心霊写真を見てみた①
まだまだ残暑厳しい昼。トツオカは予定通り心霊写真の撮影を始めた。
あたしは机の特等席に座らされ、タケと博士の間に挟まれる形になる。
〔へぇー。ここで撮るんだ〕
〔そうだよ。パソコン画面も見れる位置だから、あたしにも説明してねー〕
〔了解〕
あたしとはるちゃんのやり取りが終わるのを見計らったように、
「んじゃ、撮るぞー」
タケが言った。
目の前のカメラのランプが赤く光る。
始まったな。
「皆さん、こんばんは!『突撃!オカルトチャンネル』略してトツオカのお時間です!本日の案内人は……リーダーのタケとぉ!」
「博士です」
「本日は心霊写真特集!!」
パチパチと拍手が響く。
「皆さんから送られてきた心霊写真を紹介していきます」博士
「皆さんのおかげで、新しい企画が誕生しました!本当にありがとうございます!本日紹介するのは、ほんの一部です」タケ
「もちろん、4人で厳選した物を紹介します。またフェイクじゃないことも確認済みです。チェックは画像関連の作業が得意なマサが担当しました」博士
そこでマサが移動し、カメラに一瞬映る。ペコリ、と会釈した。
「今日は普段、カメラ係や編集をしているマサが大活躍しました!マサ、心霊写真のフェイクチェックした感想は?」
打ち合わせにない質問をされ、一瞬目を丸くしていたけど、
「ほとんどが加工されてませんでした。皆さんが純粋に写真の鑑定や紹介をして欲しいと思ってくれたんだな、と嬉しくなりました」
「なるほど。ちなみに、あまり怖がらないマサ的には怖い写真がありました?」タケ
「ええ。今回は30枚紹介するんですが、最後の2枚は震えましたね」
〔へぇ、あのマサがねぇ〕
マサが怖がるなんて珍しい。これは期待できそうだ。
タケも同じように思ったようで、
「それは期待大!ですね!では皆さん、一緒に震える楽しい時間を過ごしましょう!」
そこから写真の紹介が始まった。
博士が写真が撮られた経緯や、心霊写真と思った理由などを視聴者のコメントを見ながら紹介していくスタイルだ。
「では早速、1枚目です。『トツオカの皆さんこんばんは!いつも動画を楽しく拝見しています。送った写真は友達と飲みに行った帰り、繁華街の隅で撮ったものです。夜なので手ブレがあり見にくいので、修整して送りました。中央にいる女性の顔が、別人になっているんです。連写したので、その前後の写真も送りましたので、確認してみてください』とのことです」
「なるほどー。それでは、写真を見てみましょう!」
タケの言葉に合わせて、マサがパソコン画面に写真を出した。
あたしとタケ、博士の目に、1枚の写真が映し出される。
5人の男女が仲良さそうに映っていた。
〔サエちゃん!サエちゃん!どんな写真?〕
はるちゃんがわくわくと尋ねた。
〔えっとね…5人の男女が写ってる。真ん中に一人だけ、やたらと色が白い女性がいるね。唇が異様に赤くて、髪は真っ黒。長さは肩まで〕
〔サエちゃん的には、何か感じる?〕
〔うん。これは死者だね〕
〔おおーっ!いきなりホンモノの心霊写真だ!〕
嬉しそうに言うはるちゃんの声に重ねて、タケがまじまじとパソコン画面を見て言った。
「真ん中の…この女性が別人になっている、と?」
「らしいな…」博士
「確かに…なんか周りと浮いてるようには見えるな…。何というか…肌の色とか雰囲気が…」タケ
「じゃぁ、問題の写真の前後…連写したっていう2枚を見てみよう」博士
クリックすると、同じ構図の写真が一気に2枚映し出された。その瞬間…
「嘘だろ?!」
タケがビクッと体を大きく震わせた。
「いいリアクションするなー」
笑いながらマモルがカメラの後ろから言う。
「いやいや!そんな呑気なこと言ってる場合じゃないって!!これヤバいでしょ?!」
大騒ぎするタケの横で、博士は黙って2枚の写真を見ている。
「確かに…。さっき見た写真の女性とは、似ても似つかないな…」
博士の言う通り、今映し出されている写真の中央にいる女性は、茶髪で唇は薄いピンク、大きく笑っているのが分かる。
「これ、連写なんだろう?」博士
「ああ。写真データと一緒に撮影の日時と時間も表示してくれたから、確かだ」マサ
「薄っすらだけど、商店街の丸い時計が写ってる。時間は22時14分…。3枚とも、時刻は同じだから、連写したのは本当なんだな」博士
「ってことは…本当に別人になってることか?!」
タケがさらに震えた。
「リーダー…本当にいいリアクションだな」マモル
「いやいやっ!3人とも、なんでそんなに冷静なのか意味分かんないんだけどっ」
「いやー。一人慌てるヤツがいると、逆に冷静になるわ」マモル
「それにしても色も白いし、唇も真っ赤だな…。雰囲気としては、昭和って感じだ。服装も…レトロブームにしても、なんか…時代を感じる」
〔おおっー。さすが博士。この人、昔ここで働いてたね。仕事が楽しかったから、死後もここに留まってるみたいよ〕
あたしは聞こえない追加情報を加えた。
〔あぁ!楽しかったからその場所に執着してるのか。分かるよねー。わたしも生前の楽しかったことは、ぼんやり覚えてるもん〕
そう言われて、あたしと記憶をたどった。
確かに、薄っすらだけどお父さんとお母さんと洋食店に行った記憶がある。カツレツとかライスカレーを食べたような…気がする。
だからトツオカの4人が普通にカツカレーなるものを食べているのを見て、衝撃を受けた。
はるちゃんは〔ジェネレーションギャップだよねー〕と笑っていた。
「いやー。いきなり1枚目から衝撃だった!」
タケが感心した様に言った。
「リーダーのいい反応が早速見られたところで、2枚目にいきましょう」
次に映し出されたのは集合写真。
たくさんの子供が整列して写っている。
画面に表示された途端、
「えっ?」「うわっ!」
タケも博士も反応した。
もちろん、あたしも。
それくらい、分かりやすい1枚だったのだ。
〔次はどんなの?〕
〔子どもがたくさん写ってるんだけど、写真全体にかぶせるように大きな顔が写ってる。女性だね。うーん…この近くで事故死したみたい。子供好きだったみたいで、楽しそうな声や雰囲気に誘われて見に来たんだろうね〕
〔なら、子供たちに害はないんだ〕
〔ないね〕
〔そっかぁ、良かった〕
あたしの解説が終わると、絶句していた博士が、
「これも…ヤバいな」
呟いた。
「ねぇ!なんでみんなこんな写真持ってんの?!」
タケはあたしの後ろに隠れるように言った。
いや…人形の後ろに隠れても……。
「『トツオカの皆さん、いつも動画を楽しく見ています。今回は卒アルで見つけた写真を送ります。当時、なんでこれに気が付かなかったのか、今でも不思議なのですが…。とにかく見てください』とのことです」
「分かりやすく、女性だな」マモル
「ああ。こんなに大きく写るなんて…どう考えても生きてる人間じゃないって」博士
「半透明だしな」マモル
「一応、集合写真だからな。子供たちが見えるように配慮してくれたのかもよ」博士
「配慮するなら、端から映るなよっ!!」タケ
〔まぁ、確かにねぇ!〕
はるちゃんが笑った。
〔でもさぁ、霊は刺激が少ない毎日だから、ちょっとでも興味が湧けば釣られて行っちゃうのさぁ。それくらい許してあげてよ〕
はるちゃんの言葉に、あたしも同意した。
霊は…というか、死後は暇だ。
人間から見えるわけでも、仕事があるわけでもない。物にも触れないし、何もせず過ごすしかないのだ。
だから少しでも興味があれば、そちらに行きたくなる。自分で移動できる幽霊なら尚の事。
あたしもはるちゃんも、自分で動けないから刺激は少ない。だからトツオカが毎日のようにワイワイ撮影したり会議してくれるのは助かる。
「これ、なんで選んだ?写真屋?!」タケ
「その真意は分からんが…」マモル
「本当にリーダーはビビリな」マサ
「昔からな。えー、では3枚目です」
淡々と司会をする博士が、次の写真を出した。
「さらっといくな、博士!」タケ
次は暗がりの部屋。
廃虚と分かる、乱雑に荒らされた部屋。壊れた壁。破れた障子。
「『どうも、トツオカの皆さん。皆さんと同い年の私は、廃虚探索が趣味です。いつも写真を撮るのですが、投稿したのはそのうちの1枚です。特に心霊スポットでもないのですが、何故か写ってしまいました』とのことです」
「な、なるほど…廃虚探索。よくそんな勇気があるな…」タケ」
「写真、暗いな…。よく見えない」博士
「明るく加工した写真が、次にある」マサ
マサに言われ、博士がクリックした。
先ほどと同じ写真が、少し見やすくなって映し出される。
〔ほほう…。たぶん、コレのことをいってるのかな?〕
〔なになにー?〕
あたしが答える前に、タケが、
「これ…こっち見てる人影…なのか?」
「うーん…。こんな暗い廃虚の中でライトもなく1人で居るのは不自然だから…やっぱり霊…なのか?」 博士
〔サエちゃん先生〜。どうなの?〕
〔この家の家主だね。勝手に入られてご立腹。たぶん、この写真撮った人、怪我したんじゃないかな?〕
「なんか…この影、嫌な感じがする…」博士
「えっ?博士もそう思うのか?俺もなんか…寒気がする」タケ
「リーダーは全部の写真にそう思ってるんじゃないのか?」マサ
「ええっと…。投稿者から追記がある…、『この写真を撮った帰り、バイクで事故りました。何か関係があるんでしょうか。ちなみに、今は元気に過ごしています』だって」博士
「うわーっ!やっぱり!!なんか嫌な気配したんだよ!」タケ
ぶるぶるっとタケが震えた。
〔おおっー!本当だ!サエちゃん、正解っ〕
〔嬉しくはないけどね。今は元気ってことは、大きな怪我じゃなかったのかな?〕
「事後にあったってことは、やっぱりこの影が関係してるのかな…」マモル
「さぁ…。関係ない、って言うことはできないな。念のため、お祓いとか行ったほうがいいかもしれないな」博士
「事故ってからも、よく写真持ってるな?!なんで手元に残せるんだ?」タケ
「残してくれないと、俺たちの企画はできないだろう」博士
「それはそうだけど——俺なら、すぐに寺か神社に行く」タケ
「ならリーダーから心霊写真の提供はないな」マモル
「ないっ!!」タケ
〔言い切ったね〕
〔言い切ったな〕
「力いっぱいに宣言したな、タケ」
長い笑いで博士が言った。
「ああ…まだ3枚目なのに……。俺、すでに疲れた…」
タケが力なく言うと、
「いや、あと27枚あるから」
マサがすかさず言った。
「じゃんじゃん行こうぜ。次は…おっ、動画だ」博士
パソコン画面に、大きく道が映し出される。
「初動画だな」タケ
「『トツオカの皆さん、はじめまして。この動画は車のドラレコの映像です。私は仕事柄、車を使うのですが、仕事中に違和感を感じて、気になった箇所を後で見返してみました。気がついた途端、鳥肌が立ったので、皆さんにも見てほしいです』とのことです」
「鳥肌……」
タケがゴクリ、と唾を飲んだ。ちょっと顔色が青い。
「大丈夫か、タケ?」博士
「大丈夫…になる」タケ
「初回の企画でこれじゃ、先が思いやられるな」マサ
「今後も続けていくから、慣れてくれないと」博士
「うぅっ…追加でお守り買う……」
弱々しく言ったタケに、3人は笑った。
「んじゃ、いくぞ」
博士が再生ボタンをクリックすると、動画が始まった。
昼間の道路を車が走っている。
なんの変哲もない、ありきたりな二車線道路。
横の歩道には男性らしき姿、子供、自転車のおばさん、犬の散歩をしているお姉さん…次々に人が映る。
映像は30秒ほどで終了した。
「……なんか分かったか?」
博士の言葉に、タケは首を横に振る。
「いや…特に違和感はなかったけど……」
〔へぇ。2人は分からなかったんだ。サエちゃんは?〕
〔分かったよ。これ面白い!あたしもやってみたい!!〕
〔やってみたい?どういうこと?〕
「もう一回見てみよう」
博士がまた再生ボタンをクリックした。
博士とタケが、パソコンを食い入るように見る。
でも2回目でも分からず、
「え?待って待って…全然分かんない」
「俺も」
見かねたマサが、
「んじゃ、2人にヒント。歩道をよく見てくれ」
救いの手を差し伸べた。
2人は改めて動画を見る。
すると…
「あっ…」
「分かった…」
気がつくと、タケの顔色がまた青くなった。
動画の歩道。
最初に短パン、ジーパン姿の男性を追い越す。
しばらくすると、同じ姿の男性がまた現れ、抜かす。
またしばらくすると、男性が見える…。
「いやいや…この男、何回出てくんの?!」タケ
「凄いな。運転しながらよく気がついたな、この投稿者」博士
「そこじゃないだろっ!!」タケ
〔なるほどー。車のスピードに追いつくわけないのに、おんなじ男性が何回も出てくるんだ〕
はるちゃんが感心したように言った。
〔そうそう〕
〔それで?サエちゃんはどこを真似てみたいと思ったの?〕
〔この男の人、車のカメラを意識しててさ。瞬間移動を頑張ってるんだよー。車が通過したら高速移動して、先回りしてるの!それでまたカメラに映るように意識して、また高速移動…って繰り返しててさ。しかも最後には、嬉しそうに小さくガッツポーズしてる。初成功したのかもね〕
〔練習の成果が出たってことか。しかも運転手に気がついてもらえたしね。こうして証拠も残っている、と…。その男性、すっごく嬉しかっただろうね。健気に練習を繰り返したんだと思うと、笑えるけど〕
〔確かにねぇ。でもこんな移動できるの羨ましいよ。人形の体があるあたしには、できないな芸当だからさ〕
〔分かるー。わたしもやってみたいなぁ。呪物としての格が上がりそうだよねぇ〕
それからも写真は続いた。
体の一部が消えていたり、肩に手が乗っていたり、あり得ない位置に立っている人がいたり…。
あたしとはるちゃんは好き勝手に感想を述べた。
霊って自由に過ごしてるんだな。
行きたい所にいけるのは、正直羨ましい。
人形の体があるのも良し悪しだ。
一応、マサがフェイクチェックした写真は今のところ全部心霊写真だった。
さすがマサ。
しっかり厳選できていて凄い。
あっという間に枚数は重なり……
「残るはあと2枚だ。タケ、ちゃんと見てる?顔色ヤバいけど生きてる?」
博士はあたしの後ろで縮み上がっているタケに聞いた。
「見てるし、生きてるよ…」
オープニングの威勢はどこへ…。
すっかり小声になっていた。
「さぁ、いよいよだ」
マサが何やら嬉しそうに言った。
「残りの2枚は俺でもビビったやつ。心して見てくれ」
「ひっ!」タケ
〔これ以上縮こまったらタケは画面から消えちゃうよ…〕
あたしはため息をつくように言った。
「ではでは、残りを見ていきましょう」
博士がまたクリックした。
次の写真が映し出された瞬間、あたしは固まった。
〔これ……駄目でしょ——〕




