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 ソウタとユリは初め、両親にはロケットの持ち主を探すことは家族には黙っておいて、ただワンダフルさんについて旅に出るとだけ言おうとした。

 しかしそれにはおばあちゃんと村長が反対した。

「でも、ひみつを知る者が増えると危険じゃない?」

「たとえそうだとしても、大切なお子さんのご両親やご家族にちゃんと筋を通すのが第一ですよ」

「おまえたちがどうして旅に出るようになったのか、それには危険がつきまとう可能性があることをしっかり説明しておいで」

 家族を説き伏せることができないでいて、どうやって隠れている者を探し出せるものか、とおばあちゃんと村長が言う。


「「旅はまだ早い!」」

 ソウタもユリも家族の説得に手こずった。


「うちはさあ、おじいちゃんが手ごわいの」

 ひとり娘ならぬひとり孫娘をかわいがっているユリのおじいちゃんはゆくゆくは旅に出るとしてもまだ早いと猛反対しているのだという。

「うちはお母さんかなあ」

 ふたりはため息をつきつつ、それぞれゼンマイ式ハムスターやアイテム玉をせっせと作っていた。


 ソウタのゼンマイ式おもちゃはついに道具屋さんの棚に登場し、瞬く間に好評を博した。

 途中で動きが変わるような仕組みを組みこんでみた。子供だけでなく大人も買って行く。本能が追いかけたくなるのだとか。


 ソウタはこれで魔獣をおびきよせ、わなを仕掛け、ユリが作ったアイテムとのコンボで捉えるという狩りをしようと話した。

「準備さえ整えれば、力がないぼくでも狩りができる。そういうものさ」

 状況を整える。勝負に勝つにはこれが重要だ。


 ふたりでせっせとものづくりをしていたら、同年代の少年たちにからかわれる。猫族だったら、その身体能力を活かした狩りをしろ、とはやしたてられた。

「俺はいつか、猫又になってやるぜ!」

「おお、お前ならなれるよ!」

「だな。俺たちの世代でもダントツだもんな」


 ワンダフルさんの身体能力を見ていたソウタとユリはこういうのを井の中の蛙なんだなあとこっそり考える。いくら優れた能力を持って生まれたものでも、実践を積んだものとは比較にならない。鍛えなければ宝の持ち腐れというものである。

 さらにいえば、ワンダフルさんいわく、猫の獣人は猫又にはなれない。なんだかそんな風に考えると、同級生たちが可哀想にも思えてきた。


 もしかしたら、同級生たちはユリが旅に出ようとしているのを聞きつけてちょっかいをかけてきているのかもしれない。

 ユリは魅力的だし才能もある。村でも十分に暮らしていける。危険な旅につき合わせない方がいいだろうか。しかし、ソウタはそんなことは言い出せないでいた。ユリもいっしょに旅するのが嬉しいからだ。

 ユリは最近どんどん女の子らしくなっている。たまに、どきっとすることがある。そして思う。いつまでもこんな風にふたりいっしょに過ごしていられるものでもない。そう考えるととてもさみしい。だから、ユリが自分も行くと言ってくれて良かった。




 ユリはときおりあのフライトを思い出す。

 空にいる究極の自由。ひとりなら怖かったかもしれないけれど、そうではない。後ろにソウタがいる。


 高さは力だとソウタは言った。地面が引っ張る力はその距離と比例して強くなる。ソウタは物知りだ。きっともっと世界について知りたいから旅をするのだ。


 野原にぽつんと出来たプロペラ飛行機の影。とても小さかった。ユリとソウタもきっと世界ではそんなものだろう。小さな小さな存在だ。だから、自分から動いて自分たちの生きる世界を知ろうとするのだ。


 ソウタはゼンマイ式おもちゃが大ヒットしたから、旅に出る防具品としてお揃いの撥水布はっすいふのマントを買った。お揃いだと言った口で「ワンダフルさんにもプレゼントしよう」なんて発言する。まったくもう。でも、このマントは水をはじくし、軽くて温かく汚れにくい。ワンダフルさんも喜ぶだろう。


 自分だけにやさしいのではないのがちょっぴり歯がゆいけれど、でも、それがソウタだ。

 自分は大切にしてもらいたいのに、他者を大事にしない者は案外多い。だから、自然とそうできるソウタはすごいと思う。




 村長が道中手形つうこうきょかしょうを発行し、駄菓子屋のおばあちゃんは紹介状の他、路銀をくれた。遠慮するふたりにおばあちゃんは「必ず無事で帰って来てね。またふたりがおやつを食べに来るのを待っているわ」と言ったのでなんだか胸がいっぱいになって結局ありがたく受け取っておいた。

 その段になってようやく家族から許可をもらうことができた。


 ふたりが旅に出るという噂が村のあちこちでされるようになった。

 村のいろんな者からあれこれもらった。マリコさんやミッチーさんはわざわざ日持ちするお菓子を作ってくれた。


 同級生たちからも餞別せんべつをもらった。

「気を付けろよ」

「ちゃんと帰ってこいよ」

「寂しくなるな」

「ふん、ソウタなんかいてもいなくてもいっしょだよ。いっつも魔道具ばかりいじっているんだもん」

「でもさ、ユリがいなくなったら静かになるよ」

「そうだな。じゃあ、まあ、早く戻ってきてもいいよ」

 けなしているのか、別れを惜しんでいるのか。


 知り合いの子供たちは硬い木の実をくれた。ソウタが作ったクロスボウの弾にするのだ。殻が硬すぎてすり鉢で砕くのがタイヘンだからくれたというのもある。

 ともかく、ふたりのかばんはもらった薬やアイテム、食料などでぱんぱんになった。


 ソウタとユリの両親や家族もあれもこれもと持って行かせようとする。

「そんなに入らないよ!」

 いざ旅立とうとする子供が旅ごしらえを済ませた姿に、心配で涙ぐむ母親の肩を父親がさする。大丈夫だよ。笑顔で送りだしてあげよう、と言うふうに。


 ソウタとユリはそのことを知らず、これから始まる冒険に期待に胸膨らませてきゃっきゃとはしゃいでいる。

「まずは湖の小島へ行こう!」

「うん!」


 いつかはプロペラ機の部品になりそうな素材を見つけて、もういちど、空へ。

 こうしてふたりの冒険が始まった。




 ソウタとユリが旅立ってしばらくしてから、駄菓子屋の主は村はずれの空き家の掃除をした。ふと思いついて、ソウタとユリが手記を見つけた家具を調べたら、もう一枚紙が出てきた。


『どうしてわたしたちはこんな血を持って生まれたのか』


『せめて、誰も知らなかったら良かったのに。まさか、人の血を用いようなんて、誰が発想し得る? 初めそれを試してみようと思ったものを恨んでも恨み足りない』


 駄菓子屋の主は青くなる。とんでもないことにふたりを巻き込んでしまったと。

 慌てて村長に相談し、冒険者ギルド経由でワンダフルさんに知らせてもらうことにした。


 さて、ふたりの旅路はどうなることやら。




 どうか、どうか。無事でありますように。





 読んでいただき、ありがとうございました。


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