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「今、どこかの国で大勢の人が病にかかっているの?」
ソウタが不安を隠せずに占い師のおばあちゃんに尋ねる。
「そうさねえ、いや、これは定期的に流行る病のようだね。国のお偉方も奔走しているようだが、根治には至っていない」
「そんな、」
「おばあちゃん、詳しい症状とか分かる?」
ソウタとユリは真剣な表情となり、あれこれ質問しておばあちゃんからいろいろ話を引き出す。そんなふたりを、おばあちゃんは見つめた。
「近づかない方が良い、関わらないでいようとしないんだねえ」
「旅するうちにいろんな情報が集まってくるかもしれないから」
「もし、なにか分かったら、教えてあげられないかな」
さすがに、妖精云々はおばあちゃんに話すことはなかったが、いろんな妖精たちとの関わりを持つようになったのだから、もしかすると、その国が掴んでいない情報を得られるかもしれない。
おばあちゃんはソウタとユリの後ろに立つワンダフルさんとケッティに視線を移した。
「良い心がけのお子たちだね。よくよく気を付けておやり」
それは奇しくも、この街まで荷台に乗せてくれたおじさんと同じ科白だった。
おばあちゃんは今気づいたとばかりに、まじまじとケッティを見た。
「おや、人里に姿を現すなんて、珍しいこともあったものだね」
そんな風に言うものだから、ソウタとユリは慌てて占いのお礼を言って、ケッティを押し出すようにして広い通りに出た。集団はもういなくなっていたが、どんどん人出は増えている。
占い師のおばあちゃんの前からそそくさと逃げてきた一行は祭りの人込みにまぎれながらほっと息をついた。
「おばあちゃんにバレていたね」
「ね、絶対、ケッティがケット・シーだって分かっていたよね」
ケッティはふたつ尾を隠してしまえば、猫獣人だと装うのは簡単だ。だから、魔法で尾を一本見えないようにしていた。でも、占い師のおばあさんにはお見通しだったようだ。
さて、件の占い師は可愛らしい獣人族の子供たち一行が行ってしまった後、話しかけてきた者にかぶっていた猫を脱ぎ捨てていた。
「ゴウツクバリの占い師が保存食ひとつふたつで、珍しいもんだ」
「ふんっ! あれはどこの王族だって滅多に食べられるものじゃないよ。(あんなにふんだんにスパイスを使っているとは恐れ入るよ。しかも、そんじょそこらのものじゃない。妖精の丹精したスパイスだね。こいつらに知られたら、取り上げられるだろうから黙っておくけどさ)しかも、美味しいっていったらもうひとつくれるんだから、優しい子たちじゃないか」
「まあな。あんなに気立ての良さそうな子たちだ。願わくば、悪い大人に騙されなきゃいいんだけれどな」
「本当だよ」
ランタン祭りを見物するために、街にはあちこちからいろんな種族が集まってきている。獣人だけでなく人族もいた。
まだ宵の口だが、すでに酔いが回ったらしき人族の集団に「あ、猫族の子供だ!」「本当だ、可愛い!」「俺、猫族はしゅっとした大人が好きなんだけれど、丸っこいのもイイ!」などと褒められ、ソウタとユリは顔を見合わせてえへへと笑う。
最後の方にはちょっぴり気になることを言っている者もいたが、種族の違いから、猫族の生態に詳しくないのだろう。猫族は子供の頃はどうしたって腹はふっくら膨らむのだ。
通りはところどころにちょっとした広場ができていて、辻々で楽器の演奏をする者がいる。音楽に合わせてみんな躍っている。特に決まったステップも振りもなく、思い思いに身体を動かして楽しんでいる風だ。
ソウタとユリを可愛いと褒めた人族たちもまた踊りだし、ふたりもそこに加わっていた。見れば、ワンダフルさんも適当に身体を動かしている。
「ケッティも踊ろうよ」
「わたしはステップを踏めない」
ケッティが鼻白む。
「ケット・シーのような複雑なステップを踏まなくていいんだよ」
「楽しい気持ちのまま跳び跳ねるだけで十分!」
「ぼくたちと前足をつないでいたらいいよ」
ソウタとユリはそれぞれケッティの片前足を掴んで引っ張り、躍る輪に入れる。身体を音楽に合わせて動かすだけで楽しい。あちこちに飾られたランタンキンギョソウの色とりどりの灯りと音楽が一層幻想的な非日常な雰囲気をつくり上げているからか、こわばっていたケッティの表情も緩んでくる。
しばらくそうやっていっしょに踊ったことから連帯感が生まれる。
広場のベンチに座ってどこから来たのかなどと人族と話した。
「ランタンキンギョソウってここに来て初めて見た!」
「きれいだね」
「ねー!」
「またおいでよ」
「うん!」
人族たちが屋台の料理をあれこれ買い込んで来て、いっしょに食べようという。
「いいの?」
「うん。色々食べたいからさ、いっしょに食べてよ」
「ありがとう!」
ソウタとユリはさっそく魚の煮込み料理を分けてもらう。
「「ワイワイゾーイ」っていう庶民の料理だよ」
「ゾーイ」が煮込むという意味であるという。
「いろんなものを煮込むってことなのかな」
「そうかもな。魚だけじゃなく、鶏肉やウサギ肉なども使うらしいから」
ソウタのつぶやきを拾って、人族のお兄さんがいろいろ教えてくれた。
「なんかちょっと魚が違う気がする」
いろいろ話すうち、それは川魚と海魚の違いだと判明する。
「川と海で味が違うんだね」
「美味しい! 魚も千切りした野菜も生クリームとバターで柔らかく煮込まれている」
子供が美味しそうに食べているのを見ると幸せを感じるのは、どの種族も同じだ。自然といっぱいお食べ、という気持ちになる。




