第34話
「ざまぁ!」
「井上、半端ねーな!」
「おい、立てよ!」
勝ち誇った顔で太郎を見下ろす上級生達。太郎を蹴り倒した井上はニヤニヤ笑っていた。”これが井上って人かな?”太郎は見上げながら思った。
確かに身長は大きいようだ。上級生5人のなかで頭ふたつ分くらい高い。体格もよくてがっしりしているように見えた。
太郎は他の上級生をチラッと見てから立ち上がった。そして服についた土を払った。すると井上はもう一度太郎に飛び蹴りした。再び倒れる太郎。
山田達は上級生の暴力に怯えてしまって、やられている太郎の様子を見ているだけだった。太郎はまたすぐ立ち上がって服についた土を払った。そこへ井上から声がかかる。
「おいお前生意気だってな?」
「なにが?」
「なにが?だって!こいつ。びびってんのに強がってんじゃねぇよ!」
ハハハハハハと笑い声が上がった。しかし太郎には何も響かなかった。何が面白いのだろうとじっと上級生達を見て話の続きを待った。
「おい聞いてんのかよ!」
今度は回し蹴りで太郎の腕を攻撃してきた。太郎はちょっとよろけたが当然ながらダメージはない。
最初の飛び蹴りも2発目の飛び蹴りもダメージゼロ。いくら体格がよいと言ったところで所詮子供。ピカピカを纏っている太郎には全く通用しなかった。
”聞いてんのかよ”ってなんのことだろうと太郎は思った。相手の言い分が分からなかったのでまた続きを待った。
「おいお前。太郎だったな。そっちの3人も今日からお前ら俺達の子分な?俺達の命令には従え。わかった?とりあえず荷物持ちでいいや。放課後俺達が帰るときランドセルを俺達の家に運べ。俺達はそのまま遊びに行くからよ」
「やだよ」
「あ?お前なんて言った?」
太郎はそんなことする必要はないと思って断った。それが井上の心に火をつけた。舐められたと思ったのだろう。
その井上の様子を見て他の上級生が太郎に声をかけた。
「おい、早く謝れ!井上がキレるとやばいぞ」
「井上!キレるな。1年のガキじゃねーか」
「早く謝れって!コイツ空手やってんだぞ!」
しかし太郎は怖くもなんともなかった。ササキの方がずっとこわい。あれに比べたら目の前の井上なんてただうるさいだけの子供だ。
公園に来るまではやられたらやりかえしてやろうと思っていた太郎だったが、山田達に謝られてその考えはなくなっていた。
実際に蹴られたりしても腹は立たなかった。むしろなんだか自分が悪いような気さえしていた。”あんな攻撃ぼくには効かないのになんかかわいそうだな”と。
ササキの言葉を思い出した。”いつか人を殺してしまうぞ”その意味がいまになって少し分かった気がした。
どうすればいいんだろう?と考えた。謝るつもりはなかった。悪いのは自分ではない。悪いのはあっちだ。ではどうすれば?太郎の考えがまとまらないうちに井上は殴りかかってきた。
太郎の顔を殴ろうとしてきたが、太郎は首を逸らせてそれをかわした。井上はなんども殴りかかったが太郎は全てをかわした。
跳び蹴りは大人しく受けたが殴られるつもりはなかった。”顔を殴られて無傷なのはおかしいもんね”と思っていた太郎だったが、井上のがむしゃらな攻撃を無表情でかわしている様は十分に”おかしい子供”だった。
少なくとも周りの上級生と山田達は何が起こっているのか分からず呆然としていた。
「おまえ!よけるな!ハァハァ、おら!」
井上はしつこく攻撃してきた。太郎は”がんばるなぁ”と少し冷めた感情をもって対応していたが”この遊びは少し楽しいかも”とも思い始めていた。
調子に乗った太郎は遊び方を変えることにした。井上のパンチを手のひらで受ける方向へ変えたのである。パチンパチンと太郎の手を叩く井上。しだいにその顔は苦しそうに歪んでいった。
「ハァハァ。なんで!ハァハァ」
井上の呼吸は苦しそうだ。顔は真っ赤になって汗を大量にかいていた。
「だって遅いんだもん」
「あぁ!なんていった!」
井上は攻撃をやめた。その代わりに口を開いた。太郎の顔に唾が飛んできた。
「タロー。つまんないわ。もう帰りましょ?」
ベルが話しかけてきた。いつも他人がいるところではあまり話しかけてこないのによっぽど退屈だったらしい。太郎は無言でそれに頷いた。




