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翌日、すっかり仲良くなったフェレット族の兄弟たちに、キノコ採りに誘われ、急ぐ旅でもないからと連いて行くことになった。ワンダフルさんは街で情報収集をするという。
「冒険者ギルドもあるらしいから、顔を出して来る」
口に出して言わないが、子供が出入りしない場所にも行くのだろう。
フェレット族の兄弟に案内されて、近くに広がる森に入る。
森は細い幹が無数に並ぶ間に、黄緑色の葉が陽の光を受け、やさしい色合いの空間となっていた。足下には青紫色の花がたくさん咲いていて、ずっと向こうにまで続いている。あちら側の小花は草の緑色といっしょにかすんでしまって、とてもうつくしい光景だ。
「ユリちゃんの瞳の色とそっくりね」
そう言うフェマはユリを見てすぐにこの森のことを思い出し、連れてきたかったのだと笑う。
こんなにきれいなものと比較されたユリは嬉しくなって、フェマといっしょにくすくすと笑った。
それを聞いていたソウタが気負いなく「本当だね」と言ってにっこりしたものだから、ユリはぷいと熱くなった顔をそむけた。こういうとき、毛並みが白いと赤くなっているのがすぐにバレてしまうのだ。
ソウタは後でフェマから「ソウタ君って天然だね」と言われた。
「見て、ユリちゃん、このキノコはね、洞窟の中に持って行くと便利なんだよ」
フェマがとあるキノコを見つけてユリを呼んだ。
「どれ?」
「洞窟の中に持って行くの?」
ユリとともにソウタもフェマが指し示すキノコを覗き込む。真っすぐに伸びた柄も、その先についた半球型の傘も真っ白だ。
「暗い所で落ちた胞子がぼんやり光るんだ」
「すっごい便利! 迷わずに済むね」
フェムもやって来て説明する。ユリが目を見開いて感心する。
「でしょう? ランプ茸って呼ばれているの」
フェマがにっこりしながらソウタとユリを見渡す。
そうやってふたりがキノコについて有益な情報を得ていると、近くで兄妹げんかが勃発していた。
「ちょっと、なにするのよ!」
「へへん」
フェロはやんちゃで最年少のフェンとよくじゃれ合っている。
「よせよ」
フェロとフェンは止めようとするフェムの周りをぐるぐると回り始めたかと思うと、いつの間にかくんずほぐれつ、長い身体を絡まり合わせている。興奮が高まると、かぱっと口を開けて鋭い牙を見せる。
「やめなさいってば!」
フェマはフェムのすぐ下の妹でしっかりした印象だ。ただし、フェロとフェンの勢いに呑まれ、いっしょになってひとかたまりの毛玉となることもある。短い両前足で相手の胴体をきゅっと掴むとふわふわの毛にうずもれる。喧嘩していてもどこか可愛らしい。
「フェムは良いお兄ちゃんだな」
「そう?」
「うん。ちょっと、だいぶん、弟や妹に押され気味だけれど、よく面倒を見ているね」
ソウタに褒められ、への字口を緩めたフェムは、ユリの言葉にしょんと頭を下げた。
「お母さんはさ、自分の子供がお腹にいるときに、亡くなっちゃったらしくてさ。それで、身寄りのないぼくたちを引き取ってくれたんだ。だから、ぼくががんばらなくちゃ!」
フェロとフェンもはしゃぐときもあるが、そろそろ落ち着いてくるだろうから、自分が働いて家族を支えるのだと意気込んでいる。
「偉いなあ」
「うん。本当に」
ソウタとユリが感心すると、フェムは照れたように「そうでもないよ」と言って、別の話題を持ち出した。
「街から少し行った所に農場と牧場があってね」
フェムが話し出すと、弟妹たちもじゃれ合いを止めて会話に加わる。
「そこへ行ったら、人がいないのに、チーズとかハムとか卵とかが置いてあるのよ」
「無人販売所ってやつ?」
「そうそう、それそれ!」
「やさいとかね、くだものもあるのよ」
フェマの言葉にソウタが補足すると、フェロとフェンが我も我もと話す。
フェレット族兄弟のお母さんは料理のメニュー選定も任されるようになり、品質の良い素材を探していたところ、その販売所を見つけたのだという。
「でも、いつ行っても誰もいないの」
「あたし、ようせいをみた!」
姉のフェマに妹のフェンが片前足を挙げる。
「そんなのいないよ!」
すかさずやんちゃなフェロが茶々を入れる。
「ほんとうだよ。みたんだってば!」
「妖精なんていないやい!」
むきになるフェンに、フェロがせせら笑う。
「兄さんは聖なる山に登ったんでしょう? どうだった? ケット・シーを見た?」
「いや、いなかったよ」
成獣の儀が執り行われた洞窟は聖なる山にあり、街のすぐ傍だ。けれど、滅多なことでは近づかないのだという。
「ほら! ケット・シーなんて伝説だよ。妖精なんていやしないんだ」
「なによぅ」
兄姉のやり取りを見てフェロが顎を上げ、フェンがきゅっとへの字口を急角度にする。
妖精はいる。少なくとも猫の姿の妖精は。残念ながら、ソウタもユリも声を聞いただけでまだその姿を見ることはできないでいるが。
「美味しいバターにチーズかあ」
「ね、場所を教えてもらって、行ってみない?」
ソウタたちが自分たちの街を出て行くなんて発想がすっぽ抜けていたフェムの弟妹たちは、ワンダフルさんと合流した後、騒ぎ出した。そのため、もう一泊させてもらうことになった。せめて、泊めてもらうお礼にとあれこれ食料を買い込んだ。自分たちが持って行くものも買うからついででもある。
「フェレット母さんは料理上手だから、みんなで美味しく食べられるしね」
「うん。美味しいものをたくさん食べて欲しいものね」
おそらく、フェムは元気いっぱいの弟妹たちにひもじい思いをさせたくなくて、早々と成獣の儀を受けて働こうとしているのだ。
長いからだをくねらせてじゃれ合い、疲れたら体温を分け合うようにくっついて眠る安らかな寝顔を見ていると、フェムの気持ちが分かる気がする。
だから、ワンダフルさんが農場牧場のある方面で魔獣の姿を見かけたから気を付けろという情報を掴んできたのだと聞いても、行ってみることにした。
「フェレット母さんの仕入れができなかったら困るもの」
「そうだね」
ふたりはクロスボウやアイテム玉をすぐに使えるように準備を整えた。
ワンダフルさんは「どうもグレイウルフという魔獣のようだから、なんとかなるだろう」と泰然としていた。
石を積み上げた温かみのある家屋。オレンジ色の屋根材は所々苔むして緑色になっていて、カラフルで可愛い。家屋の片側に細長く高いイトスギが二本植えられている。
その家屋を中心として広がる農場と牧場とを囲む柵のあちこちは破壊されていた。
「ひどい」
ユリが小さくつぶやくのに、ソウタはかすかに頷いて見せる。
キノコ採取をした森を抜けた先に野原があり、少し小高くなった場所に牧場と農場はあった。しかし、その姿が見えたかどうかという位置でワンダフルさんが足を止める。
「魔獣がいるな。複数だ。農場と牧場に入り込んでいる」
ソウタとユリははっと息を呑んだ。農場と牧場には販売所があるというのだから、誰かが営んでいる。その誰かは無事なのだろうか。
青くなるふたりにここで待つように言い含めて、ワンダフルさんは偵察に出かけて行った。ふたりは近くの樹に上り、様子を眺めたところ、農場と牧場の柵が壊されているのを認めた。古くなって壊れてしまうのとは違って、暴力で荒々しく破壊された跡というのは見るに堪えない。
「畑も荒されちゃっているかな」
「家畜とかは、」
魔獣というのは、知能が低いものもいれば、頭が良いものもいる。けれど総じて好戦的ですぐに襲い掛かって来て、共存できるような存在ではない。ワンダフルさんはそんな魔獣が複数おり、入り込んでいるという。だとすれば、家畜は食料にされてしまっているかもしれない。
ソウタとユリは声には出さなかったが、農場と牧場を営んでいる者たちがどうなったかがとても心配になってしかたがない。そして、偵察に行ったワンダフルさんのことも。
しかし、それは杞憂というものだった。
「あっ、あれ!」
「ワンダフルさんだ!」
どこから入り込んだのか、ふたりが見守る中、ワンダフルさんは農場の方から出てきた。その後を、灰色の獣が追いかける。
「「ああっ!」」
追いつかれる! ふたりの声がそろう。
しかし、灰色の獣が弾かれたように後ろに跳ぶ。ワンダフルさんは弧を描くようになめらかに方向転換して、横合いから灰色の獣に切りかかる。
「いつの間に」
「ね、いつ剣を抜いたのかな」
鋼の刃が陽光をはじくと、灰色の獣はその場に倒れ伏した。ワンダフルさんはその獣の様子を見た後、ふたりの方を見て片前足を高く掲げた。
「呼ばれている」
「行こう」




