第36話
”タロー、聞こえる?キャハハ!わたしよ”
「え!どこ?いまぼくに向かって来たのにいなくなったよ?」
”タローのなかにいるわ!ほら、わからない?ちゃんと感じて!キャハハ!”
そういわれてタローはベルを探した。すると確かに体の内側にベルを感じることが出来た。今までこんなことが出来るとは知らなかった太郎はびっくりしたがそういうものかとすんなり受け入れた。
「ベル。見つけた!」
「でしょでしょ?いーいタロー。これからわたしと一緒に飛ぶのよ?まずはわたしが分かりやすいようにピカピカちゃんを操るわね?よく見ててちょうだい」
ベルは部屋のピカピカを太郎の体にどんどん取り込み練り込んだ。
「妖精は血で飛ぶなんて言う人もいるけどそんなことはないわ。ピカピカちゃんで飛ぶのよ。じゃあなんでみんな飛べないのかしら?それはねピカピカちゃんの使い方が下手なだけなの!キャハハハ!ばっかみたいでしょ?術式に触媒に天気に宝具にって足りない力をみんな外に求めてるけど、まず必要なのはピカピカちゃんと一緒に遊ぶことだわ!ほらタロー、分かるでしょ?」
「うーん。なんか炭酸ジュースみたいにピカピカが弾けてるのは分かるよ。でもどうやればいいか分かんない。もうちょっと待って」
「キャハハハ!いいのよ?タローは前にも一度これと似たようなことをやったことがあるわ。だからすぐに出来るのよ!ほら見て!」
太郎の体が少しだけ浮き上がった。座った姿勢のままお尻と足が床を離れたかたちだ。太郎は体育座りのまま手で足を抱えて丸まった。
「タロー。いいわ!くるくる回るわよ!キャハハ!タローお団子みたいね!」
「ベル。すごいね!ほんとに浮かんでるよ。あれ?でもなんか外のピカピカが変じゃない?」
「キャハハ!そう!そうよ!それも大事だわ。とってもね!よくわかったわねタロー。キャハハ!やっぱりタローだわ!この術はね、内側で弾けて外側に乗るのよ。だからね浮いてるんじゃなくて乗ってるのよ!飛行機みたいなものかしら?ううん分かんない!キャハハ!」
「うー、なんか気持ち悪くなってきた」
「くるくるしすぎ?大丈夫?」
「うん。頭が痛くて体がだるい」
「あぁピカピカに酔ったのね!うーん、そっか。タローはまだ小さいもんね!いいわ。ちょっと休みましょう。それでお菓子食べて、歌をうたおうよ!ね!」
ベルは”ピカピカに酔った”と表現したが簡単に説明すると”気”の使いすぎである。気はそこら中に無限といっていいくらいに存在している。だから取り込もうと思えばいくらでも取り込める。しかし無限に使えるかと言えばそうではない。
ゲームでいうところのMPのように限界があるのだ。取り込んだピカピカは自身の体内で循環させる、つまり練り込む必要があるのだがこれが体に負荷をかける。
それで体力と精神力を消耗することになる。さらに言えばピカピカには様々な情報が含まれていて、それが使用者にストレスを与えるのだが今は置いておこう。とにかく体のだるさや頭痛がピカピカの過度な使用に対する警告だと理解してもらえれば良い。
太郎はピカピカに対する耐性が高いゆえに今までほとんどその警告を受けることがなかったが、妖精の使う術をベル主導で使ったことによる負荷に体が警告を発したのだ。
しかしお菓子を食べて歌をうたっている間にあっさりと回復した。そう、太郎は現時点でとてつもない回復力とピカピカ耐性を身につけているのだ。
そして太郎の能力はそれだけではない。ベルとの特訓を通じてピカピカの制御についても並みの領域を抜けようとしていた。
「ねぇ、このクッキーおいしいわね。どこで買ったのかしら?さくさく感と硬さが絶妙だわ。チョコチップをぐにって噛むとクッキーと混ざってさらに甘いわ!これは買いだわ。タロー、ママに言っておいてちょうだい」
「うん。わかった。ねぇベル、ぼくっておかしいのかな?」
「なぁにそれ?さっきの公園でのこと?」
「うん。ぼくって友達ほとんどいないでしょ。それでもいいのかなぁと思った」
「そんなのわたし知らないわ。わたしだって友達いないのよ?タローはどう思う?」
「え、だってベルはみんなには見えないし、施設でだって全然喋らないし友達なんていらないんだと思ってた」
「そうね!いらないわ。だってわたしは妖精だもの。人間の友達なんて欲しくないわ!」
「ベル。ごめん。怒ったの?」
「怒ってないわよ。もういいでしょ。続きを始めましょう!」
特訓はそのあとしばらく続いた。
夜。太郎は部屋で今日のことを思い出していた。山田と井上の顔が思い浮かんだ。
今まで友達ってなんだろう?とは思ってもあまり欲しいとは思わなかった。ピカピカがあってベルがいる。それで十分だったのだ。
今日公園で経験したことは太郎にとって新しいものだった。
山田はいじめっ子かと思っていたのに太郎に謝った。井上の命令にも逆らった。
井上は友達を連れてきていたけど、その友達は井上と嫌々付き合っているようにも見えた。なんだか全員無理をしているように見えた。
「友達って仲良くなったらできるんだよね?」
「知らないわ。タロー、わたし友達の話したくなーい」
「ベルはぼくの友達?家族かなぁ?」
「タロー。いい?そんなことは考えても意味がないわ。わたしとタローは友達でも家族でも他人でも一緒よ。そうでしょ?わたしがタローなんて他人よ!って言ったらタローは傷つくの?わたしには分からないわ。だってわたしとタローはいつも一緒にいるんだもの。ねぇタロー、もっと強くなってちょうだい!それでもっと楽しく笑おう!キャハハ!そうよ、それでいいわ!友達の話はもう終わりよ!だってつまんないもの!」
太郎は友達について考えるのをやめた。ベルの言う通りだと思った。これは意味がないし自分にとって大きな問題じゃないと思った。
太郎は気持ちを切り替えて浮遊術の感覚を思い出しながらピカピカを練り込んだ。




