反撃4
その日は私の誕生日だった。
「ロッテ、ちょっと私に付き合って」
数少ない友人のアイリに私は家から連れ出された。
買物に付き合って欲しいのだという。
私達の住んでる田舎じゃあ流行りの物や可愛い物なんてありはしない。
なので必然的に隣町まで足を運ぶ形になってしまう。
「メイリはどうしたの?」
いつも一緒である双子の姉。
その所在を私はワザと訊ねてやった。
予想通り、アイリはとぼけた反応を返す。
大方、私を連れ出しその間に誕生日を祝う準備でもしているのだろう。
まるで見え見えな彼女達の考えだけど、私は知らん顔をした。
彼女達の気持ちが純粋に嬉しかったし、わざわざ水を差そうという気は起こらなかったから。
普段と違って少し不自然な、それでいていつも通りに騒がしい彼女と共に私は町中を回る。
そしていつもよりは少し早めの時間なのに、彼女は帰ろうと口にした。
村へと戻れば別れの筈、だけど彼女は最後に見せたいものがあると私の手を引いていく。
彼女に連れていかれて、着いた場所は、案の定私の家。
私は苦笑気味に、尚も企みがバレてないと思っている彼女に合わせながら家の扉を開けた。
目前に広がるのは横たわる両親とメイリの姿。
そして赤く染まったリビングであった。
「ンデ、良かったワケ?」
「何がよ?」
帰りの道すがら、スズが突然そんな事を口にした。
彼女の言いたい事は分かっていたけど、私はあえてとぼけて答えた。
「騎士団にワタしちゃって。良くワカんないケド、ワケアリなんじゃないの?」
「良く分かんないなら口だしすんじゃないわよ」
「あーハイハイ、ワルーゴザンした!」
スズは舌打ち混じりに悪態をついて視線を逸らした。
その様子に私は思わず笑みをこぼした。
「……確かに一瞬、殺してやろうかと思ったわ」
「ナニよ。カンケーないんじゃないの?」
「独言よ。聞耳たてるなら好きになさい」
「ヘェヘェ、素直じゃナイわねマッタク」
お前に言われたくない。
まぁ確かに言う通りではあるけれど。
「でも。あの子の顔が思い浮かんだのよ」
元々自分が何の為にここを訪れたのかを思い出した。
それを無視することは容易い。
奴をどうしようとも、あの子は帰ってきた私を笑顔で迎えるだろう。
「でもその時に、私欲で人を殺めた汚い手で、あの子を抱いてやりたくない。そう思ったのよ」
あの場で奴を殺せば、世間的に見れば聖堂院に押し入った極悪な殺人者に等しい。
別にそれ事態は私にとってはどうという事でもない。
しかし下手をすればこいつらに迄、同じ罪が被せられかねない。
これ以上シャルルの平穏を乱したくもなかった。
ふと横を見るとスズが腹を抱えて笑っていた。
私は不審さと不快さを込めて口を開く。
「何よ」
「オマエ、そんな夢見ガチなシコーで、あの時ワタシにエラソーにヨク言えたわね」
「……うるさいわね」
「しかも、ソーゾーではシャルが飛び付いてくると思ってンの? ウヌボレが過ぎない?」
「……」
「ウッワ! 顔アッカ! ナニ、照れてンの?」
ここぞとばかりにバカにしてくるスズ。
私は顔を隠すように右手を当てる。
彼女が言うように顔が赤いのだろう。
掌から体温が伝わってくる。
「う、うるさいわね! クソ、話すんじゃなかったわ」
「アハハハ! マジで真赤じゃない。ダッサー!」
「――――!!」
大笑いする猫の脇腹をぶん殴ってやった。
ざまぁない事に咳き込みながらその場で蹲る。
私はそれを無視して先を歩いた。
「ゲホッ! オマエ、ホント、サイアク」
「何? 鼠の真似? 別に可愛くないわよ」
「チゲーわよ!」
小走りで追い付いてくると、憎々し気に文句を言い立てる。
全く本当に騒がしい奴だ。
「ったく! オマエ、復讐者向いてないわ。ショージキ」
「そんなの最初から分かってるわよ」
しつこく無駄口を叩く小猫を横にして帰路へと足を向ける。
その光景に私は少しだけ懐かしさを覚えた、不本意ではあるけれど。
こいつがこんな口を聞ける余裕がいつまであるのか、そんな事がなんだか気になった。




