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 常にリスクヘッジを念頭に置いた行動や無駄をそぎ落とす思考は、出会いを減らし、感動する機会を失うことにもつながる。平穏を望んだつもりが似て非なる平坦で、無味乾燥である。心を動かすことが少なくなると鈍化する。効率を最優先させると経験不足になり、視野が狭くなる。世界は多様な事象の集合体であるから、いくら単一のものが突出しても、それだけではあらゆる場面で不足する。

 ワンダフルが身を置く世界はそんな風だった。


 だから、世界の片隅にあるのどかな仁楊にゃん村に住む猫獣人たちのまどろむような生活はなんだかこそばゆかった。そこで出会ったソウタとユリの世界の捉え方はとてもうつくしくやわらかく温かかった。彼らと話していて、世界はこんなにも素晴らしいものだったのかと教わった気がする。


 今もまた、ソウタとユリは見ず知らずの者の無念を晴らそうと尽力し、結果、見事に探し物を見つけ出し、そして。


「みぎゃっ!」

「沁みるぅ~」

 泥だらけになって帰ってきたふたりはごしごしと洗われていた。


 猫獣人のすばらしい身体能力ぶりを発揮したソウタは、猫山の岩場、ワンダフルの身長の二倍もの高さから落ちてもなんとか着地した。しかし、そこへ助けようとしたユリが飛び込んで行ったものだから、ふたりはもつれ合って巨大な毛玉と化して倒れ込んだ。

「むきゅう」

「どいてよ、」

 ソウタはなにがなにやらと混乱しており、ユリなどは自分から突っ込んで行ったにもかかわらず、絡まったソウタをどかそうとしている。


「ユリ、落ちて来るソウタを受け止めようとしたのか? 無謀すぎる」

 呆れて言ったはずの自分の声は笑いまじりになっていた。

 面白い子たちだ。きっといっしょに旅したら退屈しないだろう。今までのように味気ないものではなく、はちゃめちゃに楽しいものとなるだろう。

 まだ子供だから旅の道連れになるとは思えないが、ワンダフルはそんな風に夢想した。


 ソウタは落ちる前にはみ出ていた鎖をしっかりつかんでいた。そして、その先には手記にあった特徴的な形の葉と花のレリーフのあるロケットがぶらさがっていた。

「「あった! 見つけた!!」」

 ふたりは勢いよく起き上がると、その場で跳ねまわった。大きなけがはなさそうだとふたりの元気な様子に内心安堵する。


 遠くから羽ばたく音が聞こえる。

「おっと、タイムアップだ。親鳥が帰ってきた。突かれる前に退散しよう」

「そうだね。ワンダフルさんにハゲができたら大変だものね」

「急ごう!」

「な、なんてことを言うんだ! 縁起でもない!」

「ほら、ぐずぐずしていると来ちゃうよ」

「むしられちゃうよ!」

 実はひそかに心配していたことに気づかれていたらしく、子供だとてあなどれないと思いつつもワンダフルは走った。


 目的のものを見つけてソウタとユリは元気を取り戻し、予想をはるかに超える速さで村に戻ることができた。しかし、ソウタとユリは泥だらけでふたりを見た母親たちはまずまっさきに洗った。大きなけがはなくとも小さな傷はあちこちに作っていたらしく、痛い痛いと悲鳴を上げた。ワンダフルと山へ行ったときには泣き言ひとつ口にしなかったものの、やはり母親には甘えが出るのであろう。


 ワンダフルもまた厚意に甘えて入浴を簡単に済ませ、そろって駄菓子屋を経由して村長の元へ向かった。

 駄菓子屋の老婦人を連れだしたふたりはさっそくロケットを渡した。そして老婦人に持ち主のことについてしきりに尋ねていた。

 そして、四人を迎えた村長の家で依頼修了の報告をして報酬を受け取った。


「立て続けに雲をつかむような依頼をして申し訳ないのですが、」

 予想通り、駄菓子屋の老婦人は次の依頼を口にした。




 空き家で見つけた紙の束に書かれていたロケットは本当にあった。見つけることができたのがとても誇らしい。

 でも、泥だらけになり頭からざぶざぶと洗われるなど思いもしなかった。

「痛い! 痛い!」

「我慢しなさい!」

 奇しくも、隣の家でも同じやり取りが繰り広げられた。


 涙目になるふたりはしかし、きっと時間を巻き戻すことができてももう一度探しに行くだろう。泥だらけになっても怪我をしても、見つけようとするだろう。

 ふたりのその考えはぴったり一致していて、駄菓子屋に向かう道すがらに話していると、ひそかにワンダフルさんが感動していた。


 駄菓子屋のおばあちゃんにロケットを見せたら涙をこらえる風だった。ふたりも胸が熱くなる。大分時間が経ってしまったけれど、あの紙束に記された悲痛な心境が、これで少し悲しみが薄まるのではないかとさえ思えた。

 四人で村長の家に行くと、冒険者の依頼報告や報酬の受け渡しなど、その年頃の子供の心をくすぐる一連の出来事があった。そして、おばあちゃんは次の依頼を出した。


「立て続けに雲をつかむような依頼をして申し訳ないのですが、持ち主を捜しだしてロケットを渡してほしいのです」

 ワンダフルさんは即答しなかった。追われていた人を捜しだすのはとても大変なことだろう。しかし、それだけではなかった。


「ソウちゃん、ユリちゃん、ここからはふたりには聞かせられないわよ」

 そう言っておばあちゃんはふたりに帰るように言ったのだ。

「えっ?!」

「どうして?」

「どうしてって、わたしは自分が助けると決めたからいいものの、あんたたちは面倒ごとに巻き込まれかねないからね」

 そう言われて初めて気づく。ロケットの持ち主は追われているから、それを探している者がほかにいれば、当然のように気にするだろう。もしかすると邪魔が入ったと思われるかもしれない。


「あの人の日記を読んでしまったからロケットを探すのには協力してもらったけれど、ずいぶん物騒な感じでしょう? これ以上あんたたちを関わらせるわけにはいきませんよ」

 きっぱりと言い切ったおばあちゃんはワンダフルさんに向き直ると、すこし目を細めた。

「ワンダフルさんも断っていただいても構いません。手がかりは少なく、しかも追われている人だから、捜すのは骨が折れることでしょう」

 ソウタとユリはあっとなった。

 そうだ。追手から隠れて逃げている人なのだから、ワンダフルさんもまた見つけるのは簡単ではないだろう。追手の一味だと思われて警戒される可能性が高い。なぜなら、渡したいものがあるということを知らないし、大々的に公表したとしても、おびき寄せる罠だと思われるかもしれない。


「ううん、じゃあ、ワンダフルさんも捜し出すのは大変だね」

「そうだな。だがまあ、やりようはいくらでもある。ご婦人のおっしゃられる通り、是が非でもというわけでもないのなら、のんびり捜してみるさ」

「あら、じゃあ、」

「この依頼、引き受けよう」

 駄菓子屋のおばあちゃんはていねいに頭を下げた。

 捜査報告は仁楊にゃん村の方面に向かう旅人に託けるよう、冒険者ギルドに頼むことにするという。


「じゃあさ、ぼくも旅に出てなにか分かったら、冒険者ギルドに手紙を預けておけば、ワンダフルさんに伝わるね」

「「「「え?!」」」」

 ソウタ以外の者の声がそろった。







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