提案と決断2
「それにしてもオマエ、ホントに慕われてたわけ? 驚くほどミャクないじゃない」
「照れているのさ。ラニカは人見知りだからね」
メイドさんに部屋へと案内されて、そうそうのスズさんの言葉に彼女は肩を竦めた。
「その割には随分な言われ様でしたけど。何か理由でも」
「あぁ見えて彼女は独占欲が強いんだ。私が可愛い子を沢山連れて来て妬いているのさ」
「随分おめでたい思考回路だこと」
得意気な笑顔を見せる彼女に、シスターはぼそりと呟く。
でも確かにセンリンやシスターの言う通りな気がする。
「家の恥」とか「不様」とか散々な言いようだ。
あそこまで言われて変わらず笑顔で応対できるのは、ちょっと凄いと思う。
「彼女も色々気を張って強がっているんだ。だからシャルもそんな顔をしないでおくれ」
そう言ってサニャは僕に笑いかけた。
確かに今の僕は少々機嫌が悪かった。
僕は二人の関係も、家の事情だって知りはしない。
だけど実の姉が一生の怪我をしたのに、あんな馬鹿にした言葉は酷すぎる。
「しかし、君達にも悪かったね。見苦しい所を見せてしまった」
「本当ね。よくもまぁ人前であんな不愉快なやり取りができるものだわ」
「だから言い方がさぁ」
シスターの言葉にサニャは苦い顔を浮かべる。
いつもに比べて彼女達に暴言を聞き流すほどの余裕は見られない。
やはり家族間の口喧嘩を見られる、というのはバツが悪い物らしい。
「口は悪いけどさ、性根は悪い子ではないんだ。できれば仲良くしてあげてくれよ」
「わかった、する、仲良く」
「えぇ勿論ですとも」
「嫌よ。面倒くさい」
「仲良くもナニも、アッチのが立場、上だからねー」
反応は綺麗に半分に分かれる。
まぁ後半の二人に素直な反応を期待する方が間違っている。
サニャもいい加減分かってきたのか、特に口を挟まず苦笑いを相槌の代わりにしていた。
僕は……どうだろうか。
サニャの家族だし仲良くはしてあげたい。
だけど、先程の様な言葉を彼女に向けるのはやっぱり許すことは出来なかった。
また難しい顔をしていたのだろう。
サニャは無言で僕の頭をクシャクシャと撫でるのであった。
なんだか、妙に居心地が悪く感じた僕は彼女の手から逃げる様に扉へ向かう。
「どうしたんだい? 探検でもするかい」
「違うよ。トイレ」
サニャの案内を断り、一人で用を済ました帰り道、僕はメイドさんに呼び止められた。
「今、お時間は宜しいでしょうか?」
「えと、何か用ですか?」
「私ではなくラニカ様がお話があるとの事で、宜しければ」
ラニカさんが僕に話?
サニャや他の皆ではなく?
なんだか不思議な気がする。
だけども、正直僕も彼女の真意は知りたいしその申し出を聞き入れた。
恭しく頭を下げるメイドさん。
年上の人にここまで丁重な対応をされるのはなんだか変な気分だ。
そんな僕の様子を気にすることもなく、メイドさんは僕をラニカさんの部屋まで案内した。
先程とは違い、そこはラニカさんの私室であるようだった。
豪奢ではあるけれど、思ったより物が少なく小ざっぱりとした印象を受ける。
メイドさんを下げると、彼女は僕に向き直る。
「その、僕に話ってなんですか?」
周りに皆がいないことで、無意識に気が小さくなっているのか、僕はこわごわと口を開く。
そんな僕とは対照的にラニカさんは堂々とした口ぶりで言葉を放った。
「あなた、姉の前から消えて下さらない?」




