第5話
太郎の母親は27歳で太郎を生んだ。太郎の父親とは大学で知り合い付き合いをはじめ、25歳の時結婚した。
結婚当時は彼女も働いていた。一年ほどして妊娠が分かり、ふたりで話し合って彼女は仕事を辞め、夫婦は今までより少し広いマンションに引っ越した。
お腹が大きくなるにしたがって彼女は漠然とした不安を抱き始めたが、太郎が産まれると大きな喜びに包まれ、不安は消えた。
太郎の父親はサラリーマンをしている。引っ越しによって通勤時間が増えたが、それに対して何の苦痛も感じていない。
とりたてて美人ではないが愛嬌のある気心の知れた嫁。妊娠が分かってからはより大事にしたいという思いが強くなった。
出産に備えて嫁の両親が助けてくれた。初めての経験で分からないことばかりだったのでこれには素直に感謝した。嫁の母親とは以前より仲良くなった。
自分はこれから父親になるんだ。真面目に働いてお金を稼いでくれば良い。通勤時間がどうしたというんだ。もっと強くならなければ。気持ちは昂って胸が熱い。最高の気分だ。
そして太郎が無事に産まれた。最高より最高。俺は無敵だ。これからは三人で頑張っていく。太郎の画像を待ち受けにし、事あるごとに見てはニヤニヤした。
両親の愛を一身に浴びて太郎は育っていった。
太郎は6歳になった。4月から小学校に入学する。準備は済んでいて、ランドセルは祖父母が買ってくれた。筆箱にえんぴつやノートと必要なものを両親と一緒に選んだ。
小学校への期待と不安。普通の子供ならば感じる当たり前の感情を太郎も同じように感じていた。
太郎の期待と不安は同じもの。人間関係。
幼稚園では半ば孤立していた。ピカピカのある世界にいる太郎と、そうじゃない周りの子供達。それだけが原因ではないだろうが太郎はひとりでいることが多かった。
いや太郎はひとりになりたがっていたという方が正しい。友達よりもピカピカといることを選んでいた。
だから友達ができるかな?という悩みはない。太郎の期待も不安も、自分がひとりになることを許してくれるかな?という点にあった。
他の子と一緒にいて嫌な思いをすることもあるが、結局は楽しいが勝つ。もっと遊びたいとも思う。
そのあとひとりになったらじっとピカピカを見る。じっとピカピカを見る。そうするとひとりになりたいと思う。友達との楽しいよりもピカピカとの時間の方が大事だと感じる。
両親に小学校の話を聞いた太郎は、そこに行きたくないと思った。ピカピカとの時間がなくなったら嫌だと思った。でももしかしたらピカピカが見える人がいるかもしれない。早く小学校に行きたいと焦れる気持ちもあった。
入学の日が近づくにつれそわそわし始めた太郎を両親は温かい気持ちで見ていた。




