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「んにゃっ、んにゃっ、んにゃっ、んにゃっ、んにゃっ」

 農場や牧場のあちこちで、ふたつ尾を持つ猫獣人に似た妖精ケット・シーがスキップをしている。

 放牧された牛がつと顔を上げ、その様子を眺めていたが、興味を失って草を食む。


 ケット・シーたちは時折やって来ては料理を楽しみ、その対価として家屋や料理店を立派に造り変えていった。

 ソウタとユリは料理店で食事をするだけでなく、農場と牧場をのんびり散策するケット・シーに、初め、うろんな視線をやったものだが、それもじきに慣れた。村から入れ代わり立ち代わりやって来て、ユリにびっくりポーションシリーズをねだったり、トムさんにびっくりシリーズの野菜をお願いしたり、ケッティをからかったりしている。


 ソウタとユリ、フェレット族兄弟はときに家事を手伝ったり、ときにフェレット母さんの料理店を手伝ったり、ときにトムさんの手伝いをした。そして、今、トムさんは子供が好きそうなベリーを、「育ててみるか?」と言ってソウタやユリ、フェレット族兄弟に栽培させていた。

 ソウタもユリも、フェレット族兄弟たちも森でベリー集めをよくやっていたものの、自分たちでいちから育てるというのは初めてだ。しかも、農場妖精が教えてくれるという。すぐにみんな夢中になった。


 ベリーはきゅんと酸っぱく、じわっと口の中に唾が出て来るが、その後みずみずしい甘さが広がる。やわらかい果肉がつぶれる感触や、ぷちぷちと種がつぶれる感じも楽しい。そのまま食べるのはもちろん、ジャムにするとお菓子になくてはならない存在となる。


 今もまた、子供たちは揃ってベリーの生長具合を確かめていた。そこへフェレット母さんが通りかかる。

「お母さん、ベリーが実をつけたらそれでおやつを作って!」

「「「「「おやつ!」」」」」

 ソウタとユリも加わって期待に満ちた目で見上げる。今や食事だけでなくおやつもフェレット母さんが作ったものを食べていて、すっかり胃袋を掴まれている。フェレット母さんはへの字口を緩めた。


「あら?」

 ソウタとユリは猫族の子供たちだが、フェレット族は四人である。なのに、細長い身体は五本あって、柔軟な首を曲げてフェレット母さんを見上げている。

「ひとり多い?」

「「「「「「え?!」」」」」」


 フェレット族兄弟はよくくっついて長い身体をからませあっているので、誰が誰だかということがある。フェレット母さんが指さしながら顔の数を数えれば、「五人いるわ」

 なんと、フェレットがひとり増えていた。

「獣のフェレット? でもちょっと違うようね」

 身体は獣のフェレットよりも一回り小さい。


「にゃにゃにゃ!」

 陽気に誘われてハミングしながらスキップしていたケット・シーが驚いた様子で駆け寄って来る。

「妖精の至宝がどうしてこんなところに!」

「「「「妖精の至宝?!」」」」

「お前、妖精なの?」

「キュ!」

 フェロの問いに呼応するように高く愛らしい声を上げる。

「わあ、かわいいねえ」

 フェンがへの字口を緩めるが、そう言う本人の姿も似たり寄ったりである。


「おかあさん、このこ、かっていーい?」

「さんせーい!」

 フェンが甘えた様子でねだり、フェロが片前足をぴっと挙げる。いつもなにかといがみ合うふたりはこんなときは結託するのだ。フェレット母さんは困った。似たような姿の生き物だから、大切にしたいのは山々である。しかし、ケット・シーがいかにもいわくありげなことを言っていたではないか。


「ケット・シーさん、妖精の至宝というのは?」

 いつも美味しい料理を作ってくれるフェレット母さんには、ケット・シーも真面目に答える。なにより、ユリの料理の師匠でもあるというのだ。自然と尊敬の念が湧く。

「その名の通り、妖精の中でもあまり姿を現さない貴重な存在にゃ。いつの間にか住み着いていることもあるにゃが、丁重に扱うと幸運をもたらすと言われているので、手に入れようとする者も多いにゃよ」

 稀有な存在で、手に入れるどころか、会うことすら滅多にないのだという。


「幸運のために手に入れようなんて、可哀想だよ」

 ソウタからしてみれば、「手に入れる」などという発想自体に嫌悪感を覚える。

「ね、自由が一番よね」

 ユリが同意する。猫は狭いところへ自ら潜り込むのは好きだが、他者に閉所に閉じ込められるのは嫌う。


「じゃあさ、ぼくたちといっしょにいたら、フェレット族にまぎれてちょうど良いんじゃない?」

「わたしたち兄弟の数が多いのが目くらましになるということね」

 フェムの提案にフェマが頷く。

「そうねえ」

 フェレット母さんは迷った。


 フェレットよりも細く、一回り小さく、しかしそっくりな姿をしている。フェンが言っていた通り、妖精の至宝とやらは愛らしい。さらには幸運をもたらすと言われているがために、狙われているという。フェレット族はその可愛らしさからかどわかしに合うこともままある。だからこそ、この似た姿をした妖精に庇護欲が沸いた。

「ひとり増えても一緒ね!」

 フェレット母さんの腹は決まった。なにより、どの子供たちよりも小さいということはほんの赤ちゃんのようにも思われたのだ。そんな者を放っておくことはできなかった。


「まずはトムさんに許可を得ましょう」

 なにしろ、フェレット族一家は居候であり、それを許してくれたトムさんは大恩ある妖精だ。彼が首を縦に振らないのなら、どうしようもない。しかし、その懸念はケット・シーが否定した。

「妖精としては、妖精の至宝が居つきたいというのなら、否やはないにゃよ」

 ケット・シーの言うとおり、トムさんはフェレット母さんに連れられた妖精の至宝に、農機具を放り出して飛びあがって驚いたものの、同居は快く受け入れた。


 妖精の至宝を見たケッティもまた、顎が外れるほど驚いた。ワンダフルさんは「言われなくちゃ、増えたって分からないな」とあっさり受け入れていた。

 ソウタとユリ、フェレット族兄弟たちといっしょになっておやつを食べる姿は、もうずいぶん前からいっしょに過ごしているかのようだ。

「違和感ないな」

「まったくだ」

 ワンダフルさんとケッティが言い合う。


「おいしいね」

「キュ!」

「あ、俺のはランランベリーだ」

「あたしのはるりいろベリーよ。ちびちゃんのは? ちがうあじだったら、こっちのもひとくちたべる?」

「キュ」

「ちびちゃんもくれるの?」

「俺のも食べるか?」

「キュ!」

「フェロもあたしの、食べる?」

「うん。じゃあ、取り換えっこだ」

 特に下の兄妹であるフェロとフェンと、それぞれ味が違うおやつの皿を入れ替えて食べている。

 いつも勝手にひと口食べただの事前に断っただのぎゃあぎゃあけんかするのに、小さな妖精の至宝が間に入ったとたん、仲良く過ごしている。フェムとフェマは顔を見合わせてふふと笑い声を漏らした。言葉はなかったが、そのため息まじりの笑い声だけで、いろんな感情がつまっていて、それらを共有した。


 おやつを食べ終えた子供たちは頭を突き合わせて相談した。

「名前を決めなくちゃ」

「この子、フェレットというよりはオコジョ(アーミン)っぽいね」

「ああ、うん、細いし小さいもんな」

「じゃあ、アーミィはどう?」

「それでいい?」

「キュ!」

「いいって!」

「本当かよ!」

「そう言っているもん!」

 フェロとフェンの言い合いが始まった。


「キュ」

 アーミィが片前足をフェロとフェンのそれに順番にちょんちょんと重ねる。それだけで、自分の主張を通そうというふたりの意地の張り合いは薄らいだ。

「小さい」

「かわいい」

 フェロは小さいアーミィを守らなければと決意し、フェンは心から愛でた。


 アーミィはみんなと同じものを食べ、家屋も農場も牧場も好きに出入りした。

「アーミィ、食べられないものはある?」

「キューキュ」

「外から建物の中に入る時は足拭きでしっかり拭うんだよ」

「キュ!」

 子供たちは交互にアーミィにあれこれ教えた。アーミィは彼らの言わんとすることを、よくよく理解している様子だ。特に、末っ子のフェンは一回り小さいアーミィが下の妹のように思えるらしく、可愛がった。その様子はまさしく微笑ましいものだった。


「クッシィが来たら、紹介しよう」

「妖精の至宝なんてすごそうだから、妖精の国の女王さまにも伝えてもらう?」

「そうだね。それが良いと思う」

 そして、クッシィもまた、飛びあがらんばかりに驚いた。

「本当に、妖精の至宝って珍しいのね」

 そんな風にのんびり言い合っていられるのも、妖精の国の女王さまに報告したクッシィが、妖精の国の国王夫妻を連れて来るまでのことだった。





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