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本日、二回目の投稿です。
「まだ妖精の環が残っていると良いんだけれど」
あれからなんどか雨が降ったから、湖の真ん中の小島の紋様が消えてしまっていないか、ソウタとユリは少しばかり不安になった。
ソウタとユリはワンダフルさんとともにもう一度ケット・シーたちの村を訪ねようとしていた。
カントさんがトムさんの素材を用いて作った薬は、多少は効いた。
「しかし、小康状態を保っているに過ぎません」
カントさんは両前脚を組んで難しい表情を浮かべた。
「妖精の国へ行って農場妖精の病に効く薬のレシピを教えてもらうしかないなあ」
ニャントロフさんの言葉にソウタとユリは顔を見あわせた。
「妖精の国!」
「ケット・シーの妖精の環!」
「おや、知っていたのかあ。じゃあ、話は早いや」
ふたりが声を上げるのに、ニャントロフさんがにんまり笑う。
「それがその、」
「わたしたち、門前払いされたの」
まさしく、村に入るどころか、ケット・シーの姿を見ることすら叶わなかったのだ。ニャントロフさんがさもありなんと尾を垂れさせる。
「ケット・シーは難しい取引相手だよお。気に入ったものを渡すことができたら素晴らしいものを得られる」
でも、なにを気に入るかは分からないのだという。
「ソウタのゼンマイ式ハムスターがあればなあ」
「作れないのお?」
部品がないと言うと、なんとニャントロフさんはなにが必要かを聞くと、魔法のように背負い袋から取り出した。
「え? え?!」
「すごーい、たくさん出て来る!」
「にゃはははは。あたしは何でも屋だからねえ!」
ニャントロフが取り出す品々に、ソウタとユリは頭を左右に振って覗き見ながら感心する。ちいさなまろやかな頭の上の耳がぴんと立っている。ニャントロフは得意げである。そんな猫族たちを眺めながらワンダフルさんとカントさんがこそこそと話し合う。
「ソウタとユリはすごいな。あのニャントロフに気に入られるとは」
「ソウタ君もユリ君も無邪気で他者のために懸命になれる方々ですから」
さて、代金を支払う段になって、ニャントロフさんはにんまり笑った。
「これはトムさんの薬を手に入れるための先行投資だよお」
トムさんからもらうというニャントロフさんに、結局ふたりは言いくるめられる。他者の前にめったに姿を現さない妖精から、抱え込んだ素材を好きに使って良いと言われたソウタとユリだ。ふたりのため、ひいてはトムテ自身のために渡したと言えば、それなりの報酬をもらえるだろうと踏んだのだ。そんな風に自分に言い訳しつつ、ニャントロフは同族であるソウタとユリのことを気に入り始めていた。
そして、ソウタが作るゼンマイ式ハムスターを見て、確信する。
「ソウタ、これ、あたしにも作って卸してよお! これは売れるよお!」
「そうでしょう? きっと、ケット・シーも気に入るよね?」
ソウタがゼンマイ式ハムスターを作る間、カントさんに教わってポーションを作っていたユリがニャントロフさんの声に勢いよく振り返る。
さて、ユリが作ったポーションはと言えば、カントさんが両前足を組みながら首を傾げたものだ。
「ユリ君、このポーションは使いどころを考えた方が良いですね」
「というと?」
「それが、」
「じゃあ、こういうのはどう?」
ニャントロフさんが尋ねるのにユリが言いにくそうに説明し、ソウタが閃いた。猫族三人とカンガルー族はああだこうだ言いながら新たな仕掛けに取り掛かる。
ワンダフルさんは一連の出来事を、やっぱり面白いなあ、と眺めていたのだった。
そんなこんなで、三人はふたたびケット・シーの村へやって来た。
「妖精の環が残っていて良かったね」
「そうだね。今度こそは村に入る!」
「目的は妖精の国へ行ってトムテの病を治す薬のレシピを聞くことだからな」
ケット・シーの村に入ることは序の口である。
石垣の真ん中の木の扉を叩く。しばらくするとあの時と同じように「なんの用にゃ?」とケット・シーの声がした。
妖精の国へ行きたいと伝えると、やはり「妖精の舞踏を踏める気持ちにさせろ」と言う。
「いいわよ。これをとくと見なさい!」
言って、ユリは改良版ゼンマイ式ハムスターを片前足に持って高々と掲げた。
「ん? え、あれ? ユリ、そっちじゃないよ!」
「へ?」
しかし、ソウタの制止は遅かった。
ユリの片前足から放たれたゼンマイ式ハムスターはしゃーっと走って行った。
「ああー」
「も、もしかして、あれって」
「うん、そう。ユリのポーションを搭載した方」
「ど、どうしよう!」
あちゃあと顔をしかめるソウタに、ユリは先ほどの自信満々の様子はどこへやらおろおろする。ワンダフルさんは肩を震わせてかろうじて笑いをこらえていた。
ユリはカントさんにポーションの作り方を教わった。せっかくだから、トムさんが育てた素材を使ってみようとなった。
「これがいい!」
「え、でも、これは、」
カントさんが二の足を踏んだのもそのはず、ユリが喜々として選んだのはびっくりシリーズと呼ばれる妖精の野菜だったのだ。
【びっくりショウガ】は体中がほてってくるくらい辛い。
【びっくりシブガキ】は驚愕の渋い柿。
【びっくりピーマン】は苦虫をかみつぶしたような顔になってしまうピーマン。
【びっくりワサビ】は涙で前が見えなくなるほど辛いワサビ。
カントさんの口から次々に語られることに、ユリは感心し、ソウタは青くなった。
「ユリ、それを使うの?」
「もちろん! アイテム玉だって<ビリビリ玉>みたいな刺激的なものがあるじゃない。トムさんが育てた妖精の野菜で作ったらどんな効果が現れるかな!」
浮き浮きするユリを、誰も止めることができなかった。
さて、この世には魔力というものが存在する。ポーションは傷薬だけでなく、魔力や体力といった身体の調子を整えるものもある。中には状態異常を回復する優れものもある。
ユリはびっくりシリーズの妖精の野菜を組み合わせて、ふつうのポーションではなく、びっくりなポーションを作りだしたのだ。
そして、そのびっくりなポーションを噴霧させる仕組みを作った。
なにに?
今、ユリの片前足から飛び出して行ったゼンマイ式ハムスターに組み込んだのだ。




