第27話
太郎の両親は太郎に謝った。今まで気づかなくてごめんねと言った。これからはちゃんとはなしを聞くから許してほしいと太郎を抱きしめた。
「太郎ちゃんはずっと前から何か見えてたのよね?パパとママに教えてくれる?」
太郎は泣きながら両親にピカピカの話をした。ふたりはしっかり聞いてくれた。それで太郎の気持ちは少しだけ落ち着いた。
随分遅くなった夕飯の席で、父親は改めて太郎に聞いた。
「太郎、習い事はどうしたい?パパは太郎がしたいようにすればいいと思う。ママも同じだ」
「そうよ太郎ちゃん。でもね、明日一度見学には行こうね?どんなところで、どんなお勉強をしているか見るだけだから」
「うん。分かった」
明日の見学ははじめから決定されていた。それも太郎の身を案じてのことだ。両親は先方からなるべく早く太郎を連れてきて欲しいと頼まれていたのだ。それが太郎の安全に繋がると聞かされてもいた。
そういった事情を太郎は知らない。見学の決定を告げられた太郎は”なんだ最初から決まってたのか。結局ぼくのいうことは聞いてくれない”と思った。
そして”ピカピカの話を聞いてくれたからいいか”とも思った。今までずっとひとりでピカピカと付き合ってきた太郎はこうして対人関係にドライな傾向を強めつつあった。
太郎の両親は夫婦で太郎の今後について何度も話し合っていた。最終的には太郎の意見を聞いて決めようということになった。しかし太郎の両親は紹介された先方のことを何も知らない。
そこで一度見学に行って詳しい話を聞いてからにしようということになった。当然太郎はそんな両親の考えを知らない。
日が変わって翌日の土曜日。太郎は両親に連れられて見学へ出かけた。電車に乗って2駅、そこから専用のバスが出ていて約15分。そこに現れたのは都会にあるとは思えない程の巨大な施設群だった。
国立総合運動場という名称から分かる通りそれは国が運営する施設だった。案内板を見ると色でエリア分けされて大まかな概要が示されている。
体育館、陸上トラック、トレーニング施設、プール、まだまだこんなものではない。弓道場やらボルダリング施設やらスケート場、スケートボードのコース、アスレチックフィールド等々、一見しただけではとても把握しきれない数だった。
利用者の多くは一般の人々だ。子供からお年寄りまで多くの人がここを利用している。大会やイベントなども連日開催されているようだ。案内板の横に掲示板があり、様々なスケジュールが組まれているのが分かる。
さて太郎親子が向かうのは施設のなかでも一番奥にある場所だ。一般立入禁止エリアと表示がある。まず目指すのはそこにある管理事務所。
施設内を定期的に走るカートに揺られ並木道を奥へ進むとなかなかに厳重なゲートが見えてきた。親子はカートを降りゲート前にいる施設職員と思しき人に事前の約束があることをはなし、ゲートのなかに入った。
事務所の一室に通され担当が来るまでお待ちくださいと席についた両親はお互いに感想を話していた。
「なんだかすごく厳重ね」
「そりゃ一流アスリートなんかもトレーニングに来てるらしいからなぁ」
「でも太郎ちゃんは一流アスリートじゃないよ?」
「だよな。でも紹介されたのはここで間違いないんだよなぁ。こうして話も通ってるみたいだしさ」
「説明はここの人達に聞けってことだったけど・・・なんか緊張するね?」
ガチャと扉が開いた。入ってきたのは白髪の老人と若い女性。
「あぁどうぞそのままで」
立ち上がりかけた両親を制して白髪の老人が挨拶をする。
「今日はお越しいただきありがとうございます。わたしはここの責任者をしておりますガモウです。そしてこちらはわたしの部下のササキです」
太郎はガモウから目が離せなかった。ガモウの立派な顎鬚が太郎の興味を強烈に引いたからだ。30センチはありそうな真っ白な髭は太郎の好奇心を刺激した。
若い女性が続けて自己紹介をした。ササキという女性はいかにも運動が出来ますと言わんばかりの体をしていた。それは川で会ったふたりの若者に通じるものがあった。
身長は150センチくらいだろうか。決して大きくはないが、引き締まった筋肉と強い眼差しが彼女の存在感を際立たせていた。
両親が続いて挨拶をし、太郎にも挨拶を促した。
「太郎です。小学一年です」
太郎が挨拶すると、ガモウもササキもにこりと笑ってくれた。そして目線がベルへと向かった。そのことに太郎は気が付いた。
「それでは早速、太郎君について話をしましょう。とその前にお手数ですがこちらの誓約書にサインを頂けますか?」
ガモウが話を進め、ササキが書類を机に滑らせた。どうやら守秘義務を課すもののようだった。太郎の両親はこれからどんな話を聞かされるのか緊張の度合いを高めつつ書類にサインした。




