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「あれはなんにゃ?!」

「なんにゃなんにゃ」

「すごいのにゃ!」


 すっかりやらかしてしまったと意気消沈していたユリはざわめく声に顔をあげた。

「「わあ!」」

 ソウタとユリの声が揃う。石垣の上にずらりと後ろ足立ちする猫族が立っている。ケット・シーたちだ。

 とうとうソウタとユリはケット・シーの姿を見ることができたのだ。猫族とそう変わらない姿はしかし、決定的に違うのは尾が二本あることだ。面白げにゆらゆら揺れたり、好奇心でぴんとまっすぐにしたりしている。


 ケット・シーたちは軽快に走って行くゼンマイ式ハムスターを注視していた。目線がそれを追う。そして。


「にゃにゃにゃにゃ!」

「っくぅー!」

「からぁぁい!」

「にがぁぁい!」

「「「「「なんにゃ、あれ!」」」」」


 ソウタとユリ、ニャントロフさんとカントさんまで加わって試行錯誤して出来上がった噴霧器を搭載したゼンマイ式ハムスターはその役目をいかんなく発揮した。

 発揮はしたし興味は惹きつけた。しかし、それで妖精の舞踏(フェアリー・ステップ)を踏んでもらえるかということとは別の話である。

「ユリぃ!」

「よりによって、あの仕掛けハムスターを!」

 頭を抱えるふたりに、笑いを咳でごまかしていたワンダフルさんが警戒態勢を取る。


「これ、お前たちが作ったのかにゃ?!」

「「うわっ」」

 いつの間にか、ソウタたちの前にケット・シーたちがずらりと並んでいた。前へ出たひとりの両前足にちんまりとゼンマイ式ハムスターが鎮座している。

「そうだよ!」

 ええい、こうなったら、とばかりにユリは開き直って胸を張る。なんなら、顎を上げてにゃふふふんと言わんばかりである。


「ソウタが作ったゼンマイ式ハムスターに噴霧器を搭載したの」

「「「「「にゃんだってぇ?!」」」」」

 驚くケット・シーたちに気をよくしてユリは説明を続ける。

「そして、農場妖精が育てた素材で作ったポーションを噴霧させたの。その名も、<びっくりポーション>シリーズよ!」


 びっくりシリーズの野菜を使用したところ、みょうちくりんなポーションができたのでユリはそう名付けた。

<びっくりポーション>は怪我を治す。<びっくりマジックポーション>は魔力を回復する。<びっくりスタミナポーション>は体力を取り戻す。しかし、とんでもなく辛かったり苦かったりするのだ。


 だから、ソウタもユリもこちらを搭載したハムスターを走らせたと知ったとき、頭を抱えた。だというのに、ケット・シーたちは喜んだのだ。

「「「「「すごーい!」」」」」

 ケット・シーたちはきらきらした目でソウタとユリを注視する。


「<びっくりマジックポーション>には、沈黙という魔法を使えない状態の回復や耐性の効果もついているにゃよ」

「え、そうなの?」

 一番前にいるケット・シーが言うのに、今度はユリが驚く。

「へえ、そんな効果までついているのね。さすがはトムさん」

「実は、その農場妖精のトムテが病にかかってな」

 ケット・シーたちが興味を持つどころか尊敬している風ですらあるのを見て取ったワンダフルさんがここぞとばかりに用件を切り出した。


 トムテの病を治す薬のレシピを得るために妖精の国へ行きたいのだと言うと、ケット・シーたちは跳びあがった。

「それを早く言うのにゃよ」

「同胞を助けるために妖精の国へ行くのにゃら、もちろんステップを踏むにゃよ」

「なによ、この間は話を聞かずに断ったくせに」

 口々に言うケット・シーたちにユリが頬を膨らませる。


「まあまあ、ユリにゃん。そう言わないで」

「誰がユリにゃんよ。変な風に呼ばないで」

「まあまあ、ユリにゃん。そう言わないで」

 ユリは早々に馴染んでいる。


 小気味よくやり取りされるのを傍観していたら、ゼンマイ式ハムスターを両前足に載せたケット・シーがぐいとソウタに突き付ける。

「ソウにゃん、これ、ちょうだい!」

 あれ、自分もなの、とちょっぴり驚きつつ、ソウタは快諾する。だって、あのケット・シーたちを驚かせ、欲しいと思わせるものを作り出すことができたのだ。

「ほかに、<びっくりポーション>とか<びっくりスタミナポーション>とかもあるよ。ケット・シーたちは魔力が高いと聞いたから、今回は<びっくりマジックポーション>を搭載してみたんだ」

 本当に使うとは思わなかったけれど、とソウタは心の中で付け加える。


「へえ、いろいろあるのにゃね」

「どうやってセットするのにゃ?」

「全部試してみたいのにゃ!」

 ソウタが試しに<びっくりスタミナポーション>の小瓶を取り出して噴霧器に中身を注ぐ。ケット・シーたちは我も我もとばかりに覗き込もうとする。ぎゅう詰めでソウタは息苦しくなった。


 ケット・シーたちはさっそく試してみて、<びっくりスタミナポーション>には活性化効果が付与されていると教えてくれた。<びっくりポーション>も試用し、痛みや炎症を和らげる効果があるということまで突き止めた。


「ソウタよ、これはすごいものを作り出したかもしれないぞ」

 ワンダフルさんが両前脚を組んで唸った。

「どういうこと?」

「ソウタやユリは前線に出ないが、後ろからポーションの支援が可能になったということだ」

「あ、そっか」

 ソウタはびっくりポーションシリーズを搭載することばかりを考えていたが、ふつうのポーションを使用しても良いのだ。


「もしかして、ニャントロフさんやカントさんはこのことを見越して噴霧器を載っけることを提案したのかな?」

 遅ればせながらソウタが認識し、ユリがあっと気づく。

「そうだろうな」


 噴霧器というものをニャントロフとカントが知っていたものの、それを小型化してさらにゼンマイ式ハムスターに搭載するということを可能にしたのはやはりソウタの能力があらばこそだろう。あのふたりもまた、まさか実際にこうまで効果をしっかり発揮するとは予想だにしなかったに違いない。しかも、ユリが作りだしたポーションシリーズがまたシチュエーションにハマれば非常に役に立つ代物だ。


「そうしたら、ぼくたちもワンダフルさんの支援がもっとできるようになるね!」

「怪我が治っても体力が落ちたら効率が低下するからな」

 クロスボウで相手の動きを阻害するだけでなく、ワンダフルさんの回復の助けになるとソウタモユリも手放しで喜んだ。


「ユリにゃん、もっとびっくりポーションシリーズをほしいにゃよ!」

「お代はいくらかにゃ?」

「それはもちろん、妖精の環(フェアリー・サークル)よ」

 ケット・シーたちに期待たっぷりの様態で詰め寄られて一瞬たじたじになったユリはなんとか踏みとどまる。ちゃんと当初の目的を思い出す。

 ケット・シーたちはそろって腕組みして右へ首をかしげて「うにゃーん」、左へ首をかしげて「うなーん」と唸った。そろった動作に、ソウタはこの調子で妖精の舞踏(フェアリー・ステップ)も見事なのだろうなと漠然と考えた。


「こんなすごいものをもらうのにゃから」

「妖精の国へ行く妖精の環(フェアリー・サークル)だけじゃ、間尺に合わないのにゃ」

「どうするかにゃ」

 そうして、ケット・シーたちはトムテの農場と牧場にケット・シーの村と妖精の国へ繋がる妖精の環(フェアリー・サークル)をふたつ作ることを約束した。


「ひとつはソウにゃんのゼンマイ式ハムスターのお代にゃ」

「もうひとつはユリにゃんのびっくりポーションシリーズのお代にゃ」

 ユリは妖精の国はともかく、ケット・シーの村に通じる妖精の環(フェアリー・サークル)はいらないのではないかと思ったが、口をつぐんでおいた。






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