第16話
夏休みももうすぐ半分が終わるという頃。太郎は父方の祖父母のいる田舎に行った。新幹線に乗って興奮した太郎は疲れて眠ってしまい、起きたら車のなかにいた。
「太郎。起きたか」
太郎が聞きなれない声の方に目を向けると、厳つい顔をした男の人が隣に座っていた。
「太郎ちゃん。おじいちゃんよ」
母親が言った。
「おじいちゃん?」
寝ぼけた頭でおじいちゃんを見る。ピカピカがじゃまで細かい表情が見えない。太郎はピカピカを纏っておじいちゃんの周りのピカピカを散らした。
「太郎。俺はお前のパパのパパだ。分かるか?」
「うん。パパのパパ。おじいちゃん。分かる」
「そうか。えらいな」
車の外はよく見えない。もうすっかり夜になっていた。
「おばあちゃんもいるよ」
車を運転しているのがおばあちゃんだった。太郎は”おばあちゃん”と呼ぶと”そうだよ”と返事があった。
「もうすぐ家につくからね。そしたらご飯だよ。太郎はお腹すいた?」
「うん」
「太郎はハンバーグが好きだって聞いたから作っておいたからね」
「うん」
太郎の父親は助手席で寝ているらしく話には入ってこなかった。母親と祖父母、太郎の4人でここに来るまでの話をしているうちに家についた。車を降りると太郎は驚いた。
「すごい暗い!」
「ハハハ。そうだろう。田舎の夜はこんなもんだ」
「すごい!」
太郎は興奮してすごいすごいと叫んだ。真っ暗な夜の空にピカピカがこれでもかと渦巻いていた。いつも見るよりももっと幻想的なそれはまるで・・・。
太郎は考えた。何か前に見たものに似ている気がする。けれど思い出せない。これと同じような景色を見た気がするのに。なんだろう?
太郎が考えていると、ピカピカ団子が空に向かって飛んで行って大きな円を描きながら回り出した。いつもは太郎の近くにいて離れることなんかなかったのにどうしたんだろう?
「ほら太郎。行くぞ」
父親に手を引かれて家の中に入った。ピカピカ団子も降りてきて一緒になかに入った。
ご飯を食べてお風呂に入り歯を磨いて寝た。新幹線から寝ていた太郎だが、気疲れしていたのかすぐに眠った。
太郎は必死に走っている。遠くに見えていた火の揺らめきがいまはっきりと目に映っている。燃え上がる木々。それを避けて進むと、やはり燃えている村の家々。
ずっと聞こえていた叫び声は気が付くと聞こえなくなっていた。息を切らしながらさらに進むとそこには一人の女が立っている。
そしてその足元には倒れた人。ひとりやふたりじゃない。たくさん倒れていてピクリとも動いていない。
木々や家々から煙が立ち上り火の粉が舞っている。太郎は手に持ったナイフをぎゅっと握った。あれは敵だ!本能が叫ぶ。
「見つけた」
女が口を開けずにそう言った。太郎にははっきりそう聞こえた。
「ああっ!」
太郎は目を覚ました。いつもと違う部屋。ここはどこ?
「太郎ちゃん?」
隣から母親の声が聞こえた。太郎は母親に抱きついて泣いた。悲しくて怖くて泣いた。母親は太郎のそんな姿にひどく驚いたが、”だいじょうぶ、だいじょうぶ”と背中をさすった。
「嫌だ、嫌だ」
太郎は夢を見て気が付いた。さっき車を出てから見たピカピカの渦巻きは夢の中で見たのと一緒だと。夢のなかでも同じピカピカの渦巻きがぐるぐるしていた。前に見た夢にも、いま見た夢にも。




