第24話
太郎の父親は仕事から帰った夜に妻とふたりでリビングで話し合っていた。太郎はすでに寝かせてある。
「なぁ俺は考えたんだが・・・太郎のことを思えば彼等に紹介されたところにお願いするのがいいと思うんだ。おまえはどう思う?」
「お願いするって通わせるってこと?わたしは反対よ!太郎ちゃんはまだ6歳よ?子供なのよ?どうしてそんなよくわからないところに連れて行けるの?自分の子供がかわいくないの?」
「ふざけんな。俺だって太郎がかわいくて仕方ないよ。俺の生きがいだ。だからこそ言ってんだよ。よく分からなくないだろう。ちゃんとしたところだ。それはお前だって分かってるだろ?」
「でもそれ強制じゃないでしょ。普通に生きることも出来るって言ってたじゃない。それでいいでしょ。っていうかそれしかなくない?なにがいけないの?」
父親が言った”彼等”とは祖父の田舎で会った男女のことだ。彼等はあの時太郎一家にある話をしていた。
それは太郎の祖父が語ったものとも繋がる話だった。はじめに聞いた話を要約すると”今後太郎は危険に晒される可能性が高い”ことと”それを防ぐための協力を我々は惜しまない”ということ。
太郎一家はもっと詳しく教えてくれと頼んだが、彼等は多くを語らなかった。何が危険で何の協力ができるのか、それすらすぐには教えてくれなかった。
ただ”普通に生きることも出来る”とも言った。それは太郎が普通じゃないと言ってるようなものだったが、その時の太郎一家はそれを指摘できるほど冷静じゃなかった。
その時太郎の祖父は自分の父から聞いた名前を彼らに伝えた。彼等は一瞬驚きを表したが”なるほど”と言って”その名はわたし達と繋がるものです”と言った。
それから少しだけ突っ込んだ話をしてくれた。太郎は普通の人には見えないものが見えているはずだと彼等は言った。
川で起こった出来事はそれに関係がある。太郎にはこの先同じような危険が待ち受けている。それを解決する力を得るのに我々は協力できる。
また普通に生きたいのであれば、その見えているものを見えないようにすることもできる。そうすれば危険はほとんど無くなると言っていい。そう語った。
あまりに非現実的で怪しい話だったが、太郎の父と祖父は川での出来事を体験している。ふたりの若者のする話を真剣に聞いて、紹介された場所を訪れることを約束した。
「あぁ、俺も最初はそう思った。でもいままでのことを色々考えてさ。痛感したよ。俺は太郎のことを何も知らなかったんじゃないかって」
「なんのこと?」
「俺達は太郎の目が見えていないんじゃないかってずっと心配してただろ?最近はそんなこともなくなったけどさ」
「そうね。それはわたしも思った。あの人達の言ったことがホントなら、太郎ちゃんはずっとその”普通の人には見えないもの”のせいで苦労してたんでしょ。かわいそうに」
「それで俺はやっと思い出した。太郎がまだ幼稚園に通っていたころ、いやそれよりも前だったかもしれないけど、何もないところを指さして”あれなに、これなに”と聞いてきたことがあったよな」
「・・・うん。あったね」
「その時は幼い子供がよくやる・・・ただ意味のないことを言ってるだけだと思ってた。けど今になって思えばあの時にはもう何か見えていたんだと思う。そしてある程度ちゃんと喋れるようになってから太郎は・・・俺達には何も言わなかっただろ?」
「待って!でも・・・でもさ。でも確かに。でもなんで太郎ちゃんは・・・私たちになにも言わなかったの?小学校に入ってからもたまに転んだりぶつかったりはしてたのに。そういうときだって大丈夫って・・・他には何も・・・」
「俺達に心配かけたくなかったんじゃないか?太郎はいつも”うん”とか”大丈夫”ってだけ言ってそれ以外何も言わないことが多かった。俺は、俺達は太郎のことをちゃんと分かってなかったんだよ。大人しくて、聞き訳がよくて、我慢強くてって・・・自分達の都合のいいように解釈してさ」
「・・・」
母親は言葉を失って泣き出した。夫のいうことがいちいち心に突き刺さった。太郎はひとりでずっと我慢していたのだ。親が頼りないから、自分の話を聞いてくれないから、ひとりでそうするしかなかったのだ。そう考えると涙が溢れてきた。
話し合いは一旦中止になった。互いに慰めあい、互いに謝った。ふたりはまた明日話し合うことを決めて寝室に向かった。




