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本日、二回目の投稿です。
念願のケット・シーの村に足を踏み入れたソウタとユリはきょろきょろと見渡す。
小石を積んだ家や丸太を組んだ家、道端には花が咲いていてのどかだ。どこか仁楊村を思い出させた。たんぽぽを見て、いつかユリに差し出して綿毛を飛ばしたなと想起したので、余計にそう思うのかもしれない。
「なんだか、うちの村のような感じね」
ユリもソウタと同じような印象を持ったらしい。もしかすると、ケット・シーたちの家なのだから、妙ちくりんな渦巻き型とかでっかい丸、以上!というようなものを想像していたのかもしれない。しかし、色味も質感も温かみを感じさせるものだ。そして、煙突から煙が出ていて、煮炊きしているのが分かる。
「住んでいるのも猫の姿をした者たちだしな」
ワンダフルさんもそんな風に言う。
「まさか、ケット・シーたちがびっくりポーションシリーズを気に入るとは思わなかった」
ユリがぽつりとこぼす。
激辛だったり激苦だったりするので、飲むと舌や喉が焼け付くようになるし、傷にふりかけると激痛が走る。味方には使えない。さりとてポーションであり回復させてしまうため、敵にも使えない。
つまりはユリは「使えないアイテム」を作ってしまったのだ。しかも妖精の素材という貴重なものを使ったのにだ。さらに言えば、身内のように思い始めているトムさんが丹精した素材を使用して、である。
ユリは落ち込んだ。
しかし、禍福はあざなえる縄のごとし。なにが役に立つかは分からないものである。ケット・シーたちはこのびっくりポーションに価値を見出したのだ。
「本当に変わり者よね」
気にしていたところへ需要があったというのに、ユリはそんな風に評した。
「ユリ」
ソウタがたしなめるように呼ぶ。これからステップを踏んでもらわなくてはならないのだ。
「ああいう性格ケット・シーだから、なかなか妖精の国へ行かせてもらうことができないんだな」
ワンダフルさんがしみじみという。
実はワンダフルもソウタたちと出会う前に門前払いをされた経験がある。そして、妖精の国に行くほかの手段を見出すことができず、冒険者ギルドの依頼達成を果たすことができなかった。唯一の依頼不達成であり、苦い思い出だ。だというのに、今こだわることなくケット・シーの村を歩くことができている。
それは、ケット・シーが言ったように、「同じ妖精のために尽力しているのなら自分たちも協力する」ということだ。ワンダフル単独ならば、「農場妖精の病を治す薬のレシピを得るために妖精の国へ行く」といったような成り行きにはならなかっただろう。ソウタとユリは自然とそうする。それに付き合うのも楽しかった。なにより、ふたりはあのケット・シーたちを夢中にさせたのだ。爽快ではないか。
ケット・シーたちは村の広場のような場所へソウタたちを案内した。
「妖精の国へ跳ぶ環を作ってほしい者にはそれにふさわしいステップを見せてもらうのにゃ」
「躍って見せるのにゃ!」
「ステップ対決にゃ!」
「ソウにゃんとユリにゃんからステップに相当するアイテムをくれたのにゃ」
「なんだなんだ、楽しそうだにゃあ』
話していると、ほかのケット・シーたちが次から次へと集まって来る。
「うわ、どんどん増える」
「みんな、ソウにゃんとユリにゃんのために妖精の国へ跳ぶ環を作るにゃよ!」
そう言って、ふたつ尾を持つ猫の姿の妖精たちは踊り始めた。
彼らのステップはキレッキレだった。柔軟な身体をくねらせ、緩急を駆使した踊りは圧巻だった。
にゃんにゃ、にゃにゃにゃ、にゃんにゃ、にゃにゃにゃ
にゃんにゃ、にゃにゃにゃ、にゃんにゃ、にゃにゃにゃ
にゃにゃにゃにゃ、にゃにゃにゃにゃ、にゃ!
大勢のケット・シーたちがキメポーズを取る。
ソウタもユリも気付いたら拍手していた。隣のワンダフルさんも感心している。見れば、少し離れたところにいてモノクルをしたケット・シーが両前足を叩いていた。
ケット・シーたちはベストを着たり、マントを羽織ったりしている。その猫の妖精もまた、マントを羽織り、ブーツを履いている。けれど、ソウタがおやと思ったのは、片眼鏡をしているところだ。
猫の妖精がモノクル。意外としっくりくる。なんだか知的な感じすらする。
「どうかしたの、ソウタ」
「あのケット・シーを見てよ。モノクルをしている」
「わあ、格好良い!」
「ね!」
ソウタとユリは興奮して少しばかり声が大きくなったのか、モノクルをしたケット・シーがこちらを向いた。ソウタがあいさつをしようと一歩足を前に出したとき、見事なステップを披露したケット・シーが声を掛けてきた。
「どうにゃ、俺たちのステップ!」
「これができてこそのケット・シーなのにゃ!」
どうやら、ソウタとユリが話していたのを聞いていたらしく、あのモノクルをしたケット・シーを見て笑う。
「あいつ、ステップを踏めないにゃよ」
とたんに、ケット・シーたちはにやにやと笑い出す。
「ケット・シーなのに!」
「真面目すぎてステップもカクカクしているのにゃ!」
「せっかく魔力は高いのににゃ」
腹を抱えてげらげら笑い出した。
ソウタははらはらし、ユリは鼻に皺を寄せる。モノクルをしたケット・シーが息を呑む気配がした。ぐう、と喉が鳴る。
ソウタの心臓もぎゅっと掴まれたようになった。
「この村に居場所がなくて出て行こうとしているんにゃろう?」
にやにや笑いながらわざわざ近寄って行って小突くケット・シーに、モノクルをしたケット・シーは軽く受け流す。
「旅に出るの? じゃあ、わたしたちといっしょに行こう」
ユリが突拍子もないことを言い出したが、今度ばかりはソウタは大賛成だ。
「うん、そうしようよ。あ、なにか旅の目的がある?」
そう言って、ソウタが片前足を出すと、モノクルをしたケット・シーはしばらくそれを見つめ、そっと自分の片前足を出して握った。
「にゃふふふん」
ユリはからかっていたケット・シーたちを向いて盛大に鼻で笑う。両前脚を組んで顎を上げ、見せつけるように振る舞う。
「このケット・シーはわたしたちといっしょに行くのよ!」
「えー! ずるいのにゃ」
「ユリにゃんとソウにゃんといっしょに行けば、きっと面白いことが盛りだくさんにゃ!」
ユリが自慢げに言うと、面白いほどケット・シーたちが反応する。
奇しくも、自分と同じことを考えたケット・シーにワンダフルは吹き出した。あれほどとっつきにくいと思っていたケット・シーたちに、今やある種の親しみすら覚えている。
「こんな日が来るとはなあ」
しかも、ケット・シーのひとりは自分たちと同行することとなった。
「これだから、ソウタとユリと旅するのは面白い」
ワンダフルのひとりごとを聞きつけたケット・シーが、またぞろ羨ましいという声を上げる。
ワンダフルはそれを笑っていなす。
「それで、妖精の国へ通じる妖精の環はできたのか?」
「もちろんにゃ!」
ざあ、とケット・シーたちが二手に分かれる。ケット・シーが列をなして作る道の向こう、広場の中央にうっすら輝く紋様ができている。湖の小真ん中の小島にあるのと似ている。
「「わあ!」」
ソウタとユリもそれを見て歓声を上げる。




