第30話
話し合いは終わった。太郎はピカピカを失わずに済んだ。母親は最後まで反対していたがガモウ老人に”気を見えなくする処置はいつでもできる”と説得されて折れた。
太郎は明後日の月曜日から週4日、月水木土ここに通い訓練を受けることが決まった。訓練内容は非公開だと言われた太郎の両親は”これも教えてもらえないのか”と強い不安と不満を持ったがグッとこらえた。ガモウ老人との話し合いであらかじめ分かっていたことだったからだ。
仕切り直して始まった話し合い。ガモウと太郎の両親の会話を一部聞いてみよう。
「ご不安でしょう?我々に対してご不満、ご不信もあるでしょうな。お気持ちは当然ですな。しかしここは扱う内容が内容だけに秘匿性が非常に高いのです。先ほども言いましたがたとえご両親といえどもお話できることは非常に限られていましてな。さてご存じでしょうがここは国の施設です。つまり我々はこう見えて公務員なのです。とてもそうは見えないでしょう?ハハハ。ご両親にはこれが国家事業だということをご理解頂き、その事実をもって何とか我々のことを信用して頂きたい。色々と納得出来ないことも多いでしょうが、我々にとっても太郎君は大切な存在なのです。決して悪いようにはしません」
「・・・太郎は将来、瘴気とかいうものを処理する仕事をすることになるんですか?こういってはなんですが国に強制されるとかそういうことが・・・」
「そういったことはないので安心してください。ただし生活に一定の制限がかかることは事実です。それはいまこの瞬間からも言えることです。分かりやすいところでは運動全般ですな。スポーツの公式な大会には出場出来ません。身体能力があまりに違ってきますので。またこれは日常でも意識してもらう必要があります。友達と遊ぶ時でも、ちょっとした運動をする時でも全てがそうですな。周囲に合わせて押さえてもらいます」
「基本的人権というか・・・なんと言えばいいか分かりませんが、念のため弁護士に相談するとかそういうことは・・・可能でしょうか?」
「残念ならが義務、権利等も一部制限されますな。一般社会であれば許されることではありません。ただし我々に関しては特殊な法が適用されます。それにより権利が拡大する部分もありますがまぁそれは置いておきましょう。弁護士ですがもちろん相談できますとも。ただし弁護士は国が紹介した者に限定されます。でなければ話が通じませんので。・・・ご両親にはあらかじめ申し上げておかねばなりませんが、太郎君にとって、またご両親にとってもここでの話は理不尽だと感じることが多いでしょう。しかし我々はこれを行う必要があるのです。誰かがしなくてはならないのです。我々はこの仕事に誇りをもっています。どうかそのことはご承知おき願います」
「それは・・・太郎に犠牲になれという意味ですか?」
「そう受け取られてもしかたないでしょうな。いま申し上げた通り権利等に制限がかかりますし一般的な名声や名誉などは得られないでしょう。危険は大きく命に関わる場合もあります。しかしそれならなぜ我々はここにいるのでしょう?」
「いえ・・・分かりません」
「先ほど太郎君は”見えなくなるのは嫌だ”と言ってましたな。それも答えでしょう。各人それぞれ理由はあるでしょうが、我々は自分達が誰かの、または何かの犠牲になっているは考えていません。たとえ客観的には犠牲と捉えられようともです。ご両親、時間はまだまだあります。ここで実際に訓練をしてみて、我々のことをもっと知ってもらってからでも別の道を選択することができます。ですから今少し太郎君に、そして我々にお時間をください。焦るお気持ちは分かりますが我々がサポートします。どうかよろしくお願いします」
家に帰った太郎一家の雰囲気は変に明るかった。両親は無理にでも明るく振舞おうと努めているようだった。太郎はそれが自分のためにやってくれていることだと分かっていた。
両親は施設でガモウ老人から聞いた話を太郎にも分かりやすいように話し直した。太郎はしっかり話を聞いて両親に答えた。
「大丈夫だよ。僕、ピカピカが好きだから。明後日が楽しみだよ」
「うん。太郎ちゃん、辛かったり嫌になったらすぐに言うんだよ?我慢しなくていいからね?ママは太郎ちゃんが一番大事なの。約束してくれる?」
「うん。約束する」
「太郎。色々ごめんな。パパも応援するからな。頑張れよ」
「うん!パパありがとう」
太郎は帰り際に貰った施設用のIDカードを嬉しそうに眺めた。そこには太郎の名前と”強化指定選手”の文字。何の強化指定選手かは明記されていない曖昧な表現になっていた。
さらに太郎には通信端末も与えられた。現在のところは通話機能しか使えないようになっているが使用料はかからない。これにより太郎の位置情報も分かるので常に持ち歩くように言われた。
太郎は満足するとIDカードを専用ケースにしまった。そして子供部屋に戻り、ベルと遊んでから寝た。




