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気休め

少年side

「さて、一先ずの問題は取り除いた訳だけど」


 無事に帰ってきたシスター達にホッとしつつ、サニャは改めて僕達を見回した。

 先程までゴロゴロしていたとは思えない真剣な顔だった。


「それでも、賞金を取りさげた話が広がるにも時間が掛かるだろう」

「ソーネ。どれ位のキボで広がってるかもフメーだしね」

「そう。だから暫くは、行動するにもそれなりに注意を払う必要があると思うんだよ」


 サニャは僕を指してそう皆に注意を促した。

 確かに、まだ賞金取り下げを知らない人たちが襲ってこないとも限らない。

 出来る限り無用な争いを起さないに越した事はないだろう。

 だけどサニャの言葉にスズさんが顔を曇らせる。


「言いたい事はワカるけど。アッチから仕掛けてくる分にはドーシヨーも無いデショ」

「別に、来る都度に叩き潰せばいいじゃない。いずれ居なくなるでしょ」

「確かにそれが一番簡単ですね。ですが先の事を考えるとあまり気は進みません」


 単純明快シスターの意見にセンリンは納得の声を上げる。

 しかし僕の方へと視線を向けると気まずそうに身を縮ませた。

 恐らく僕が上空から落ちた事を言っているのだろう。

 自力で飛行できる人間が居る以上は、ああいう可能性は常に考えておくべきかもしれない。

 盗賊やペルシアの時の様に、魔封じの道具を使われる場合だってある。


「センリンの言う通り、羽持に攫われただけで危険は跳ね上がる。私も今ではこの通りだしね」


 サニャは本来羽があった自身の背を指してぼやいた。

 冗談がかった言い方ではあるけれど、改めて考えるとやはり責任を感じてしまう。

 僕達は飛べないから分からないけれど、彼女はそれが当然の様に出来るのだ。

 突然自分の身体機能の一つが奪われた、というのはやっぱり辛いものだと思うから。

 出来る事ならばなんとかしてあげたい気持ちだった。


「それで? だからと言って何か具体的にあるわけ? 紐でも繋いでおく気?」

「案外それでも良いかもね。まぁ紐で繋ぐってのは例えとしてだけど」

「お手々を繋いで歩きますか?」

「やる、それ、私」

「ノンキね。オマエラ」


 呆れた顔でスズさんが溜息を吐く。

 それをサニャが冗談めかして肯定した。


「まぁ、冗談はさておいてさ。帽子なんかを被せるのも一つの手だと思うんだ」

「ボウシ~? シャルは耳が無いから余計に目立つんじゃないカシラ?」

「耳抜けタイプ以外もあるだろう? それを被せれば良いじゃないか?」


 この世界の人間は基本的に頭に獣耳がある為、帽子にはそれを出す穴が存在している。

 耳だけ外に出すタイプだったり、すっぽり形を整えて被せるタイプだったりと様々だ。

 サニャの様な人も居るので、僕の世界では馴染み深い形のもあるけれど。


「大体それ羽付き用でしょう。羽が無いと不審がられないかしら?」

「確かにね。でも被らないよりは良いと思うよ?」

「そう言えば、シスターのフードは耳を出す所が無いんだね?」

「? あぁ、元々の持主が羽付きだったんじゃない? お陰で背中がスース―して困るわ」

「じゃあキガえなさいよ」

「というかモーさんが大丈夫ならシャル君も平気なのでは?」


 二人の言葉にシスターはプイと視線を背けた。

 出会った時から頑なに着替えないけど何かこだわりでもあるのかな?

 彼女の謎のこだわりは置いておいて、僕はおずおずと右手を上げた。


「それなら僕、ちょっと考えがあるんだけれど良いかな?」

「ん? なんだい?」


 不思議そうにサニャが訊ねると、他の皆も一斉に注意を向けた。

 なんだか視線が集中して少しやり辛い気持ちが出てくる。

 だけど僕は両手で自分の頭を押さえて、二、三言呪文を唱えた。

 一瞬頭上で青白い発光が起き、熱が流れてくるのを確認すると僕はゆっくりと手を離した。


 すると、僕の頭にはソーラの様な鼠を模した獣耳が生えていた。

 その姿にサニャは少し驚いたように口笛を吹いた。


「へぇ? 凄いな。それも魔法かい?」

「うん。魔法生物を作る応用……というか初歩的な感じだけど」


 ソーラから魔法生物を作る方法というのは教わってはいるけど未だ上手く入っていない。

 そもそもこの世界の人達は「良く分からないけれどこの魔法だけ使える」という人が多い。

 なので教わってもどうしても感覚的な話になる所為で、少し難航しているのが正直な話だ。

 それでもこの程度までは何とか出来る様になったのだった。


「これって耳は聞こえる訳?」

「出来なくはないけど、聴覚と接続するのが良く分かんないんだよね。場所も違うし」

「確かにこれならパッと見は自然だね。シャルの負担としてはどんなものなんだい?」

「魔力循環器に繋いでるから自動で持続は出来るよ。そこまで消費も多くないし」


 なんだか思ったより皆の反応が薄い。

 いや彼女達からすれば、付いていて当たり前の物なんだし仕方ないのかも知れないけど。

 そりゃ別に「可愛い」とか、そう言う反応を期待してた訳じゃないけどさ。

 僕なりの努力の結果な訳で、反応が乏しいのは正直寂しい。

 自由研究であんまり注目を浴びなかった時の気持ちに似てる。


「これなら良いかもね。顔までは知れてないだろうし、ほとぼりが冷めるまではこれで行こう」


 微妙に落ち込む僕を無視して、サニャはこの方向で話を進めるようだ。

 役に立ったなら良いんだけどね、くすん。

 僕が微妙に釈然としない気持ちでいると、突然ソーラが僕の肩に手を回した。

 戸惑う僕と肩を組むと得意気な顔で皆を見回した。


「姉弟、名実、何処から見ても」

「アァン? ドコに名がアンのよ?」

「負け惜しみ、見苦しい」

「このインケンネズミ! シャル、それその小汚い耳しか出来ないワケ?」

「え、別に他のも出来るとは思うけど」


 小汚いって。

 もしかして不格好だった? 形が崩れてる?

 だから皆の反応が良くないのかな?


「じゃあワタシと同じのにシナサイ。少なくともそれはダメよ。印象がワルイわ」

「大概、そっちも、変えなくていい」

「しょーもない。勝手にしてなさい」


 僕が魔法の出来に頭を悩ませている間、二人の仲良い喧嘩はしばらく続いた。

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