第25話
蒸し暑い夏でも比較的過ごしやすい早朝。ラジオ体操を終えたあとのこの時間は太郎が思いきり運動できる貴重な時間になっていた。
日が高くなって暑い時間帯になると母親が心配して一緒についてくるため、ピカピカを使った運動も遊びも出来ない。この時間は太郎とベルにとって大事な修行の時となっていた。
「タロー、今日も修行よ」
「うん。もうちょっとであれ出来そうだもんね」
「そう!いい調子だわ!わたしに感謝してちょうだい。そしてアメが欲しい!甘くてキレイなやつよ。この前のとは違う味にしてね。ね?いいでしょ?」
「えー。うん。いいよ」
ベルはものを食べることが出来る。食べなくても平気らしいがお菓子を食べてからは色々なものを食べるようになった。どうやら甘い物が好きらしい。
太郎が瞑想もどきをしている間は花の蜜なんかを探しているようだ。ただし虫などは食べない。その辺の感覚は人間に近いようだ。
「じゃあ、やるから見てて」
太郎は公園の片隅に移動して地面に座ると瞑想もどきを始めた。これまでとは比較にならないスピードでピカピカをどんどん取り込み体に纏う。一度纏ったピカピカの上にさらに重ねて纏う。それを何度も繰り返した。
「どう?できてる?」
「うん。キレイに出来てるわ。キャハハ、キャハハ、すごーい」
ベルは太郎の目の前で踊り始めた。太郎はその踊りが変だと感じてつい笑ってしまった。その途端、纏ったピカピカが全て散った。しっかり集中していないとこうなってしまう。
「あっ、あーあ」
「タロー、しゅーちゅーよ!余計なことは考えちゃだめなの。ただやるだけよ」
「うん、わかった。もうちょっとだね」
「いいやる気だわ。タローの本気を見せてちょうだい。そして花のように思いっきり咲くのよ!わたしをお花畑に連れてって!キャハハハ!」
ベルは時々変になる。ただ楽しそうにしているから気にしない。太郎はすぐにまた瞑想もどきを始めた。
それから1時間ほど修行をした。太郎はもうすっかり疲れてしまった。頭がぼんやりしてきて重い。瞑想もどきを続けているとよくこうなってしまう。
太郎はそろそろ家に帰ろうと立ち上がり、ベルを呼んで歩きだした。すると木の向こう、10メートルくらい先に知っている子供がいるのに気が付いた。
それは同じクラスの山田という男子だ。よく見るとクラスの男子が他に2人いた。名前は憶えていなかったが顔はおぼえていた。
その3人の前には2人の男子が立っていた。体の大きさから上級生、おそらく3年生くらいだろうと思われた。
太郎はやだなぁと思いつつ、関わる気がないのでぼんやりその集団を眺めながら通り過ぎようとしていた。そこで太郎に気が付いた山田が声を上げた。
「あっ、あいつ!あいつだよ、あいつ」
山田が太郎を指さしながら”あいつ、あいつ”と繰り返している。すると上級生の2人が太郎に小走りで近づいてきた。
太郎は立ち止まってドキドキしながら相手の言葉を待った。ベルが太郎の肩に座って”誰この人達”なんて呑気に聞くが太郎に返事をする余裕はない。
山田達も太郎のいる所へ来た。
「こいつだよ、おれたちこいつがいいって言うからあそこで遊んでたんだ」
「ふーん。おいチビ。この辺は俺たちの場所だからお前らはどっか行け。いいな?」
何の話をしているのかよく分からなかったが、この辺に来たらダメだと言われていることは分かった。”なんでそんなこと言うんだろう?”太郎はそう思ったが、体の大きい上級生が怖くて何も言えない。
「おい、聞いてんのかよ。分かったか!」
太郎が黙っていることにイライラした上級生のうちのひとりが太郎の胸のあたりを両手で強く突いた。太郎はそのまま数歩後ろによろめく。
いきなりの暴力に太郎は驚き、怖くて泣きそうになった。クラスメイトの3人は上級生の剣幕にすっかり怯えてしまって固まっている。どう考えても太郎の助けにはなってくれないだろう。
太郎は反射的にピカピカを集め始めた。防衛本能が働いたとでもいった感じだった。視界を邪魔するピカピカをどけるために薄く纏っていただけのピカピカ。そこに瞑想もどきの成果を乗せていく。
太郎はどんどんピカピカを纏っていった。すると周囲の空気がざわつき始めた。鳥の鳴き声が一斉に響いた。太郎を囲んでいる5人はなぜか太郎から目を離せなくなっていた。




