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本日、二回目の投稿です。
数日後、大分具合の良くなったトムさんは農場牧場の守護魔法を強化しまわった。そのトムさんにはカンガルー族の薬師カントさんが付き添った。
「病み上がりなんですから無茶しないでくださいね」
カントさんはそんな風に心配したものの、トムさんがなにかする必要はなかった。ケッティの魔法の補強は完璧だったからだ。のんびり過ごす家畜の様子からも分かるように、彼らを怯えさせることなく、魔法がかけられている。
さて、自分のことの次に大切な家畜の安全を確認し終えたトムさんはみなにお礼がしたいと言った。
カントさんは妖精のレシピを妖精の素材でもって薬作成するという得難い経験をさせてもらったからと固辞したが、トムさんは譲らなかった。少し考えたカントさんは妖精が作る植物がほしいと言った。薬の材料にするのだと前のめり気味で言うものだから、トムさんはそういうことならと頷いた。
ニャントロフさんは貯蔵庫の自動でと明かりが灯される魔道具をもらいたいと願い出た。
「でも、それだと過剰請求になっちゃうんだよなあ」
公正で真っ当な商取引をするニャントロフさんは逆にトムさんになにか欲しいものはないかと聞いた。
「それだったら、ソウタに水撒きができるゼンマイ式ハムスターの部品を調達してほしい」
トムさんの言葉にソウタは目を見開いた。耳もぴんと真上に立つ。妖精の国から帰った翌日にした話を覚えていたのだ。
「もうそうなったら、ゼンマイ式じゃなくなっちゃうんじゃないかなあ」
そう言いながらニャントロフさんは部品調達を請け負った。この分では、ゼンマイ式ではない散水に必要な部品の見当をつけていそうである。
慌てたのはソウタだ。
「で、でも、それじゃあ、」
「ソウタ、これはおいらが欲しがっている器具を作ってもらうっていう話だからね。妖精の国まで行ってくれたお礼は他の者同様にするよ」
トムさんが自分が欲しいものをオーダーメイドしてもらうのだからというのに、ソウタは気を引き締めて頷いた。いろんな物を作る機会を与えられたと思うことにしたのだ。
「わたしはここでカントさんが妖精の素材で薬作成するのを見ていたいなあ」
ユリがそんなことを言い出した。
「たしかに、ここには妖精の国とケット・シーの村に繋がる妖精の環があるから、妖精の素材を手に入れるにはうってつけの場所だな」
ワンダフルさんが頷く。そのワンダフルさんとケッティは魔獣の破壊された柵や門などを補修して回った。
妖精の迷子の一件を解決したソウタたちは妖精の国へ自由に出入りができると聞いたニャントロフさんがワンダフルさんに妖精の素材を手に入れてきてほしいとすでに依頼している。
「冒険者ギルドを通しても良いよお」
「ギルドの仕事も定期的にしておかなくては査定に響くからな。そうしてもらうか」
「冒険者ギルドというのはそういうものなのだな」
ニャントロフさんの提案を、しばらくギルドの仕事をしていないワンダフルさんが受け入れ、ケッティが関心を示す。
「あ、そうだ。わたし、ケット・シーが気に入るようなポーションをまた作るから、お礼に別の場所に繋がる妖精の環を作ってもらうのはどう?」
「ユリ、ここはトムさんの家だよ?」
「あ、そっか」
すっかり居つく前提で話を進めるユリにソウタが慌てて諫める。
「構わないよ。おいらだってソウタに便利な道具を作ってもらおうとしているんだし。ソウタたちは女王陛下直々に妖精の友の称号を授けられた。なにより、ここを荒す魔獣をやっつけて、見ず知らずのおいらを助けてくれた」
ここは広いから好きなだけ滞在すると良いという。
「それに、カントは結構な腕の持ち主だから、栄養剤なんかを作ってほしいし」
「栄養剤! 妖精の素材で作った栄養剤で、妖精の農産物を丹精するんですね!」
トムさんの言葉に、カントさんが目をきらきらさせて、両前足を握りしめる。意気込むカントさんに、トムさんも嬉しそうだ。
「カントさんが妖精の素材を使って栄養剤を作って、それで農場妖精のトムさんが植物を育てるのかあ」
「どんどんすごいものが出来上がって行きそうだね」
「わたしにとっては本望です」
「おいらもだよ」
ソウタとユリの言葉に、カントさんとトムさんが片前足と手を握り合う。見事に互いの希望がマッチングした。
「ケッティはどうだ?」
「いったん、ここに腰を落ち着けてから、方々を訪ね歩くのだろう? だったら、わたしはそれで良い」
ワンダフルさんの問いにケッティは淡々と頷いた。
この落ち着いた風情を、ぜひともケット・シーたちは見習ってもらいたい、とユリはこっそり考えた。まるで別種族のようだ。だから、きっと見習ってもどうしようもないのだということはすぐに分かる。
ソウタとユリ、ワンダフルさんは目的がある。トムさんがみんなに礼がしたいと言ってくれたので、ここに好きなときに滞在したいと言い、快く了承された。
旅の大切な目的のひとつ、ロケットの持ち主を探すために、あちこちを旅するニャントロフさんや植物に詳しいカントさんとトムさん、物知りなケッティにも紋章を見せて尋ねたが、誰も知らなかった。
「ただ、これはちょっと特徴的な植物だと思いますよ」
カントさんが言うのに、ソウタとユリは小首を傾げる。
「ほら、花びらが四枚でしょう? 五裂した葉の自生植物群のなかでは珍しいことなんですよ」
「そうなの?」
「葉っぱの形が特徴的で、あまり花の方は気を付けていなかった」
「五裂した葉の自生植物はたいてい花びらは五枚なんです」
「そうなんだ」
「カントさん、詳しいね」
薬師という職業柄、詳しくなったのだという。
「トルメンティルがそうなんですが、これほど内側に抉れるような形の葉は初めて見ます」
カントさんが言うのに、トムさんも気づいていたらしく頷く。
「妖精素材のトルメンティルは【きゅっとすぼめるトルメンティル】と言うが、やはり葉はこんなふうじゃないな」
「じゃあ、そこに手掛かりがあるかもしれないな」
「それに、四枚の花びらね」
「目的意識を持って探せば案外あっさり見つかるものだよお」
ニャントロフさんは注意を払って情報を集めておくと請け負ってくれた。
「ケット・シーは神出鬼没と聞きます。彼らにも尋ねてみたらどうでしょうか?」
カントさんの言葉にユリは渋い顔つきになった。
「逆に引っ掻き回されそうだもん」
ケッティは同族ならばさもありなんと否定することができない。
「面白がられそうだからね。これは信用できる者にしか聞かないことにしているんだ」
ソウタがそう言うと、みなは嬉しそうにした。言外にここにいる者たちは信用できると言ったも同然だからだ。
話がひと段落し、たくさん話して疲れたトムさんは眠った。病み上がりであり、まだ無理はできないと断じたカントさんがしばらく付き添うこととなり、ニャントロフさんは売り物の整理をする。ワンダフルさんとケッティは気が合うらしく、牧場の家畜の様子を見に行った。
ソウタとユリは天気が良さに誘われて外へ出た。
「とうとう行けたね、ケット・シーの村」
プロペラ飛行機に乗って湖を見つけたときは、こんな風になるとは考えもしなかった。
ふたりは仁楊村を出て、湖を目指し、その真ん中にある小島からケット・シーの村へ行った。いったんは引き返すことになったが、フェレット族一家に教わった不思議な農場牧場を訪ねると、そこは妖精トムテの住まいだった。うろつき回る魔獣を退治してみれば、トムテことトムさんは病にかかっており、ワンダフルさんがニャントロフさんとカントさんに助けを求めた。そして、妖精の病を治すレシピを求めて妖精の国へと行ったのだ。
「妖精の国でもいろいろあったね」
「ね。まさか、妖精の迷子が、」
妖精攫いに遭っていたとは。とはいえ、ふたりはフェレット族兄弟から教わったキノコの光る胞子を目印にして迷子(とそのときは思っていた)を見つけ出すことができたのだ。その功績を、なんと妖精の国の女王自身に認められたのだ。
「妖精の国も驚きがいっぱい詰まっていたけれど、なんといってもケット・シーだね」
「うん、まさか、ユリが作ったびっくりポーションシリーズをあんなに気に入るとはね」
「それを言うなら、ソウタのゼンマイ式ハムスターも気に入っていたよ」
「それに、ケッティだよ。ぼくたち、ケット・シーといっしょに旅をするんだよ?」
「ね、すごいよね!」
額を突き合わせるようにして興奮してしゃべっていたふたりは、とうとう笑い出した。気分はとても爽快だった。
青い空に軽やかな笑い声が吸い込まれて行く。
と、そこへ悲鳴が加わる。
「「?!」」
ふたりは笑うのを止めて、目を見開いた。




