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本日、二回目の投稿です。

 

 食べながら周囲の楽しそうな者たちの様子を眺める。あちこちの辻から流れて来る音楽が心を浮き立たせる。夜になっても、あちこちに飾られたランタンキンギョソウの灯が柔らかく照らしている。


「色んな種族がいっしょになって踊っているね」

「うん、こんな光景は祭りくらいだよ」

「そうなの?」

 ふだんは人族は人族で集まるのだという。

「交流がないわけではないんだけれどね」

「俺、実は獣人の手? 前足? 繋いでみたかったんだよね」

 それが叶ったと笑う。今まで勇気がなくて言い出せなかったのだという。

 広場では人族と獣人が手と前足を握ったり、くるくる回ったり、笑い合ったりしている。


 ソウタが魔道具師を目指しているとか、ユリがアイテム玉を作ると話すと、人族のお兄さんはおじいさんからとある鉱物からある成分を抽出する技術を受け継いだのだという。

「「わあ、すごーい!」」

 ふたりの歓声に、お兄さんは頬を緩めた。


 とてもうつくしい石で、割るとゆらゆらと立ち上るもやのようにも見えるのだという。

「青みがかった紫色のもやのようでさ、ちょうど君の瞳の色のような感じだよ」

「ユリの瞳、とてもきれいな色をしているものね」

 ソウタがそう返すと、ユリがもごもごとなにか言ったので聞き返そうとしたら、お兄さんは先を続けた。


「じいさんから教わったんだ。鉱物からある成分を取り出すのに、「小さきものの声に耳を傾ける」んだっていうんだ。なんのことか分からないだろう?」

 ソウタとユリは心の中を言い当てられてへの字口にきゅっと力を入れる。

 お兄さんはやわらかく苦笑して、「その息吹を感じ取ることが肝要なんだってさ」と言う。


「おやじやおじさんたち、兄貴たちはてんでできなかったけれど、俺にはなんとなくわかるんだよ」

 それには温度や湿度が重要なのだという。

「じっと息を詰めて待つんだ。そうすると、かすかに鉱物が変容してくるのが分かるんだよ」

 長く待ちすぎても、短くても駄目だとお兄さんは言う。


 途中から聞いていたケッティが口を開いた。

「微生物が関与しているのかもしれないな」

「びせいぶつ?」

「目に見えないくらい小さいものだ。それらが何らかの酵素———成分を発するのかもしれない」

「なるほどなあ」

 お兄さんが感心して腕組みする。

「それで小さきもの、なんだね」

「さすがはケッティ」

「話が聞けてすっきりしたよ」

 ソウタとユリも納得し、お兄さんが満足げに二度三度うんうんと頷く。

「いや、仮説にすぎないが」

 もはやそれが正しいことのように言われて、ケッティの腰が引ける。

「ううん、なんだかケッティさんが言っていることが正しい気がする」


 お兄さんの笑顔は曇り、肩を落とした。

「まあ、分かったとしても、その技で職人をするのは諦めたんだ」

「どうして?」

「それでは食べていけないんだ。需要が少なくてね。だから、どれだけ働いても大した稼ぎにならない」

 今は違う仕事をしているのだという。

「好きなことだけをやっていては生きていけないんだ」

 ソウタとユリは寂しそうに見えるお兄さんになんと声を掛ければ良いか分からなかった。

「ぼく、人族はみんな豊かな暮らしをしているのかと思った」

「わたしも。暮らしに困ることなんてないと思っていた」

「そうでもないさ」

「「うん」」

「ごめんな、せっかくの祭りの日にこんな話をしちまって」

「ううん。ぼく、お兄さんの話が聞けて良かったよ」

「わたしも。だって、人族もわたしたちと同じなんだなってことがわかったもん」

「そうだな。いっしょなんだよな。同じ高度知能を持つ存在なんだもんな」

 三人は顔を見あわせて、えへへと笑い合った。お兄さんの言うとおり、ちょっとばかりしんみりしたのがなんだか気恥ずかしい感じがしたのだ。




 ケッティは雑談だけでなく、情報収集もしていた。

「シュラクはどんな感じだ?」

「うちの国はまあまあだよな」

「ああ、あまり変わらないな」

「なんかさ、今の王さまに交代するときにものすごい事件があったらしいじゃない? それ以来、王宮も厳しく取り締まっているみたい」

 国の中枢の動きは水の中に垂らされた色水のように、ゆっくりと方々へ流れていく。その間に薄まって行くのだが、確実に端々に伝わって行くものである。

 なにもないということは平穏に暮らせているということだ。ケッティは重ねて質問することにした。


「じゃあ、メサニアとは?」

「隣の国? 今はいさかいとかは起こってないよ」

「まあ、個人的ななんやかやはあるんだろうけれど」

「芸術の国メサニア! 一生に一度は行ってみたいなあ」

「そうそう、なんでも今、人気の歌姫がいるんでしょう?」

 はしゃいだ声があがる。


「ちょっと遠くなるけれど、ラクーザだよ! あそこ、ヤバいらしよ」

 ひとりが前のめりになってひと際高い声を出す。

「やばいとは?」

「なんでも、国のほとんどで凶作が続いているって」

「ああ、そう聞いたことがある。飢饉にまで至りそうだとか」

 ケッティの言葉に、とたんにみなが顔をしかめる。いったん、飢饉に陥れば、生活は一気に困窮する。食料が手に入らないだけでなく、芋づる式に様々な物品が調達しにくくなるのだ。


「じゃあ、避けた方が良いな」

 ワンダフルもやって来て、さりげなくそう言う。ワンダフルが冒険者だと見て取った人族が肩をすくめる。

「いや、仕事はなにかしらあるんじゃないか?」

「そうそう。イレギュラーが発生したのなら、今がチャンスだよ」

 この人族たちは気の好い者たちだ。ワンダフルを見て、冒険者としてどうかという話をした。


 ソウタとユリは後からそれらの話を聞いて、国の大勢の者が食べられなくなるかもしれないと思うと、心がじんわりと悲しく重くなった。

 お兄さんは望む職につけなかったけれど、初めて会ったソウタやユリに屋台の料理をごちそうしてくれるくらいには暮らしに困っていない。それでも、お兄さんは悲しそうだった。それが間違っているわけではないと思う。がんばってもどうにもならないことはたくさんある。


 のどかな世界の片隅の仁楊にゃん村から離れたべつの国々では物がたくさんあふれ、すごい技術やいろんな研究が進められていると思っていた。でも、多くの者たちが、生きるために精いっぱいなのだ。

 ソウタとユリは少しずつ知る世界の有様に、少しばかり落ち込んだ。





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