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「そうか。だから、フェムは母御を助けるために働きたくて成獣の儀を早めにすることにしたんだな」
ワンダフルさんの発言に、ソウタとユリはようやっと疑問が解消された気がした。
ふたりとそう変わらない年齢のフェムが早々と成獣の儀を行ったこと、働きたいと言っていたこと、それは何人かいる子供たちを養うために働く母親を助けるためだったのだ。
「そうなんだ。じゃあ、ぼくたちも成獣の儀を手伝うよ」
「そうと決まれば」
ソウタの言葉に頷いたユリが残りのサンドイッチを口の中に押し込む。
「決まればって、」
会ったばかりのふたりが手伝うというのに、フェムは戸惑う。ワンダフルさんが笑ってその背中を撫でる。
「成獣の儀は独力でなさなければならないという規則はあるのか?」
「ううん、聞いたことはないけれど」
「じゃあ、いっしょに行っても構わんだろう」
「聖なる山」に登って暗く冷たい洞窟の奥まで行き、さらに謎解きをしなければならなないと聞いていたフェムはほっと安堵する。ふだん、弟妹に囲まれてにぎやかに暮らしているから、たったひとりで見知らぬ景色、見知らぬ匂い、そしてしんと静まった場所にいるのが不安でたまらなかったのだ。
食事を摂る短い間にほとんど乾いた撥水布のマントを畳んでリュックにしまったソウタたちは、代わりにランプを取り出して灯りをともし、洞窟の奥へ向かった。
フェムはたいまつを持っていたのだが、うっかり落としてしまい、火が消えてしまったのだという。
「へえ。フェレット族は小さいころは四つん這いになって過ごすことが多いんだ」
そして身体は獣のフェレットに似て小さく、成獣に近づくにつれてぐんと大きくなり、後ろ足立ちするようになるのだという。
「それでね、弟と妹たちがじゃれあっているときなんか、すごいんだよ」
「ああ、身体が長いもんね」
「猫族もじゃれあっていると大きなひとつの毛玉になるよ」
「うんうん。ぼくたちもそんな感じ」
ワンダフルさんを先頭に、三人はすっかり打ち解け合って、ほとんどピクニックのような雰囲気だ。
獣人は子供のころはとても愛らしい姿をしているので、警戒心を抱かせにくいのだ。フェムは成獣の儀を受けるというが、まだ子供でようやく後ろ足立ちしたばかり、という様子だ。
フェム一家の暮らす集落ではいろんな獣人が集まる街なのだそうだ。
「フェレット族は小柄だし、四肢も短いんだけれど、母さんは料理上手でね」
「へえ、食べてみたいなあ」
「わたしたちの村の駄菓子屋さんも、おかみさんたちが作ったおやつが集まって来るの」
「だから日替わりなんだよ」
「サプライズおやつなんだね」
なにがあるか駄菓子屋に行ってみないと分からない、お楽しみのおやつだとフェムが言う。ソウタとユリは顔を見合わせて「なんだかそう言うと格好良いね」と笑った。
そんな風に話していると、すぐに行き止まりにたどり着いた。
「祭壇のようなものはないな」
「え、本当?」
フェムは不安そうにワンダフルさんの背後から奥を見やる。
「この辺りを調べてみよう」
ソウタの言に従ってみなが洞窟の壁を調べる。
「ここに溝があるな。自然に出来たものではない」
「どこ?」
「どれ?」
ワンダフルさんが指し示す場所を、ソウタたち三人は伸びあがって見上げる。
「ううん、さすがは成獣の儀だけあって、高いところにある」
「でも、小柄な種族だってみんなここに来るんでしょう?」
ワンダフルさんが見つけた溝をなんとか確認したところ、数本横に長く刻まれ、それぞれ端に石が嵌っている。
「さわってみる?」
「やっぱりここはフェムがやるべき?」
ソウタとユリに見られ、フェムは一瞬たじろいだが、意を決して一歩前へ出た。伸びあがって石を押してみる。だが、なにも起こらない。
ぱっと離した片前足で、ふたたび慎重に石に触れ、押したり引いたりしてみる。
「あ、これ、動くよ。ほら、溝に沿って」
「ねえ、この石、形が同じ物がいくつかあるよ」
ユリの言うとおり大きい丸、小さい丸、楕円、四角と四通りの石がそれぞれ数個ずつある。
「ということは、これを規則に従って動かせば良いということかな」
ワンダフルさんに、ソウタたちはきっとそうだと頷いた。
「フェム、なにかある? 成獣の儀で必要とされていることだと思うよ」
「ううん、そうだなあ。あ、フェレット族の紋章だ!」
言って、フェムは真ん中の溝の端にある大きい丸を中央に移動させる。続いて、一番外側の上下ふたつの溝に楕円を、移動させる。上はほとんど向こう岸に。下は少しだけ動かす。
上から二番目と下から二番目のそれぞれの溝の小さい丸を中央から少しずらして配置する。
フェレット族の指は細長く五本あり、器用に石をつまんで動かすことができた。
「四角は動かさないの?」
「うん、これでいいんだ」
フェムがソウタに答えたとたん、ずずずと音がして、洞窟の行き止まりの岩壁の一部が突き出て来る。
「「「わあ!」」」
ソウタたちは思わず声を上げた。じつに冒険らしい不思議な仕掛けに、少年少女は興奮する。ソウタもユリもフェムの手伝いをするつもりでいたが、いつの間にかすっかりケット・シーたちに拒絶されたいやな気持を忘れ去っていた。
ワンダフルさんがランプを近づけると、そこには研磨されたプレートのようなものが出現している。
「中央がくぼんでいるな」
「あ、そうだ。きっとここに片前足を置くんだ」
「成獣の儀のお作法?」
フェムが思い出したように声を上げ、ユリがたずねる。
「うん」
ふたりのやり取りを聞きながら、ソウタはどんな仕組みなのか知りたくてうずうずした。でも、部外者の自分が勝手に溝の石を動かすことはできない。第一、今はフェムの成獣の儀の真っ最中だ。
フェムがぺたんと片前足をプレートに当てる。細長くくっきりと別れた五本指のついた片前足はくぼみに対してずいぶん小さい。
それでも、プレートは反応を見せた。
「「「わわっ」」」
うっすらとプレートが光った。それは黄味がかった緑色で温かくやわらかくやさしい色あいだった。
と、プレートが出現したときとは比べ物にならない程の重く大きい音が響いた。ゴゴゴともズゴゴともつかぬ音がしばらく腹を震わせる。
ソウタとユリは思わずワンダフルさんにしがみついたが、プレートに片前足をくっつけるフェムはそうもいかない。ソウタとユリを不安そうに振り返ったフェムに、ふたりはすぐさま駆け寄って両脇についた。三人の様子を、ワンダフルさんが笑いをかみ殺しながら眺めている。
プレートのすぐ傍の岩がぱっかりと割れた。
「「「わあ!!」」」
そこは光に満ち溢れていた。プレートと同じ黄緑色のやさしい光だ。
「どういう仕組み?」
「光ゴケじゃない?」
「まぶしい!」
「ほら、三人とも、祭壇だ」
ワンダフルさんの声に口を開けた岩の奥を見れば、徐々にやわらかな緑色の光はうすまっていき、やがてきれいに磨かれた石室と、その中央に台座があった。




