にぎっしりと棚が置かれ、木箱の中に無造作に部品が放り込まれている。ソウタは店の隅々まで見て回った。


「ね、プロペラ飛行機の部品になりそうなものはある?」

「ううん、どうかなあ。でも、散水機に使えそうなものならあるんだけれど、」

 ちらりと店員に視線をやる。細い身体つきの虎族だ。

「ほしいものはあった?」

「ええと、これっておいくらですか?」


 虎族から告げられた金額はソウタとユリの持ち合わせを合計しても足りなかった。

 猫族の子供の前足四つの上に乗せられた貨幣を見て、虎族の店員は無言で首を左右に振った。ソウタとユリはがっくりと首を垂れる。そのとき、前足に硬貨が足される。

 驚いて顔を上げたソウタとユリはケッティの前足が引っ込められるのを見た。


「いいの?」

「ああ。トムの農場は広いからな。同居者が増えた上に料理店をするなら、隅々まで稼働できた方が良い」

「フェレット母さんのごはん、美味しいもんね」


 虎族の店員はソウタとユリの両前足からひょいひょいといくつか貨幣を取る。

「あれ?」

「わたしたちのお金はいらないの?」

「ああ。こっちのモノクルの兄さんの分でおつりが出る」

「そのおつりでソウタが要るものを買えば良い」

 虎族の店員が言うのに、ケッティがこともなげに言う。

「そんな、」


 遠慮するソウタにケッティが提案する。

「じゃあ、ゼンマイ式ハムスターを補強する部品を買うと良い」

「ちょっとやそっとの障害物にも負けない強いホイールがあったらなあ」

 ずっと頭にあったことを漏らすと、虎族の店員が「あるよ」と言って、奥から持ってくる。


「大きさも色々あるね」

 感心するユリの隣で、ソウタが無言で熱心に吟味する。そして、お眼鏡にかなうホイールを掴み上げたとたん、ケッティにお金を出してもらっていたことを思い出し、虎族の店員が差し出す箱に戻そうとした。


「これをくれ」

 ケッティはソウタが戻したホイールをそっと取り上げる。

「まいど」

 虎族の店員はにっと笑う。

「ちっとばかし足が出たが、まあ、いいさ」

 そう言って、足りない分を出すというソウタとユリに、「こっちの兄さんの心意気に感謝して受け取っておきな」と言った。つまり、虎族の店員はケッティがソウタとユリ、ひいては会話に出てきたトムさんのためにお金を出したことに感銘を受けたということなのだろう。

 ソウタとユリは同時に頭を下げ、ケッティと虎族の店員とに礼を言った。


「昔、俺が子供だったころ、ちょうどあんたらみたいな感じだったのかなと思ってな」

 おじさんは虎族でソウタとユリは猫族だ。だがまあ、虎族も小さいころは猫族の子供と似ているような感じなのかもしれない。


「そのくらいのとき、うちの兄貴は同族の子供にしょっちゅういじめられていたんだ。そのいじめっ子に俺が文句をつけに行ったんだ」

「え、お兄さんをいじめていた子に?」

「すごい、勇気がある」

 ソウタとユリが目を丸くすると、虎族の店員は苦笑する。

「そのときの俺ぁ、鼻っ柱だけが強い世事に疎い子供でしかなかった。ひょろっこくて頼りないかもしれないが、俺にとっちゃあ、優しい兄貴だ。一丁前のことをべらべら並べ立てたんだ。それが正しいと思っていた。でもな、向こうからしてみりゃあ、単なる生意気なガキだ。当然、殴られたよ」


「当然なんだ」

「虎族の子供って喧嘩っぱやい。わたしたちだったら、もみくちゃになって毛玉になるくらいだよ」

 同じ猫科の獣人であってもまったく違う。


「一発もらって伸びたところを、踏み潰されそうになった」

 ソウタとユリが震えあがる。

「それを制止してくれたのが、高名な人族の方だ。その方の連れがとんでもなく強くてな。虎族の子供なんざ、まったく敵いやしない」

 そして、力に頼む者は、その力に心酔しやすい。

「いじめっ子もその方の話には耳を傾けたよ」

 力は使い方次第だ。のべつまくなしに振るうのではなく、必要なときに用いると効果的だ。

「使いどころを間違えるなってさ。誇示するんじゃない。わざわざ見せつけなくても、必要な時にふるえば、周囲は十分に認めるものだってさ」


「「格好良い!」」

 人族だろうとなんだろうと、格好良い者は憧れの対象なのだ。

「だろう? もうな、いじめっ子もぽーっとなっちゃってさ」

 そう言って照れ臭そうに笑った。

「俺は素直なあんたたちとは全然違っていたんだがな。それでも、その人には俺やいじめっ子はどっちもあんたたちくらいに小さく見えたのかなって思ってさ」

 そして、その先の無限の未来を見出したのかもしれない。

 虎族の店員はそう言って、店の陳列を見渡して、ひとつふたつ部品を取り出してソウタに押し付けるようにして渡した。

「そら、これは強化部品だ。初対面のおじさんの昔話に付き合ってくれた礼だ」

「あ、ありがとう」

「ありがとう!」

 戸惑うソウタよりも、素直に笑顔で礼を言うユリの方がよほど、おじさんが求める子供像かもしれない。


「ねえ、お兄さんはそれからはもういじめっ子にいじめられなくなった?」

「ああ、今じゃあ、無二の親友だ」

「良かったね!」

 ソウタが聞くと虎族の店員はからりと笑い、ユリが満面の笑顔を見せる。虎族のおじさんは部品をもうひとつふたつ取ってふたたびソウタに押し付ける。


「まあ、なんだ、頑張れよ。その人なんざ、ものすごい創造物を連れ歩いていたんだ」

「ものすごい創造物?」

 小首を傾げるユリの傍らでソウタははっと息を呑んだ。おじさんは創造物を「連れ歩く」と言った。

「自分で動く創造物?」

 ソウタのつぶやきに、おじさんはにやりと笑った。

「そうだ。その方はゴーレム・マスターだったんだ」


 ゴーレム。それは魔力で動く人形のことで、魔道具の最高峰であるとも言える。そこでソウタは腑に落ちた。魔道具いじりをする猫族の子供にはおじさんの記憶を二重に刺激したのだ。

 ユリはゴーレムについて興味津々で質問していた。

「優れたゴーレムともなりゃあ、人族とまったく見わけがつかないんだ。ふつうに会話する」

「ほう、それはすごいものだな」

 ケッティも感心する。


「ね、ね、そのゴーレム・マスターはどこにいるの? 会える?」

 ユリが前のめりになって尋ねるのに、虎族の店員は静かに笑った。

「いいや、たぶん、もう会えないな」

 ソウタもユリも寿命を迎えたのだと察した。

 なんとなく重い空気になってしまい、虎族の店員に礼を言って一行は店を後にした。


 ソウタは新しく得た部品が嬉しくて、宿に戻って食事もそこそこに、早々にゼンマイ式ハムスターの補強版を作った。

 リネンや着替えなどの洗い物、ブーツの手入れといった雑事はユリとケッティがしてくれた。そのおかげか、夜を迎えるころには作業は終わった。

 ソウタは早速、宿の床の上で試してみた。

「よし!」

「床のでこぼこがあっても速度はそんなに落ちていないね」

「ホイールが強化されたな」

 ふたりもすぐに以前のものとの違いが分かったようでソウタの喜びはより大きくなった。大都市にやって来た甲斐があるというものだ。


 こうして、ゼンマイ式ハムスターは強化版を作ることに成功したのである。それが後々、妙なことになるとは、思いも寄らなかった。





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