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「うーん、ケット・シーだから、ケッティ!」

「よろしくね、ケッティ」

 名前がないというので、ソウタが呼び名を考え、即座にユリが受け入れる。

 ワンダフルは同じようなことがあったなあ、と考えていたが、当の本人は受け入れたので、黙っていた。


 ケッティはほかのケット・シーからカタブツと言われるだけあって、同じ種族とは思えないほど落ち着いていて理性的だった。すぐさま陽気そのもののケット・シーたちと馴染んだソウタとユリはともかく、ワンダフルからすれば、ケッティの気性は旅の同行者にするには好ましい。

「「「「「ケッティ!」」」」」

 ケット・シーたちも順応している。


「妖精の国はクー・シーが守っているのにゃ」

「獰猛な番犬にゃ」

「牛みたいに大きいのにゃ」

「黒いのにゃ」

「えー、すんなり入れないの?」

 ユリが顔をしかめる。

 ケット・シーの村に入るのにも苦労したのだ。今度は妖精の国の番犬だ。


「番犬ということは、クー・シーは犬の姿をした妖精?」

「そうにゃ」

「やつらは食べることがとても好きだから、それで注意を逸らそう」

 ケッティが言うのにソウタとユリは頷きつつ、頼りになると思い始めていた。


「じゃあ、妖精の環(フェアリー・サークル)を潜ろうか」

「うん」

 ユリにソウタが同意した。もっとケット・シーの村を見回りたい気持ちはあるが、トムさんのことがあるからのんびりしてもいられない。


「妖精の国へ行ったら三番目に大きな樹へ行くと良い。多くの知識が詰まっている。そこでなら、君たちが求めるものが手に入るだろう」

「では、はぐれたら、その三番目に大きな樹を各々目指そう」

 ケッティの説明に、ワンダフルさんが言う。


「気を付けてにゃ!」

「がんばるのにゃ!」

「ソウにゃんとユリにゃんなら、ケット・シーの憧れ、トリックスターになれるのにゃ!」

 最後に聞き捨てならない言葉が聞こえたが、問いただしたくても、すでに足はケット・シーたちのステップによって作られた紋様を踏んでいる。

 そして、視界は白濁した。




「「わあ!」」

 丘の頂に立つ巨大な樹木からきらきらと粒子が舞い散っている。

 妖精の国は大きな樹とそれよりも少し背の低い樹を二本、左右に従えていた。その中央の巨木から虹色に輝く粒がまたたきながら飛ぶ。それはあたかも周辺が祝福に満ちているかのようだった。

 まさしくおとぎ話のような光景だ。

 ソウタとユリは歓声を上げてしばらく見とれる。


 妖精の国は木々を中心として広がっており、周辺を丸太の柵でぐるりと覆われているが、守護の魔法が掛かっていて、来訪者は門をくぐるしか入国する手段はないのだとケッティが話す。しかし、その門は見渡す限り分からない。


「うつくしい国だろう?」

「うん! 本当に」

「幻想的だね」

 ケッティがどこか誇らしげに言うのに、ソウタとユリが大いに同意する。けれど、余韻にひたる時間はなかった。

「お出ましだ。うつくしい国の番犬だな」

 ワンダフルさんが身構える。


 どこからか黒い犬が現れていた。

 短い黒い真っすぐな毛並みで体長が長くて肉付きが良く骨太に見える、垂れた耳の犬の姿をしている。そしてなにより、大きかった。仔牛ほどもある。

「クー・シーだ。賢くて野性的、そして戦闘能力が高い」

 ケッティが解説する間にもこちらとの距離を詰めていて、唸る声が聞こえてくるほどになっている。まだ距離があるのにすごい迫力だ。

 ワンダフルさんが武器を持ち、ケッティがステッキをぐっと前へ突きだす。


 戦う必要はあるかとソウタはとっさに考えた。だって、クー・シーはケッティと同じ妖精なのだ。もちろん、入りたいから入れてくださいでは済まないから唸っているのだろう。

 ソウタが必死に考えをめぐらせると、ふとケッティが言っていたことを思い出す。

「待って。食べ物で興味を惹こう」

「なにがいいかな」

 ソウタがふたりを止め、ユリがリュックを下ろして中をのぞきこむ。


 ケット・シーの村へ入れてもらうのだって、ステップを踏んでもらうのだって、彼らの気に入るものを渡して対価にした。だったら、食べ物を渡すことで解決しないだろうか。

 ユリが取り出したのはトムさんが育てた果物だ。

「トムさんが言っていたんだけれど、貯蔵庫に入れておくと長く保管できるんだって」

「ああ、それは農場妖精の魔法が掛かっているんだな」

「「魔法!!」」

 今しもクー・シーが迫っているというのに、ソウタとユリはケッティの言葉に興奮を隠せないでいた。しかし、そのクー・シーはソウタたちの会話を聞いて不思議そうに小首をかしげて見せた。

「農場妖精? それにそちらはケット・シーだな。お前たち、いったいぜんたい、どういった用件でここへ来たんだ? ここは妖精の国だぞ?」


 そこで、ソウタとユリはまず事情を話していないことに気づいた。農場妖精のトムテの病を治すための薬のレシピを知りたいのだと話すと、クー・シーはユリがリュックから出した果物の匂いをしきりに嗅いだ。

「なるほど。たしかにこれは農場妖精のトムテが栽培した果物だ」

 言って、果物をくわえたかと思うと、わっしわっしと咀嚼する。豪快に噛むものだから、鋭い牙がはっきりと見えた。

 ソウタは改めて、こんな牙を持つクー・シーと戦いにならなくて良かったと胸をなでおろした。なぜなら、クー・シーはもう警戒する様子も、ましてや殺気立つ気配もない。


「そういうことなら、妖精の国の両陛下も入国を拒まない。通るが良い」

「「ありがとう!」」

 クー・シーが大きく尾を揺らすと、丸太の柵につたバラが巻き付いたアーチが現れた。あれが門だ。ソウタもユリも教えられずともそうと分かった。

「な、なんだ。あっさりしたものだな」

「いや、そうじゃない。俺たちはクー・シーの殺気に呑まれていた。それで引きずられて戦闘しなくてはならない気になっていたのさ。それを、ソウタとユリが止めてくれたんだ」

 面食らうケッティに、ようやく我を取り戻したワンダフルさんが身震いする。





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