第29話
太郎は両親とガモウ老人の話を聞いていた。全部を理解することは出来なかったが、ピカピカが見えなくなるという部分ははっきり分かった。両親がそう頼んだことも。
”ピカピカが見えなくなる!!”
太郎は胸の内から湧いてくる激しい怒りの感情に我を忘れた。
”ピカピカが見えなるなんて嫌だ!”
部屋中のピカピカが太郎の怒りに共鳴するように震え始めた。太郎の両親は息子から放たれる怒気に身を強張らせた。太郎はうつむいて大人しく座っているだけなのに太郎の感情が手に取るように分かったのだ。
おもむろにササキが席から立ちあがり太郎の肩に手を置いた。顔を上げてササキを見上げる太郎。ササキはその太郎の頬を小気味よい音を響かせて平手打ちした。両親が制止する間もない一瞬のことだった。
「いたっ!」
太郎は打たれた頬を押さえて泣いた。太郎の母親は太郎を自分の胸に抱き寄せて”太郎ちゃん!”と叫んだ。
「なにすんだ!」
突然のことに驚いていた太郎の父親は怒りをみなぎらせて立ち上がりササキに詰め寄った。ササキはそんな太郎の父親を無視して太郎に話しかける。
「ガキはこれだから怖い。おい!私の目を見ろ!」
「あんた!ふざけんな!あんた自分が何したか分かってんのか!!」
太郎の父親は逆上して叫んだ。しかしササキは太郎の父親の方を見ようもしない。いまササキはベルを見ていた。太郎を守るように両手を広げ、ササキを睨みつけている。
そこへガモウが割って入った。
「ご両親。お待ちを。邪魔することは許しません」
それは有無を言わせぬ迫力をもって両親を引かせた。父親は声を上げるのを我慢したが、ササキを睨みつけて太郎に変なことをしないか警戒している。
太郎は母親に抱きしめられている状態でササキを見た。そしてベルが目の前にいるのが目に入った。太郎を守ろうとしているのは明らかだ。太郎の驚きと痛みはそんなベルの姿を見たことで消えようとしていた。
ササキは練りこんだ気を手に集め、太郎の肩を両手でつかんだ。母親がその手を払おうとしたが太郎がそれを止めた。ササキの手に集まっているピカピカは悪い物じゃないと感じたのだ。頬を打たれた相手なのに不思議と怖くはなかった。
「分かるか。賢いな。しかし・・・」
”恐ろしい”ササキはその言葉を飲み込んだ。
子供が感情を昂らせて気を暴走させることはよくあることだ。それだけなら大ごとにはならない。ガモウでもササキでも他の人間でもがどうとでもできる。
しかし太郎は明らかに気を練り込んでいた。それもかなりのスピードと密度で。あの状態でもし太郎が攻撃性を発揮したら確実に被害が出ただろう。
ササキは太郎の性格など知らない。暴力的な子供かもしれないという前提で行動するのは当然のことだ。まして先ほどの状況で見境なく力を振るった場合、まず被害を受けるのは太郎の両親だろう。
太郎が我に返った時、自分が親を傷つけてしまったと知ったらどうなるか。明るい未来にはならないだろう。ササキはふぅと息を吐いて太郎の肩から気を流した。
太郎はササキの手から温かいピカピカが流れてくるのを感じて気持ちを落ち着けた。ベルは太郎の頬を手でさすってくれていた。
太郎はこのときぼんやりとだが自分の内に新しい感情が湧き上がってくるのを感じた。名状しがたい熱い気持ちが胸を満たした。それは覚悟とか決心などと呼ばれるものかもしれない。
太郎は肩に置かれたササキの手を払うと立ち上がって父親に抱きついた。
「パパ。ぼく、ピカピカがなくなるのはやだ。絶対やだ!」
太郎の必死の訴えに太郎の両親は痺れたように動けなくなった。




