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反撃3

シスターside

 部屋の扉が開かれた。

 入ってきたのは小太りで鼻の低い男だった。

 男は私とスズの姿を見て驚きの様相を見せる。

 ここは聖堂院奥の住居区画、こいつが驚くのも無理はない。

 恐らくサニャと交戦した奴らが、取引現場に行く直前に連絡を入れていたのだろう。


 この男の予定では、今まさに攫ってきたシャルとご対面、という訳だ。

 残念ながらその予定はキャンセルとなった訳だが。

 

 あのネズミのお陰でこの建物の間取はあらかた把握済みだ。

 忍び込むにも苦労はかからなかった。


「お、お前達! 一体!」


 男が言葉を言い終える前に、スズが男を組伏せた。

 奥で黙らせた連中もそうだが実に容易い。

 不良僧侶の癖して、あまり武闘派でもないらしい。

 まぁ年齢もそこそこいってる様だし、こんなものかしら。


「さて、お話を聞かせて貰おうかしら?」


 私は腕を組んで、ゆっくりと男に近づいた。

 仲間達の話では、シャルル誘拐の件はこいつ主動らしい。

 身なりからして神に仕える割に豪奢で、普通の僧侶とは違う。

 宣教辺りの位だろうか。


 男は近づく私を見て何やら驚きの表情を見せる。

 それは自身が襲われている事実とは違う、別の何かに対する驚きに感じた。

 何やら観察するような視線に、私は少し不快さを覚えた。


「あ、アメリア! いや、それにしては若い。もしや、む、娘か?」


 男は見下した私の顔を見て、そんなことを口にした。

 アメリア、母の名前だ。

 偶然? いやそうとも思えない。

 確か結婚する前は聖堂会に属してた筈だ、顔見知りである可能性は高かった。


「アメリアは私の母親よ。何か――」

「クソ! やはり! ふ、復讐しに来たのか!」

「? 話が見えないわ。取敢えず落ち着いて話を――」

「ダイアーの奴め! 何が全員殺しただ! いい加減な仕事しおってからに!!」

「……あぁ、そういう」


 一瞬で心が冷えきっていくのが自分でも分かる。

 私は爪先で男の鼻柱を蹴飛ばしてやった。

 男は苦痛の声を上げ、鼻から血を垂れ流す。

 私はそんな事もお構いなしに男の頭を踏みつけた。


「なんで(うち)がそんな目にあったのか、不思議で仕方なかったのよ」


 大方今回に限らず、裏で汚いことを繰り返していたのだろう。

 母は嫌気がさしたのか、もしくは荷担していたのかもしれない。

 理由はどうあれ、母は聖堂会から身を離した。

 となると、考えられるのは口封じだろう。


 ダイアーにこいつが殺しを依頼して実行した、そういうことか。

 男は私の予想に言葉を詰まらせた。

 どうやら大筋は正解らしい。


 母がこいつとどういう関係で、何が原因で殺されたかなんて、細部はどうでもいい。

 この男の一声で、私の穏やかな日常は終わりを告げた。

 大事なのはその一点、それだけだった。


 そうだこいつが余計な事をしなければ私の家族は死なずに済んだ。

 私の幸せが無くなる事も父も母もメイリも誰も死ぬ事は無かった。

 あぁ許せるはずも無い今ここで縊り殺してしまおうかそうだその方が良いに決まってる。

 みんながみんな浮ばれる誰一人悲しむこともないただ私の手がこいつの血で汚れるだけだ。


 怒りと憎悪が渦巻いて、雪崩の様に私の頭の中を思考が駆け巡る。

 そして父の母のメイリの笑顔が……そして最後にシャルルの顔が浮かび上がった。


「……ふぅー」


 私は大きく深呼吸をした。

 そうだ落ち着け、今の私は何をしに来た?

 あの子に掛かってる賞金を取り外す為だ。

 ここで手にかけてしまえば事態がややこしくなる。


「アレ? ワタシ席外した方がイーカンジ?」


 気まずそうな顔をしてスズが訊ねるが、私は首を横に振った。

 まずはこちらを確実に行わなければならない。


「別に、こいつがどんな汚らわしい事をしてたかなんて興味ないわ」

「だ、だったら何が目的だ!」

「あの子にかけている報奨金、あれを取り下げなさい」

「そうか! 貴様らあのガキの――うぶぅ!」


 私は再度顔を蹴飛ばした。


「口と立場に気を付けなさい」


 男は口内と鼻孔に血が溜まり喋り辛いのか、たどたどしく此方の提案を了承した。

 まぁこういう連中は所詮、我が身が一番可愛いものだ。

 その分ちょっと小突くだけで言う事を聞くから楽でいいけれど。




 監視の元、裏の情報屋に依頼が終了したことを伝えさせた。

 これで暫くすればあの子を狙う奴等も居なくなる事だろう。


「ンジャ、騎士団にトットと引き渡しちゃうケド、イーカシラ?」

「別に……好きになさい」


 あからさまなスズの確認に、私はなるべく平静を装って答えた。

 事が終わったのだから、別に生かしてやる必要もない。

 だけど――大切な顔を順に思い浮かべる。

 結果は同じだ。


「ま、待て! 見逃してくれるんじゃなかったのか!」

「誰もそんな事言ってないわよ」

「ユーカイの依頼なんてあきらかなハンザイ、見逃せるワケ無いわよね~」


 意地悪く笑うスズを見て、男はこの世の終わりの様に顔を青ざめた。

 私はそれを見て、小さく鼻で笑う。


 まぁいいわ、今はこの表情だけで満足しておくとしましょうか。

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