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 人族の兵士たちは逃げ去り、ゴーレムは大人しくなったことから、妖精の国でも厳戒態勢が解かれた。ケット・シーたちは腰砕けになったり、まるで酩酊状態でふらふら躍っている者もいる。


「やりすぎちゃったかなあ」

 ワンダフルさんたちに合流するために着地したヒッピィの背の上でソウタはぼやいた。

「いや、この上ない効果だった。よくやったよ」

 ワンダフルさんがそう言った時、遠くの方から呼ばれた。

「ソウタ!」

「あ、国王さま」


 ざ、と妖精たちが二手に割れてできた道を、妖精の国の王さまがやって来る。

「ソウタ、よくやってくれた! ようも未然に争いを防いでくれたものよ!」

 言って、あっという間に近寄って来るとソウタを抱き上げて掲げた。

 幼児にやる「高い高い」ではないか、とソウタが思ったとき、ときの声、まさしく勝鬨かちどきの声が上がった。つまり、為政者は功労者を高々と掲げて見せたのだった。


 地響きのような声に、にこやかに応えながら国王さまはそっとソウタにささやく。

「しばらくじっとしておれ。妖精の路(フェアリー・ロード)を侵され妖精の国へ迫ろうとしていた者たちに激昂していたのだ。その興奮を鎮めてやらねばならん。

「で、でも、ぼくはなにも、」

「ふむ、そうだな」

 妖精の国の王さまはソウタを片手で抱きかかえると、残った手でワンダフルさん、ケッティ、アインスを次々と指し示していく。それはまさに、この争いを治めた功労者たちの紹介だ。


「あ、ヒッピィも! がんばってくれました」

「そうかそうか」

「えぇ?!」

 役立たずとののしられていたカバ族のヒッピィは名をもらい、空を駆ける方法を教わり、妖精の国というほとんど伝説視されている場所にやって来て、しかもそこに住まう者たちの役に立った。

 目を白黒させ、ささっとワンダフルさんの後ろに隠れようとするが、同じ獣人族でもふだん四足立ちするのだから横長で、まったく隠れられていない。そのユーモラスな仕草に、妖精たちの間から好意的な笑いが漏れる。大勢いるものだから、どっとした笑いだった。それらは、ようやっとこの諍いが終わったのだと知らしめるものだった。




 事情を聞いた国王さまは大至急でユリの病を治す薬のレシピを探すよう手配してくれた。

「さて、そこなケット・シー、ケッティだったかな。そなた、呪いを受けたな?」

「「え?!」」

 ソウタとヒッピィは国王さまの言葉に驚いたが、当の本人もほかの者たちもすんなり受け入れた。

「そのようです」

「そうか」

 国王さまは痛ましそうな顔をした。


「そなたの呪いは妖精の舞踏(フェアリー・ステップ)を踏めなくなるというものだ」

 みながはっと息を呑んだ。ケット・シーたちは妖精の舞踏(フェアリー・ステップ)を踏むことを至上としている。存在意義と言っても良いほどだ。


 ケッティはステップを踏むのが下手だから、ケット・シーの村を出てひろい世界を見ようと旅に出る予定していた。そこへちょうどやって来たソウタとユリとともに旅をすることになったのだ。そして、ユリが病に倒れた時も、ステップを踏めない自分を責めていた。ステップを踏むことで、妖精の環(フェアリー・サークル)を作ることができるのだから。


「ああ、でも、これでようやっと諦めることができる」

 言って、ケッティはさっぱり笑った。

 けれど、みなはそれを強がりだと思った。ソウタはみなと同じふうには考えなかった。

「じゃあ、ケッティにとっては呪いではなく救いなんだね」

 ソウタの言葉にケッティもほかのみなも目を見開く。


「祝福ってやつなのかもしれないね。だって、これでもうケッティは悩まなくて良いんだもの」

 呪いなんてそんなものだ。受け取りようによって良くも悪くもなる。


「そうか。呪いを受けて呪縛から解き放たれたか」

 妖精の国の王さまが面白そうに笑う。


「そうだな。もともとわたしは自分で自分に呪いをかけていたようなものだったんだ。そして、呪いを受けたからそれが相殺されたってところかな」

 ケッティは自分に問いかけるように言った。

 自分を縛る呪い。それによってときおり心の働きが鈍くなり、不運を招き寄せることがある。けれど、ケッティは呪いを受けることによって、あきらめがつき、自分を縛る呪いから解き放たれることができた。


「そういう呪いもあるんだね」

「運不運というのは、畢竟ひっきょう、そういうものなのかもしれないな。受け取り手次第だ」

 そして、妖精の国の王さまは胸に掌を置き、ソウタに頭を下げた。

「えっ?!」

 ソウタは驚き慌てふためいて周囲を見渡す。

 クー・シーたちもケット・シーたちも、そのほかの妖精たちも息を呑んで棒立ちになる。


「我が妖精の友、ソウタよ。こたびの仕儀、まことに感謝する。ついては礼をしよう。なにか欲しいものはあるか」

 そこで、ソウタは一も二もなく、ユリの病を治す薬のレシピが欲しいと言った。

「いや、ユリもまた我ら妖精の友である。それに関してはすでに妖精に指示している」

 頭を上げ、居ずまいを正した王さまはほかの願いを、と促す。


「ええと、その、あ、じゃあ、この大きなゴーレムを許して下さい」

「ほう」

 ソウタが言うと、王さまは片眉を上げ、ディレクさんがアインスのクラバットの結び目の上で身じろぎする気配がした。

「あの、長くなるんですが、聞いてもらえますか?」

「聞こう」

 穏やかな瞳でそう答えた王さまに勇気を得て、ソウタはディレクさんの事情を語った。


「それで、ズイー、ええと、この大きなゴーレムは操られていたんです」

「なるほど。そのゴーレムのマスターは我が国への害意はないということか。妖精の至宝が守護する者でもあるし、クッシィが通行を許可した者でもある」

 妖精の国の王さまは考えるように形の良い顎に指を当てる。

 そこへ、先だって王さまに命じられて薬のレシピを取りに行っていた妖精が戻って来た。


「ふむ。では、こうしよう。そこなゴーレムはユリの病のための薬を薬師カントが作り終えた後、怪我をした妖精たちへの薬を作成するのであれば、罪を償ったということにしよう」

「ありがとうございます! カントさんにお願いしてきます!」

 ソウタがぴょこんと跳ねるように頭を下げ、アインスもズィーベンもそれに倣った。






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