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 ランタン祭りが行われた街を出発し、予定通り、シュラク国でも有数の大都市リトラへ向かう。


「シュラクの隣はメサニア、その東北にラクーザという国があるんだね」

「ラクーザの東南にはカタレアという国があるよ」

 ソウタとユリは休憩の合間にガイドブックを眺め、自分たちがこれまで進んだ距離から目的の場所までを比較したり、こまめに水場や集落の位置を確認した。


「そうだ。シュラクはこの十数年大過なく過ごしていることから、徐々に国力をつけている。メサニアは芸術が発展する国で、ラクーザは農業国、カタレアは学者が多く、学問の門戸が開かれている国だな。これらの国では商取引きも盛んだ」

 ケッティがざっくりと周辺諸国のことを教えてくれる。


「ワンダフルさんはこの国、全部行ったことがある?」

「ああ、あるぞ。そこら辺は共通語で通じるし、冒険者ギルドの管轄内だからな」

「そうなんだ!」

「これから向かうリトラって街は大きいんでしょう? きっとソウタの魔道具の部品が見つかるよ」

「うん」


 休憩の合間に、道行く最中に、木の実や食べられる野草、果実などを発見しては採取した。水と食料の確保は重要案件である。

「フラフラクサベリーだ!」

「あれ、ほんのり酸っぱくて甘くて美味しいんだよ!」

「じゃあ、ちょっと摘んでいくか」


 ソウタとユリは水場から少し離れたところで草を観察する。

「これ、揉んで肉にすり込むと臭み消しになるやつ?」

「トムさんやカントさんが言っていたのかな?」

 額を付き合わせてああでもないこうでもないと言い合う。まろやかな後頭部から好奇心旺盛さを表すぴんと尖った耳までのラインが愛らしい。


「ううん、これじゃあないよ」

「そうだっけ?」

「こっちだよ」

「よし、じゃあ、摘もう!」

 言いながら、ユリが茎をむんずと掴み、抜こうとするも、簡単にはいかなかった。

「ふんぬぬぬぬ!」

「ユ、ユリ! 無茶しないで。葉っぱだけでいいんだから」

「だって、根は煎じると消化に良いってカントさんが言っていたし」

「ちょっと前足を見せてみな。ほら、こんなに赤くなってら」

 ソウタが前足を取って覗き込むと、ユリはちょっと面はゆそうにする。

 傍から見ていて実にほのぼのと可愛らしい猫族の子供たちだ。


「どら、俺がやってみる」

 あらかた捌くのを終え、鍋の火加減をケッティに任せたワンダフルさんがふたりに近づいた。

「ワンダフルさん、大丈夫?」

「土をちょっと掘っておこうか?」

 ユリが今しも木切れか石で硬い土を柔らかくしそうである。ワンダフルさんがふたりの傍らから身を乗り出し、茎を掴んでぐぐっと引き上げる。

「んん」

「わ、抜けた!」

「すごーい!」

 ソウタとユリがぱふぱふと両前足を打ち付けて拍手する。


 ようやっとふたりは葉を揉んで潰して肉にすり込んだ。

「お、焼くだけでも美味いぞ」

 レモンやミントのような爽やかな味わいが脂っこさを軽やかな旨みに変化させる。

「根はひと晩干しておくのか?」

 ケッティが近くの樹の枝にぶら下げている根っこを見上げる。

「うん、そう」

 ケッティが今晩はよく乾いて雨が降りそうな気配がないと言っていたので、安心して外に干せる。

「それでね、細かく刻んで煮出すの。明日の朝、お茶にして飲もうね」

「それは良いな。爽やかなお茶で目が醒めそうだ」

 ユリにケッティも笑顔で返す。


「いやあ、こんなにほのぼのした旅をしたことがない」

「行く先々で美味いものにもありつけるしな」

 食餌の片づけを終えてすぐにテントの中ですやすやと寝息をたてはじめたソウタとユリを眺めながら、ワンダフルとケッティはのんびりと言う。この後、ふたりは交替で見張り番を務める。




 ソウタとユリは旅で色んな種族に出会い、良くしてもらっていた。獣人族からも人族からも愛らしいと言ってもらい、実際に可愛がってもらえた。とくに、よく美味しいものをもらった。分け合って食べることも多かった。

「わあ、魚の形をしたクッキーだ!」

「むぐ、小麦粉の味が濃い!」

「ここいらの小麦は味が濃厚だからね」

 もっくもっくと頬張りながら目を丸くするふたりに、おかみさんはにんまり笑い、ワンダフルさんやケッティにもクッキーを勧める。


「ソウタとユリがいると食べ物に苦労することはないなあ」

「確かに。おこぼれに預かるだけで、結構腹が膨れる」

 そう言い合いながら、ワンダフルもケッティもこの愛らしい子供たちがひもじい思いをしないように、と考えていた。今しがた、大きな葉に包んだクッキーを受け取っているのと同じように、行く先々で食料をもらっている。わくわくとした顔で見上げて来る猫族の子供に喜んでもらえたら、渡す方も本望だろう。


 ふたりはお礼を言って、先程摘んだフラフラクサベリーを渡す。

「おやまあ、こんなにたくさん。ありがとうねえ。うちの子も大好きなんだよ。ああ、そうだ、野菜も食べなきゃね。うちの畑で採れたやつを持ってお行き。旅の最中では野菜不足になりがちだろうからね」

「「ありがとう!」」


 そうやっていろんな者たちからその地方の特色の濃いものをもらうふたりは思う。

 でも、世界では別のところでろくに食べることができない者たちがいたり、流行り病が猛威を振るっていたり、戦争や略奪が起きているという。

 こんなに良くしてもらっているのに、片や困窮していて、片や力で奪うのだ。

 どうしてだろう。

 ふたりは疑問をなんとなくワンダフルさんやケッティに投げかけることなく抱え込んでいた。




「「うわあ」」

「そんなに見上げると後ろに倒れるぞ」

 ワンダフルさんが笑いまじりに言い、ケッティはさりげなくソウタとユリの後ろにつく。本当に倒れ込んだら支えてくれるつもりなのだろう。ふたりは慌てて口をつぐみながら頭の位置を戻す。


 リトラは実に大きな街で、たくさんの建物が建ち並び、大勢の人族や獣人族でにぎわっていた。

 建物が入り組んで建っており、路地は迷路のようになっている。

「次から次へと家が建ったり、従来のものを建て増ししたんだ」

 建物がどんどん増えて、路地と家並みがどんどん伸びて行ったのだという。


「見て! 建物からライオンが半身を乗り出しているよ」

「見事な彫像だな」

 ユリがケッティを振り仰ぎ、モノクルのケット・シーはしみじみと同意する。びっくりポーションシリーズを好むケット・シーたちならば、跳びあがって跨りそうだが、やっぱりケッティは違うなあ、とユリはこっそりとんでもないことを考えていた。


「ランタン祭りのときの街よりも大きいね」

 ソウタがワンダフルさんの方を向いて興奮した様子で言う。


 きょろきょろするふたりをケッティに任せ、ワンダフルさんは手早く宿を取り、情報収集をして冒険者ギルドに顔を出すという。

「先に冒険者ギルドに行くのではないの?」

「顔なじみがいるからな。行ったら行ったで俺が来たっていう噂が広まるかもしれないから、その前にやっておく」

 他種族ならば、個別認識されにくいから、ワンダフルさんと知らずに話してくれることもあるのだそうだ。

「もしかして冒険者のワンダフルさんって有名なの?」

「名前がひとり歩きしているのさ」

 言って、軽く肩をすくめたワンダフルさんは、それでなにかしらあったのかもしれない。特に誇る風でもなかった。


 こんなに大きな街なら、今までみたことがない物が見つかるに違いないとソウタとユリはそわそわする。ソウタは部品を、ユリはアイテム玉の素材を探しに行きたいと言うと、ケッティが穏やかに微笑みながら頷く。奇しくもケッティもまた、ケット・シーたちの奇想天外な行動に比べたら、ふたりはいきなり興味があるものを見つけて走りださないだけ、扱いやすいと思っていた。


「単独行動するなよ。ケッティと三人でかたまっておけ」

「「はーい」」

「暗くなる前に宿に戻っておく」

 ワンダフルさんの言葉にソウタとユリがぴっと片前足を掲げ、ケッティが言う。そうして、ソウタとユリはワンダフルさんと別れ、その日は彼に会うことはなかった。




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