第35話
もう十分だろうと思った太郎はベルの言葉をきっかけに帰ろうと思い、一応井上に声をかけた。
「もういい?ぼく帰るよ」
「ふざけんなよ!おい山田!こっちこい」
井上は突然山田を呼んだ。
「山田、あいつの両腕を押さえろ。嫌ならお前を殴るからな」
井上はそう言って山田に詰め寄った。しかし山田は下を向いたまま動かなかった。その態度に苛立った井上はいきなり山田の顔を殴った。
”痛っ!”と言って山田は倒れた。倒れた山田の背中を井上は踏みつけた。
「山田!言うこときけって言ってんの!」
井上は最早自分の感情を抑えることが出来なくなっていた。井上以外の上級生はやりすぎだと思い井上を止めようとしたが、声をかけただけで行動には移さなかった。井上の怒りが自分達に向くのが怖かったのである。
太郎は井上のような人間がいることに驚いた。こんなに自分勝手な人間がいるとは思っていなかった。山田が殴られたことに対する同情はなかったが、このまま放って置くと両親を心配させると考えて井上を止めに入った。
太郎は大きく一歩踏み込んで井上に接近すると胸を片手で強めに押した。それだけで井上は2メートル程を宙に浮いて仰向けに倒れた。
場が静まった。皆が太郎を見た。
「大丈夫?怪我してないよね?」
太郎が言った。山田は自分に言われたと思ったがどうやら違ったらしい。太郎は井上の方を見ていた。
「お前は亀か?ひっくりかえったら自分で起き上がれないのか?立て!」
太郎はササキの真似をして叫んだ。井上はびくっとしたがそれでも立たなかった。太郎は井上に近づいてまた大声を出した。
「おい亀!ノロノロやってる時間なんてないぞ!早く立て!」
井上はだるそうに起き上がった。ふてくされた顔で太郎を見た。そこには先ほどまでの怒り狂った感情はない。太郎が自分よりも強いと感じて一気に冷めたようだ。
「もういいよね?」
太郎の問いかけに井上は答えなかったが太郎は構わず帰ることにした。
「じゃあ行こう」
太郎は山田達に声をかけて一緒に公園を出た。そして少し一緒に歩いたところで別れた。
「じゃあみんな、ぼく帰るから」
「太郎、ありがと」「うん。ありがと。ばいばい」「ありがと」
3人は太郎に礼を言ってどこかに行った。太郎はベルと一緒に家に帰った。ベルは帰り道に太郎を褒めた。
「タロー。よく我慢したわね。わたしだったらやりかえしてたわ。あんなのに負けられないもの!ぎったんぎったんにしてけちょんけちょんに叩いてやるわ。タロー、敵は強いのよ?優しいのもいいけど、やるときはやってちょうだい?いい?」
「うん。がんばる」
「そうよ。でもさっきはちょっとカッコよかったわ!さぁ今日はわたしと特訓よ?もっとカッコよくなってちょうだい!輝くのよタロー。ピカピカにね!」
「うん。それで何の特訓するの?」
「うん。それね。タローにはわたしたち妖精が使う術を教えたいとおもいます!キャハハ!」
「妖精の術?」
「そうだわ。そうなのよ。タローはね、特別なのよ?だってわたしあそこでやってる術を見たけどね、どれも気に入らなかったわ」
「あそこって?どこ?」
「タローが運動してる広いところよ。あそこの人達の術をこっそり見たのよ?そしたらね、なんだかおかしなことをしていたわ。紙に字を書いたり、地面に書いたり、体に書いたりね。あとは人形みたいのも使っていたわね。でも楽しくないわ。タローには似合わないと思うの。だからわたしが妖精の使う術を教えることにしたのよ?ね?いいでしょ?」
「うん。楽しそう!」
「じゃあ、家に帰ったら始めましょう!キャハハハ!楽しみ!あ!お菓子食べてからにしましょう?その方がもっと楽しいわ!キャハハキャハハ!」
太郎とベルは家に帰っておやつを食べると部屋で秘密の特訓を始めた。
「タロー。わたしが教えるのは浮遊の術よ?わかるかしら?わたしがこうして飛んでいるでしょ?これが出来るようになるわ。とっても便利よ」
「すごい!でも本当に飛べるの?」
「ええ。本当よ!でも普通は無理なのよ?もし人間が飛ぼうと思ったら・・・大きな生贄が必要ね。それに星の位置と地脈も見ないとダメね。天気も大事で触媒もたくさんいるし・・・それでもわたしのようには飛べないわ」
「むずかしいんだね」
「太郎なら出来るわ!さっそくやりましょう!そこに座ってちょうだい!」
そういうとベルは太郎の胸に飛び込んでそのまま消えてしまった。




