第43話
学校から帰った太郎はベルと一緒に公園に出かけた。いつもの特訓だ。瞑想もどきもいつしか本物の瞑想と呼べるほどのものになっていた。
太郎は頭を空っぽにしてピカピカを集めた。自分とピカピカを隔てる境界が曖昧になっていき、次第にピカピカのなかに溶けていくような感覚に包まれる。
太郎はピカピカを纏っていて、ピカピカは太郎を包んでいる。その循環が徐々に勢いを増して周囲に嵐のようなピカピカの流れを作り出した。
「タロー、いいわ。それでいいのよ。もうここまで来たのね!さすがタローだわ!キャハハ!」
ベルの喜ぶ声が耳に入って太郎は瞑想を一旦やめた。
「でもここからは上手く出来ないよ。これ以上やると集めたピカピカがバラバラになっちゃうんだ」
「タローの器はまだ小さいのよ。そのために瞑想を続けて大きくするの!さ!このまま浮遊の練習よ!キャハハ!」
「え?家じゃなくていいの?誰かに見られたら怒られちゃう」
「平気よ?わたしがタローを見えにくくするから」
「そんなこと出来るの?」
「もちろんだわ!わたしは妖精よ?妖精は簡単には見つからないのよ?さ!いいからはじめてちょうだい!」
ベルの言うことなら間違いないだろうと太郎は浮遊の術の練習をはじめた。瞑想で集めたピカピカを十分に練って、それを沸騰させるように弾けさせる。
少しでも集中が乱れると途端にピカピカの手応えは失われ振り出しに戻ってしまう。太郎はゆっくりと慎重にピカピカを弾けさせた。
少しして慣れてくると弾ける力を上げていった。パンパンに張った水風船が割れる時のようにピカピカをよりパンパンにしてから割るイメージ。
5分程それを繰り返してやっと準備が出来た。術の練習のはじめにこの準備をやらないとあとが面倒になる。ピカピカの制御がすぐに雑になり、集中も乱れて頭痛がやってくるのだ。
太郎は周囲にピカピカを動かして道を作り、弾けさせたピカピカでそこに乗った。そのまま二歩、三歩と道を蹴って跳ぶ。
さらに手で道を掴んで鉄棒の車輪のようにぐるんと回ってその勢いのまま前方に飛び出した。
「ハハハ!」
太郎は楽しくて笑った。一緒についてくるベルも楽しそうに笑っていた。集中力が極まり景色がゆっくりと流れた。
太郎は新たに道をつくってそれを足場に上に跳びあがり、30メートルはあるだろう杉の木のてっぺんまで一気にのぼって枝に着地した。
「ハァハァフゥ。楽しかったー」
「キャハハ!そうね!駆けたり、掴んだりは上手になったわ!でもそれだけ!早く飛べるようになってちょうだいね!そうすれば雲の上にも行けるわ!モクモク雲のうーえー!に!行きましょう!キャハハ!」
「うん!がんばる!」
太郎は木の上からの景色を楽しんでから地面に降りた。すぐにまた瞑想を始めて錬気から浮遊の術の練習を繰り返す。疲労はほとんどない。
いよいよ太郎の器が尋常ではなくなってきた。例えばササキがこれと同じ修行をしたら、一度目の錬気でふらふらになってしまうだろう。
それほどに浮遊の術に使用するピカピカは膨大であり、そのための錬気は術者に負荷をかけ、疲労を積み上げる。しかし太郎は平気な顔して特訓を楽しんでいた。
太郎は公園でくり返し4回浮遊の術の特訓をして日が傾く前に家に帰った。その時にも疲労の色は見えなかった。
家に着いた太郎は部屋でピカピカを眺めながらぼーっとした。ベルも太郎の肩に座ってぼーっとしているようだった。
そこで太郎は思い出した。昨日の夢のことを。
「ねぇベル。昨日夢みたんだ。なんかね、女の人とぼくが・・・ホントはぼくじゃないんだけど、ぼくがね、戦ってね。それでね、死んじゃうんだ。知ってる?」
ベルなら夢のことも知ってるのではないかと太郎は思って聞いた。
「知らないわ。タロー、変な話しないでちょうだい」
「それでね、刀あるでしょ?刀でね、ピカピカを集めて踊るとね、すごい風で攻撃できるんだ。すごいんだよ。知らない?刀舞って言ってた」
「とーぶ・・・刀舞、刀の舞のことね!剣舞よね!かっこいいわ!キャハハハ!それで?それがどうしたの?」
「だから、ぼくも出来るかな?」
「タローが?ふーん。夢よね?憶えてるの?」
「うん。おぼえてるよ!」
「そう。ならいまやって見なさいな」
「え?どうやって?」
「ほら、その竹のやつを剣だと思えばいいわ。早くしてちょうだい」
「うん」
太郎は竹で出来た30cm定規を刀に見立てて夢のなかで見た刀舞を真似てみた。しかしそれはお世辞にも刀舞と言えるものではなかった。
太郎は動きを鮮明に憶えているとはいえただそれだけのこと。実際に再現できるはずもなかった。
「ハァハァ、どう?」
「タロー、なかなかカッコよかったと思うわ。でもわたしは刀舞なんて知らないの。ごめんね」
「なんだ。ベルなら知ってると思ったのに。やって損した」
「知らないわ。妖精は剣なんて使わないもの。でもそれは人が使う術だわ。そう、剣舞よね。剣で陣を描いて力を引き出すのかしら?タロー、風って言ったわよね?それはどういう攻撃だったの?」
「えっとね。矢を跳ね返したりね、矢をすごい速さで撃ったりね、あと橋を斬ったりしてたよ」
「剣舞で・・・風の矢をうったのかしら?橋を斬ったってそれは刀よね。だとしても・・・よく分からないじゃない?」
「違うよ。刀はね、刀舞が終わったら壊れて無くなっちゃったんだよ。それから風が出てきて女の人を撃ったんだ」
「刀が壊れて風が?あぁそういうこと。刀を触媒に使ったのね。それで女の人を?キャハハ!それは、その人はタローの知ってる人?」
「知らない。夢で何回か見たと思う。なんで?」
「いいのよ。それはきっとわたしと会う前の話ね。わたしも知らないわ。タローも気にしなくていいのよ」
太郎はベルの様子に困惑した。いつもと少し雰囲気が違うのだ。いつもであればもっと楽しそうに話をしてくれるのにベルはどんどん静かになって、とうとう太郎の質問にも答えてくれなくなった。
「タロー、かわいそうな子。わたしがきっと守ってあげるわ」
夜、寝る前にベルがそう呟いたのを太郎ははっきり聞いた。




