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 おじさんはワンダフルさんとケッティにもランタンキンギョソウをひとつずつくれた。

「素直で人懐こい良い子たちだ。だからこそ、気を付けてやんなさいよ」

 すぐにだまされてしまいそうだと心配そうに眉をしかめる。見ず知らずの者に好まれ可愛がられるふたりに、ケッティはさもありなんと思う。


 ケッティは同じ猫族だということから特に自分に向けてそんな風に言われ、ほんのわずかな反発心とそれを凌駕して余り余る庇護欲が育ち始めているのを感じた。

 片前足でそっと掴んだランタンキンギョソウを眺める。

「きれいだな」

「そうだろう? 小さなろうそくを入れて夜に飾ればもっときれいだよ」


 ソウタとユリはとてもとても旅を楽しんでいた。

 ケッティはせかせかと先を進もうとするのだが、「見て!」とどちらかが言い出して、「なになに?」とどちらかが覗き込む。

 だから旅の進み具合はとてもゆっくりだった。

 ワンダフルはまったく気にしておらず、のんびり付き合っている。

「このふたりはこんなものだ」

 リュックを揺らして笑顔で駆けて来るのを立ち止まって待ちながら、そんな風に言う。


 そんなふたりだから、街に着いたら翌日すぐに出発することなく、情報収集がてらランタン祭りを見て行くことにした。もちろん、ソウタとユリは大喜びだ。


 ランタンキンギョソウは花びらがまあるく膨らみ、すぼまったすそがひらひらとしていて、ここに小さなロウソクを入れるのだという。色とりどりの花弁が、中のともしびによって鮮やかに光る。これを街のあちこちに飾り、宵のうちからそぞろ歩きする。たくさん飾れば飾るほど、街が様変わりする。不思議の世界へ迷い込んだような気がする。


「あのおじさんが持って行けば持って行くだけ売れるって言うのも分かるなあ」

「ね。いろんな花の色があるから、賑やかだね」

「それも花びらに透かした灯りだから、毒々しくなくて良いな」

「ああ。持ち歩かないのはきっと花弁がろうそくの火に触れたら焼けてしまうからだろうな」

 ソウタの言葉にそれぞれの性質が良く表れた答えが返って来る。


 屋台もたくさん出ていて、あちこちからなにかを焼く香ばしい匂いや甘い香りがただよってくる。

 しかし、お祭り価格というのか、びっくりするほど高い。それで、ユリはフェレット族一家がくれたショートブレッドを取り出した。


 通りの向こうからひと塊になった集団がやって来たから、それを避けようとして横道に入った。すると暇そうに座っている占い師のおばあさんがいる。

 ユリがかじっているショートブレッドを見て「おや、美味しそうだねえ」とにこにこする。ユリが新しいのを取り出してひとつ上げると、口に入れたとたん、カッと目を見開いた。

「う、美味い!」

 そう言った後、無心で咀嚼そしゃくしている。

 前もこんなことがあったなあ、と思うソウタもまたひとつ取り出しておばあさんにあげる。


 ソウタとユリが友だちがお母さんにならってたくさん作ってくれたのだと言うと、「そうかい。なら、こんなに美味しいのも納得だ。愛情がたっぷり入っているんだからねえ」と微笑まし気にする。

「ありがとう、おばあちゃん」

「わたしたちが住んでいたところの駄菓子屋のおばあちゃんに似ている」

 ソウタとユリもにこやかになり、三人は微笑み合った。


「こんなに美味しいショートブレッドをもらったのだから、お嬢ちゃんたちを占ってあげようね」

「「わあ、やった!」」

 唐突に言葉を掛けてきた老女だが、悪意は読み取れなかったので、ワンダフルとケッティは静観することにした。


 ソウタとユリはなにが始まるのかとわくわくと期待を高まらせている。おばあちゃんは袋を取り出して台の上にざらざらと中身を出した。

「それ、なあに?」

「きれいな石だね」

 ソウタとユリが額を寄せ合うようにして覗き込むのに、おばあちゃんは頬をゆるませる。

「水晶だよ」


 小さな水晶たちをてのひらでかき混ぜた後、その上に手をかざして目をつぶった。

「んん、光るふわふわしたものが見えるね」

「ランタンのこと?」

 小首を傾げるソウタに、違うという。きゅっと眉と眉の間をすぼめてしわをつくる。

「んん、んんん、どうやら、お化けらしいね」

「お、お化けぇ?!」

 おばあちゃんの言葉にソウタがその場で飛びあがる。

「ニャントロフさんに教えてあげよう!」

 ユリが面白がって両前足をぱふんと叩き合わせる。ニャントロフさんはフェロをお化けだと思って悲鳴を上げたことがあるのだ。


「じゃあ、次はお嬢ちゃんだね」

「え、ちょっと待って。次がユリってことは、お化けはぼくを占った結果ということなの? なにがお化けなの?」

「ソウタ、静かにして」

 混乱するソウタにユリがすげなく言う。

 後ろで見守るワンダフルは吹き出すのをこらえ、ケッティもまたへの字口を緩ませている。


 おばあちゃんはすでに次の占いに取り掛かっていた。ふたたび水晶たちをかき混ぜて眉間にしわを寄せている。そして、薄布の向こうを透かし見ようとするようにしながら、感じとれる現象を口にする。

「怯えている」

 不穏な言葉だ。ソウタとユリははっと息を呑んだ。


「これは人族の国だね」

「なにに怯えているの?」

 静かに尋ねるユリに、おばあちゃんが応える。

「んん、んんん、これは病だ。大勢が病に怯えているんだろうね」

 ソウタとユリは顔を見合わせる。つい先だって、病にかかったトムさんのために妖精の国へ行ってレシピを得てきた。薬師のカントさんがいても、小康状態を保つのがせいぜいで、焦る気持ちに突き動かされながら、懸命に動いた。あのときは無事にレシピと素材を手に入れ、トムさんは回復することができた。


 でも、大勢が病に怯えるとは一体どんな状況なのだろうか。





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