第39話
「タロウ、ジュース飲む?お茶がいい?おごるよ」
休憩室にある自動販売機でコウヘイが太郎に飲み物を買ってくれた。コウヘイはこのチームではミユと共に小3で一番年上だ。自然とリーダーのようなポジションになっていた。
ジュースを買う一連の流れに大人のような動きを感じて”かっこいい”と太郎は思った。
「コウヘイ、わたしも飲むー」
ミユがそれに便乗すると他の子供達も一斉に声を上げた。結局コウヘイは全員分の飲み物を買う羽目になった。
普通の小学生なら問題ある状況かもしれないが、子供達は半分公務員のような存在であり毎月給料を貰っている。
缶ジュースをおごるくらいなんてことはない。コウヘイは”ふざけんな”と言いながらもお金にこだわる様子はなかった。
飲み物を買って改めて席に着くとコウヘイが太郎を呼んだ理由を話し始めた。
「タロウ、今日誘ったのはさ。タロウが悩んでると思ったからだよ。格闘訓練でタロウは苦戦してるでしょ?他の訓練じゃすごいけどさ」
「うん。上手くできないし、どうしていいか分かんないし。一回も勝てないし・・・」
太郎は言葉を続けるうちに悲しくなってきた。こうして他人に話をすると自分の問題に出口が見えないことがはっきり分かり、それが太郎の心を沈ませた。
「大丈夫だよ。俺達も最初はそうだったよ。だからね、誘ったんだ。投げ技のやり方とかフェイントの使い方とかをー、タロウにみんなで教えようってさ。やる?」
コウヘイの話に太郎は驚いた。話があると誘われて不安を感じた自分が恥ずかしくもなった。”みんなはぼくのことを心配して集まってくれたんだ!”
「え、いいの?」
「当たり前じゃん。俺達チームなんだし。タロウはほかの訓練余裕そうだったからさ。今までは必要なかったけど。俺達は上手く出来ないことがあるとこうやって集まってさ、研究会って言ってんだけど、みんなでどうすればいいか話し合ってるんだ」
「すごい。そうだったんだ」
話を聞いただけで太郎は問題が解決したように感じた。それほど頼もしく感じたし嬉しかった。沈んだ気持ちが嘘のように晴れた。
「やっぱり錬気についての研究が多くてさ。俺達あんまり得意じゃないから。あとはダイチが泣くのを防ぐ方法とかね。な!」
「はいはい。いつも泣いててごめんね」
コウヘイとダイチのやり取りを聞いて”みんな仲がいいんだな”と太郎は思った。
「タロウはさ、俺達のなかじゃ錬気が一番上手いと思う。みんなそう思ってる。俺達の方が年上だしここでの訓練も長いけどさ。やっぱ最初は悔しかったしムカついたけど、チームだからさ。一緒に頑張らないと強くなれないし。だからタロウは俺達に錬気のコツとかを教えてよ」
「うん。いいよ。ピカピカはねー」
太郎は色々と嬉しくなってすぐに話し出したがミユがそれに待ったをかけた。
「タロウ待って。あんたは年下なんだから。まずはわたし達があんたを助けるの。いい?わかった?錬気の話はまたあとでよ?」
「え、うん。わかった!」
「あとピカピカってなに?”気”のこと言ってるの?」
「うん。だめ?」
「だめじゃないわ。可愛くていいかも」
「ほんと?よかった」
「わたしもピカピカって呼ぼうかな」
ミユは”ピカピカピカピカ”とブツブツ繰り返し始めた。アイリが”ミユちゃん”と呼んでそれを止めた。
コウヘイが話を続ける。
「わるい。やっぱ格闘の話の前にちょっと聞きたくてさ。タロウはさ”気”がどれくらい見えてる?例えばさ、俺は薄っすら白い雪みたいな感じに見える」
次にミユが少し暗い表情で言う。
「それね。聞いときたいわね。わたしはあんまりよく見えないわ。なんか景色がぼやけて見えるなぁってくらいね」
さらにシュン、アイリ、ダイチの順で続く。
「僕もあんまりいっぱい見えない。」
「わたしはミユちゃんと同じくらいだと思う」
「ぼくはたくさん見えるよ。雨みたいかなぁ」
太郎はみんなの話を聞いたがいまいちイメージ出来なかった。雪?雨?いっぱい見えない?とにかく太郎は自分にどう見えるか話した。
「僕はね、ぼんやり光ってて虫みたいにふわふわ浮かんでる」
「ぼんやり光ってるの?はっきり見える?虫みたいに?」
「うん。そうだよ」
「量は?いっぱい?ちょっとだけ?」
「いっぱい見えるよ」
「いっぱいって?どれくらい?大雨みたい?」
「うーんと、川みたいに流れてたり、山みたいに積もってたりする」
太郎の説明に他の子供達は顔を見合わせて頷いた。どうやら太郎の”気”の見え方についてある程度予想していたらしい。
「はぁ。やっぱりタロウは一番才能があるよ。俺達はタロウみたいには見えないんだ。けど負けないぜ?それが全てじゃないもんな!よし!じゃあ格闘の話をしよっか」
コウヘイが仕切り直して格闘訓練の話が始まった。太郎は少し引っかかるものを感じたが格闘訓練の話に夢中になってすぐに忘れた。




