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本日、二回目の投稿です。
「うわあぁぁあ」
「うおっ」
一触即発の不穏な雰囲気のせいか、ナイーブなヒッピィの天駆は荒くなった。お陰で、ソウタは上手く狙いを定められるかという緊張とは無縁の、別の恐怖を味わった。
とにもかくにも、ヒッピィは巨体の上に差し掛かる。予定通り、アインスががっちり組み合って足止めしている。
「すごいや。あんなに大きいのに、負けていない」
まったくの互角で一歩も引かないアインスに、ソウタが感嘆の声を上げる。
「いや、本来、アインスはズィーベンより力がある」
「「えぇぇ?!」」
ソウタだけでなく、ヒッピィも驚きの声を発した。
「あんなに身体の大きさが違うのに?」
身体の大きさの違いは力の大きさに直結する。だから、大きな動物は恐れられるのだ。
「そうだ。なのにあいつ、壊さないように遠慮しているんだよ。ズィーベンの方はそんなのはきれいさっぱり忘れているようだ。だから拮抗しているんだ」
ということは、つまり、アインスが遠慮なくやったらあの巨体を押しのけられるということか。
「それより、今のうちだ。ひと思いにやっちまってくれ」
なんだか、違う意味合いに受け取れかねない言葉だが、ソウタはディレクさんの身体を掴んで、角度を定め、狙いをつけて落とした。
がしょん、という音とともに、見事に巨大なゴーレムの頭に着地する。ディレクさんは即座に魔力を通したのか、ゴーレムはびくりと大きく身体をふるわせた。
『あ、な、なんだ? アインス? え? 頭になにか落ちてきた。え? え? マ、マスター?』
「そうだ! 俺だ! ズィーベン、この馬鹿! ようやっと目が醒めたか!」
『マスター、そんな不安定な場所で跳ねないでください。落ちる』
アインスは案外、冷静なことを言う。
しかし、ズィーベンは止まらなかった。彼と握り合った手が押され、ぐぐ、とアインスの足が土に埋まる。
『だ、だめだ。マスター、身体が止まらない』
「あー、こりゃあ、呪いを受けているな」
『『呪い?!』』
「ああ。大方、俺の命令以外は拒否したんだろう。それに業を煮やして操るために呪いをかけたんだ」
「そうだ。その通りだ。貴様もゴーレムか? そうなのだろうな。こんな巨人を相手取ることができるのだから。さあ、倒してみろ。その呪いは巨人を最後に倒したものに受け継がれる!」
ディレクさんの言葉もアインスが喋っているのだと思った人族の兵士が挑発する。ゼンマイ式ハムスターがしゃべるとは思わないだろうから当然のことだが、それだと妙なやり取りになるが、そのくらいのおかしな言動は「作り物」ならして当然だとでも思ったのかもしれない。
さて、ソウタはディレクさんたちのやり取りを悠長に見物していることはできなかった。ケット・シーたちが動き出したのだ。空から見ればよく分かる。このままディレクさんたちが上手くズィーベンを取り戻すことができたら、後は人族の兵士たちを煙に巻けば、争いは避けることができるかもしれない。けれど、ケット・シーたちがなにか仕掛ければ、そうはいかなくなるだろう。
「ねえ、ヒッピィ、たぶん、挟み撃ちだから、ケット・シーたちがなにかし始めたら、クー・シーたちも動き出すよね」
「え、そ、そうなの?!」
「ご、ごめんね。気にしないで!」
ソウタは慌てて謝った。ヒッピィは心優しいカバ族なのだ。始めて来る妖精の国でわけのわからない状況の中にあって、それでも役に立とうと頑張ってくれている。これ以上負担はかけられない。自分で考えなければならない。
どうしよう。なにかないか。ソウタは周囲を見渡し、視界の端に横切ったものにあっとなる。
自分のリュックを置いてきたというのに、ユリのリュックを背負っていた。
ユリ、病、アイテム玉、とさまざまに単語が頭の中に羅列されていく。
そうだ。ユリはケット・シーたちに甚大な力を発揮するものを作り出したではないか。
ソウタはリュックを下ろすと、その中に片前足を突っ込んだ。
「ユリ、こんなに詰め込んでいたんだ」
中にはたくさんの<ルーレットポーション>やびっくりシリーズのポーションが入っていた。
「備えあれば憂いなし!」
ユリのそんな言葉が聞こえてきそうだ。
「うん、そうだね。今、まさにそうだよ」
「ソウタ君?」
不安そうなヒッピィに応えるソウタの声は晴れ晴れとしていた。
「ねえ、ヒッピィ! 空を駆けて! ぐるっとケット・シーたちや人族の頭の上を!」
「わ、分かった!」
だから、ヒッピィも訳も分からないまま、言われた通りに天を駆けた。
そして、ソウタは盛大に<ルーレットポーション>やびっくりシリーズのポーションを空から降り注いだ。
ユリが作ったポーションたちはきらきらと陽光を弾いて虹色に降り注いだ。人族にも、ケット・シーたちにも。
「「「「ぎゃっ!!!」」」」
「な、なんだこれ!」
「辛い!」
「苦い!」
「酸っぱい!」
「痛い!」
「「「「ぎゃーー!!」」」」
人族たちはとんでもない味わいに方々で悲鳴を上げた。ポーションであるにもかかわらず、とんでもない刺激に痛みを覚えるほどなのである。
そして、ユリをトリックスターと言うケット・シーたちは。
「「「「「「「ぽんぽこぴー!」」」」」」」
あまりのことに、意味のない声が上がったのである。
ソウタによって人族が次々に逃げ惑ったため、ケッティは余力ができた。そして、まだ拮抗し合うアインスとズィーベンを見て、力を貸そうと魔法を放った。それは魔力を奪い、一時的に昏倒させる類のものだった。
それが「倒した」ということとなり、ケッティが呪いを受けることとなった。
『痛い! マスター、相変わらず横暴! え、マスター?』
頭の上でがっしゃんがっしょん跳ねるものを思わず掴もうとし、それより早くアインスがズィーベンの手をぐいと引いた。自然に前のめりになった巨体の頭からやさしくゼンマイ式ハムスターを取る。
その両手の中でディレクさんが反りかえる。
「そうだ、俺だ!」
ズィーベンは瞬きを繰り返しながらそれを見つめる。
『随分小さくなって! 変わり果てた姿に!』
「おうよ。それぁ、もう聞き飽きたわ!」
それでも、ようやくズィーベンを取り戻すことができて、ディレクの声は少しばかり湿ったものとなる。
『マスター、まだツヴァイとドライ、アハトとは顔を合わせておりません』
「そりゃあ、ツヴェルクたちが話しているだろうさ」
『そうかもしれませんけれどね、聞くのと見るのとでは全然違いますよ、きっと』
アインスの指摘にディレクが言うも、ズィーベンが情けなさそうに眉尻を下げる。
『マスター、ズィーベンの呪いはほかに受け継がれたから、自由に動くことが可能になりました』
「! そうか、じゃあ、ほかに受け継いだ者がいるってことだな」
アインスの言葉に、その掌の上でディレクが息を呑む。それに応えたのはケッティだ。
「ああ、おそらくわたしだな」




