第33話
「見つけた見つけた。ホホホホホ!このような者どものためにのう。ホホホホホ!滑稽なことよ。助けられると思うたか?滑稽滑稽」
女はたのしそうにわらった。女の豪奢な着物が森の緑と燃える家々に反射して光っていた。
太郎はナイフを握り直した。あれは敵だ!太郎の全身がぼんやりと光った。瞬きの間に女に近づくと首を狙ってナイフを横なぎに振った。
しかし振ったところに女はもういなかった。太郎はすぐに地面に身を投げ出して転がった。背中がヒリついた。いまの一瞬で斬られたのだ。
「ほう?躱したのう。ホホホホホ!健気なもの。ホホホホホ!」
太郎は死を覚悟した。これには勝てない。あの獣を使役していたのはこれだったか。苦い思いが胸に広がった。結局誰も助けられなかった。そしていま自分は倒れようとしている。何も出来ないままに終わるのだ。
「笑ったわ。ではさらばじゃ」
女は手に持った扇を広げ太郎に向けて扇いだ。火が生まれそれが鋭い矢に変わり風を喰らうように太郎に向かった。矢は真っすぐ太郎の心臓を貫いた。太郎は血を吐き倒れた。矢傷から炎が噴き出し太郎をむさぼるように飲み込んだ。
「よしよし」
女は遅れて現れた獣を撫でながら焼かれた太郎の骨を拾った。
「これでまたひとり。ホホホホホ!」
「あぁぁぁ」
太郎は目が覚めた。またあの夢。前に見た夢の続きに違いない。なんとなく思い出した。全身が汗で濡れいた。死の光景がありありと思い出された。
しかし恐怖はなかった。あったのは夢で味わった苦い思い。後悔に似た悔しい怒りの感情だった。夢のなかで男が抱いていた感情を自分自身のことのように味わっていた。しかし夢のなかの男は自分のようで自分じゃないとも思った。なんだかよくわからない。
夢のなかで太郎は瘴気を見た。あの女は瘴気を纏っていた。いやあの女が瘴気そのものだった。太郎はそう感じた。
瘴気。太郎は施設で簡単にだがその存在について教えてもらっていた。それは悪い気だという。太郎流に言えば悪いピカピカ。様々な感情、思い、意思などによって色付けられて生まれる悪性の”気”
「ぼくがあれを倒す?」
無理だ。しかし倒さなければならない。そうしないとあの村みたいになってしまう。人がたくさん死んでしまう。
太郎はそこで考えるのをやめた。どうせ夢だと思い込んだ。明日になれば忘れているだろう。いまだってもう半分くらい思い出せない。枕元で気持ちよさそうに眠っているベルがいた。
”寝よう”太郎はパジャマを脱いでそのまま眠った。
休み時間、教室で山田が太郎に話しかけた。
「太郎。今日の放課後一緒に来いよ」
「え?」
「この前公園で会った3年の人に連れてこいって言われた」
「うん。僕?」
「うん。太郎が生意気だから呼べって。来ないとやばいよ」
「今日ならいいよ」
「ほんと?多分いじめられる」
「行かなくてもいいなら行かない」
「俺が殴られちゃうよ!どうする?先生に言おうか?」
「いいよ。行くから」
太郎はぶるりと震えた。”ケンカになるかもしれない。そうしたら僕がやっつけてやる”と心が奮い立った。
ササキには”外で力を使うな”と口酸っぱく注意されていた。太郎の頭にその言葉が思い浮かんだが無視した。
”こういう場合は仕方ない”そう思った。ベルは何も言わなかった。
山田は太郎がすんなり承諾するとは思っていなかった。怖がらせて一緒に先生のところに相談に行こうと思っていたのだ。
それなのに太郎は平気な顔して一緒に行くと言った。太郎と一緒に自分も殴られるかもしれないと考えて気持ちが沈んだ。
放課後、山田とその友達2人そこに太郎を加えた4人で公園に向かった。上級生はまだ来ていなかった。手持無沙汰に立ったまま互いに顔を見合わせていると山田が太郎に話しかけた。
「あのさ、井上君来たら全員で謝ろうぜ」
「謝るって?」
「井上君ってこえーよ。5年生にも勝ったって言ってたし。殴られるよ絶対。いやだろ」
「井上君ってこの前の上級生の人?」
「違う違う、前に会った上級生のリーダーみたいな人だよ。体大きいし、ケンカ強いんだよ。多分今日は仲間もくるよ。な?太郎、全員で謝れば許してくれるよ」
「ふーん。何を謝るの?」
「何ってわかんないけどさ。絶対やばいから」
「でも山田君は殴られないんじゃない?ぼくだけで」
「・・・もともと俺達が悪いんだ。太郎のせいにしようとしてさ。でも怖くて逆らえなかったんだ。ごめんね」
山田はいまにも泣きそうな顔して太郎に謝った。他の2人も太郎に謝った。太郎の気持ちはそれで劇的に変わった。もやもやして不安だった心が晴れた。
「うん。いいよ」
太郎はそれだけ言ってそっぽを向いた。なんだか恥ずかしくなったのだ。暫くして上級生が来た。5人いた。一番体格のいい子が走って近づいてきて、その勢いのまま太郎に飛び蹴りした。
お腹のあたりを靴の裏で押されるように蹴られて太郎は仰向けに倒れた。
「よっしゃあ!」
そう言ってガッツポーズを決める男の子。太郎は倒れたままそれを見ていた。




