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 居間の椅子に座るトムさんの顔色は大分良く、動作もぎこちなさはないように思われた。

「おいらは少し前まで病にかかっていたんだ。その薬のレシピと素材をソウタとユリたちが手に入れてくれた。その知り合いなら歓迎するよ」

「あ、ありがとうございます」

 フェレット母さんは初めて見る妖精にまごつきながらも礼を述べた。

 そのとき、フェロの腹が鳴った。それが呼び水となったのか、フェムやフェンの腹までも鳴る。

 トムさんがにっこり笑う。

「まだ食料はあっただろう? なにか作って食べさせてやると良い」

 フェレット母さんが遠慮する前に、兄弟たちがわっと喜びの声を上げた。


 せめて、自分が作るというフェレット母さんに、ワンダフルさんとニャントロフさんがそれが良いと頷いた。なぜならば、人間の子供くらいの背丈のトムさんに合わせた厨房は、大柄なふたりには使い勝手の悪いものだった。フェレット母さんにはちょうど良く、水を得た魚のようにきびきびと動く。たくさん揃えられた調味料を、好きに使って良いと言われ、フェレット母さんは大喜びだ。


 ワンダフルさんとニャントロフさんはフェレット母さんが選び出した材料を運んだ。フェレット族兄弟は慣れたもので、母さんの指示に従ってちょろちょろ動く。その連携は素晴らしいもので、あっという間に料理が出来上がった。


 トムさんは病気のときだけでなく、ふだんから粥を食べることを好むので、みなとは別に粥を食べた。さじを口に入れたとたん、カッと目を見開き、どんどん食べた。

 すっかりフェレット母さんが作った粥を気に入ったトムさんは自分が丹精した素材をこんなに素晴らしい料理にしてくれるのだから、ここで料理店を開けば良いと言った。


「でも、まず第一に子供たちを飢えさせないことだ」

 食事をする前にフェレット族兄弟が腹を盛大に鳴らしていたのに、元気が良いことだとばかりににこやかにしていた。きっと、子供たちがひもじい思いをしているのはいとうのだろう。

 トムさんは行く当てがないのなら、一家みんなで暮らすと良いと言った。

「わたしが作った野菜や果物、乳製品を使って料理店を開けばいい」

「それ、いい!」

 ユリが真っ先に声を上げる。それで、みな一様にぽかんと口を開けていたフェレット族一家はじわじわと喜びがこみ上げている様子になる。


「土地代として、おいらにまた粥を作っておくれ」

「は、はい」

 フェレット母さんはまだ戸惑いつつも、トムさんにそう返事をした。それは、ひとえに、家族のためであった。その証左に、歓声を上げるフェレット族兄弟を見ながら、ほっと安堵の息をついた。




 フェレット母さんはトムさんに感謝しつつ、このまま好意に甘えていても良いものかと言った。

「よほどフェリィさんの料理が気に入ったんでしょうね。自分が丹精した農産物や酪農物を美味しい料理にしてくれるのが嬉しいんですよ」

 カントさんの言葉に、フェレット母さんははにかんだ。

 カントさんもまた、トムさんが丹精した植物で栄養剤を作ろうというのだから、その思考がよく分かるのだろう。

 カントさんがユリに言った通り、料理の下ごしらえは薬の素材の処理に似通うところが多いのだと知ったフェレット母さんは親近感を抱いた様子だ。


 トムさんは日ごとに元気になり、カントさんの許可が下りると、さっそく農場と牧場の仕事に取り掛かった。壊れた柵の修繕をしていたワンダフルさんとケッティは、トムさんの指示に沿って、改良を加える。

 ソウタやユリ、フェレット族兄弟はトムさんといっしょに家畜の世話や農作業に精を出した。


「みんながいてくれて良かったよ。おいらひとりじゃあ、魔獣に荒らされた後の畑にがっくり来てやる気を失っていたかもしれない」

 トムはそんな風に言いながらも、幼いフェレット族兄弟が他者の我がままひとつで追い出されたこと、それによってこうむった難儀に感じ入っていた。具合の良いことに、トムは彼らの食材を作り出すことができるのだ。気落ちしている場合ではない。だから、フェレット族一家が転がり込んできたのは、お荷物なのではなく、自分を奮い立たせてくれる活力であるのだと思えた。


 子供らが飢えるのは、植物を枯らしてしまうのと同じくらい嫌なものだ。特に、異種族であっても、フェレット族は幼いころはずいぶん小さい身体つきで、ついついたくさん食べさせたくなる。そんな風に思わせる存在が今このとき、自分の元へやって来た。天の配剤というものであり、なんとなく、その幸運をもたらしたのはソウタとユリであるように感じた。


 カントさんはさっそく妖精の素材を使って、妖精のレシピによる栄養剤を作った。フェレット母さんは料理をする傍ら、カントさんの手伝いをした。フェレット母さんもまた、妖精が育てた植物に興味深々である。

 ユリはカントさんが栄養剤を作るのを見て学んだ。そのついでとばかりに、フェレット母さんが料理するのも手伝い、習った。


 柵を修繕し終えたワンダフルさんとケッティはなんと、料理店までも造ってしまった。

「意外と楽しい」

 とはケッティの言だ。

 ケット・シーの村を出て旅をするつもりが、農場妖精の下でフェレット族の営む料理店を造る。まさか、こんなことをするとは思わなかったが、楽しんでいた。

「几帳面なことを要求される作業を、ケット・シーが楽々こなせるとはなあ」

 ワンダフルさんは妙な風に感心したものだ。


 ニャントロフさんは時折やって来ては農場牧場がみるみるうちに活き活きとした姿になるのに、そして新しく建てられたのが料理店だというのに驚いた。

「あちこちで宣伝して来るからねえ」

 そう言ってはワンダフルさんが妖精の国から仕入れてきた品物やカントさんが妖精の素材で作った薬を持ってほくほくとしながら、また行商の旅に出かけて行くのだった。その代金がわりに農場牧場の修繕に必要なものや家具、食器、小物類などの日用品を集めてきた。


「フェマちゃんとユリちゃんとおそろい!」

 女子三人でお揃いの小物をもらい、末っ子のフェンが嬉しそうにした。大人たちは自分が労を費やして手に入れたのだという恩着せがましいことは思いつきもしなかった。家主であるトムがまず、鷹揚に増えた同居者を受け入れたのも大きい。なにより、愛らしい姿の猫族やフェレット族の子供たちがかたまってきゃっきゃと喜んでいるのを見ることができたのが十分な対価となった。


「そうか、宣伝か」

 ユリはニャントロフさんが言い置いていった言葉に考え込んだ。

 そうこうするうち、様子を見に来たクッシィに妖精の国での宣伝を頼み、自身はソウタとともにケット・シーの村に出向いて大いにアピールした。なお、クッシィのお陰で、トムさんの農場牧場にソウタたちやフェレット族一家が同居し始めたことを、妖精たちは料理店とともに認識するようになった。


 そして。

「にゃにゃにゃにゃ!」

「なんにゃ、これ!」

「「「「「面白―い!」」」」」

 なんと、ケット・シーたちが気に入ったのはユリがフェレット母さんに習って作った<サプライズディッシュ>だ。


「店長さんの料理は美味しいにゃ」

「でも、ユリにゃんの料理は奇想天外にゃ!」

「予想不能な味!」

「超刺激的!」

「「「「シェフの気まぐれー!!」」」」




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