目覚めたら夏の終わりだった
あたしが目覚めたのは、ロケからだいぶ時間が経った後だった。
意識がはっきりした時、あたしは部屋にいた。
体の怠さはない。
うん、力は戻ったらしい。
さて、トツオカは……。
探すまでもなく、4人は目の前にいた。全員揃っていて、半袖姿だ。だから季節はまだ夏のようだ。
夕日に照らされて、眩しそうにマサとタケが目を細めている。
今は…17時か。
前より日の入りが早くなった気がする。秋に入り始めたのかな。
4人は今、仕事中らしい。難しい顔で話し合いをしている。
あたしの隣には変わらずはるちゃんが座っていた。定位置は変わってないな。良かった。
〔おはよう、はるちゃん〕
〔サエちゃん!!やっと起きたの?!〕
はるちゃんが嬉しい驚き声を上げた。
〔ずいぶんと長く寝てたね。季節が変わっちゃうかと思ったよ〕
〔そんなに長かった?〕
〔長かったよー。せっかくできたお喋り仲間が目覚めないから、暇で暇で仕方なかったんだから。寂しかったし、つまんなかった〕
いつもより小さくて細い声。
表情が動けば、哀愁ある顔をしたのかもしれない。
〔そっか…そうだよね…。ごめんね〕
あたしの声も切ないものになった。
はるちゃんは唯一の友達だ。
もう心配いらないよ、ってちゃんと言わなきゃ。
〔もう大丈夫だよ。ずっと待っててくれて、ありがとう〕
〔うん。ちゃんと起きてくれるのは分かってたよ。おかえり、サエちゃん〕
はるちゃんは、ロケのあとに言えなかった台詞を言ってくれた。
あたしも言いたかった挨拶を返す。
〔ただいま、はるちゃん〕
あたし達は微笑みあった。
ずっと言いたかったであろう言葉を言えたからか、はるちゃんはいつもの明るい口調に戻った。
〔あのね、あのね!たくさん話したいことがあるんだよ!サエちゃんが寝てる間のこと、教えてあげようと思って頑張って覚えたんだから!〕
はしゃぐはるちゃんは可愛いな。
あたしはにこにこと笑いかけた。
〔えーっとねぇ…まずは初のロケのことから話すね!〕
〔うん〕
はるちゃんはあたしが眠っていた間の出来事を教えてくれた。
あのロケから帰ってきて、博士は3日間、高熱にうなされたらしい。タケは半日ほどですんだらしいが、心霊スポットでは体調不良が起こりやすいと、身に沁みて分かったようだ。
特に博士の凄惨たる姿を見た後だったから、より心に響いたのかな。
4人はお守りも塩も持っていなかったことを反省し、今は全員が常時携帯するようになった。心霊現象をあまり信じていないマサでさえ、持ち歩いているとか。
〔お守りは、ちゃんと神社に行って買ったんだよ。実物を見たけど、ご利益がありそうなお守りだったから効果は期待できそうかな。博士には効果が弱いかもしれないけど、持っていた方がマシだろうね〕
トツオカを改めて見ると、タケとマモルは分かりやすく首に紐が見える。さすがにお守り本体は見えなかったけど、おそらく首から下げているんだろうな。
博士とマサは、懐にしまっているらしい。
なんとなく、胸辺りから清らかな気を感じるから。
はるちゃんの言う通り、4人はちゃんもお守りを肌に放さず身につけているらしい。
肝心のロケ映像はというと、タケが聞いた声はわずかに入っていただけみたい。
〔でも視聴者の中には聞こえる人もいたらしくてさ、その人達からはコメントがたくさん来てたよ。出鱈目言う人もいたけど、中にはちゃんと霊感持ちもいてさ、はっきり聞こえたみたい。そういうメンバーがこのトツオカにも欲しいよね〜〕
〔そうだね…。せめて危険を察知できるくらいには霊感あって欲しい…。それか、博士が自分の霊感を信じて行動してくれればいいのに。気のせいって考えちゃうからさ〕
〔そこは大丈夫かも。寝込んだ後、タケとマモルから軽くお説教受けたから〕
〔そうなの?〕
はるちゃんは頷こうとするように、
〔うんうん。珍しく博士がしゅんとしてたよ。ロケ中、2人から体調について何度か聞かれたんでしょ?でも博士は”大丈夫“って言い続けた。仕事とはいえ、無理をするのは違うって言われたんだよ〕
〔それはそうだよ。あたしも何度も思ったもん〕
〔メンバーに言われたのもあるけど、家でも散々心配されたみたいでさ。寝込んでる間、奥さんには泣かれるし、愛娘はくずって博士から離れないしで、相当こたえたみたい〕
〔え?娘?!〕
驚いたあたしに、はるちゃんは〔あれ?言ってなかった?〕と飄々と返した。
〔博士は既婚者だよ。娘が一人いるの。奥さんにデレデレのベタ惚れ。娘にはもっとデレデレで甘々。家族の話をする時だけは、顔が崩れるんだから〕
へぇー!そうなんだ。
この部屋にいる時は私生活の話なんてしてなかったから、知らなかった。
あたしは真面目な顔で話をしている博士を見た。
メガネがキラリと光りそうな眼光をしている。
それが家族の前ではデレデレなんだ……。
普段の博士からは想像できないな…。
〔ちなみに、マサはバツイチだよ〕
〔バツイチ?ってなに?〕
〔1回離婚してるの〕
〔ええっ?!〕
あの若さで離婚1回?!ウソっ?!
なんでそんな事に?!
〔この時代、珍しくないんだよ。マモルには彼女がいてぇ、タケはフリー…彼女募集中だよ〕
〔へぇ…さすがに詳しいね、はるちゃん〕
あたしは衝撃の淵から立ち直っていなかったけど、
〔ああ、話が逸れたね。めんごめんご!ええっと、視聴者にも霊感持ちがいるって話をしてたんだっけ。
コメントはみんなで読んでて、初ロケで一番多かった反応は、やっぱりサエちゃんについてだね!〕
〔どういうこと?〕
〔謙遜しなくていいよ〜。サエちゃんの現象、今回もバッチリ映ってたんだから!!〕
〔そうなの?〕
なんと、あたしがまた瞬きをしていたらしい。さらに腕も動いていたとか。
〔たまたまパソコン画面がわたしの方に向いてて動画を見れたんだけど、サエちゃん大活躍だったじゃん!必死に霊を寄せ付けないように、威嚇してたでしょ?カッコよかったよ!サエちゃんの体がビクンって動くところが映ってたの!残念ながらトツオカの言う声は分からなかった。本物のサエちゃんの声がうるさくてさ。それにしても、参道の場面は鬼気迫るものがあったね!あんなに大声で威嚇したんだ〕
〔そうなんだよー。もうクタクタになっちゃった〕
〔当然だよー。追い払うためにあんなにも力を使ったら、しばらくは復活できないって!人形の体が熱くなるくらい頑張ったおかげで、博士は守られたよ。もしサエちゃんを連れて行かなかったら、発熱どころじゃ済まなかっただろうね。意識不明で入院してたよ、きっと〕
〔ええっ!!?〕
〔あいつら、生きた人間の生気を吸うからさぁ…。吸われすぎたら意識なくなっちゃうよ。それだけの数があの参道にはいたし。よく守れたね!サエちゃん、凄い功績だよ!!〕
そっか…。そんな危機的状況だったんだ。
あの時は、ただ必死に霊を退けようとしただけなんだけど…。
あたしは楽しそうに、それでいて真剣に話し合うトツオカを見た。
博士は顔色も良くなってる。無事で何よりだよ。
〔あの動画、凄く伸びてさ。1日で1万5千回再生いったんだよ!!トツオカは大喜びだったよ!!〕
〔そっか…。良かった〕
〔その影響でさらに登録者数も増えてさ。視聴者から心霊体験談とか心霊写真の投稿とか、行って欲しい心霊スポットのリクエストとか、たくさん届くようになってね。今、次の企画の意見を出し合ってるところなんだよ〕
〔忙しくなったんだ〕
〔そう。バイトする暇がないって、マサもマモルも嬉しそうに言ってた。それでもすぐには辞められないみたいでさ、しばらくトツオカ活動とバイトを両立させるみたい。倒れなきゃいいんだけど〕
〔それは心配だね…〕
若いけど、無理はしてほしくないな。
何をするにも健康が第一なんだし。ちゃんと健康管理して欲しい。家庭持ちなら尚更だ。
こんな事を思うあたり、あたしは彼らより年上なんだと思う。
〔博士の体調が戻った後は、リクエストに応じてサエちゃんを連れて1回ロケに行ったよ。あたしはお留守番。
その後、視聴者の心霊体験談をラジオ風に撮ったの。サエちゃんは特等席だったけど、寝てたから、もちろん現象は起きなかったけどね。
動画撮影のサエちゃんの定位置は、博士とタケの間だよ。ほら、机の上に布とか椅子があるでしょ?〕
言われて見てみると、確かに覚えのない物が増えていた。
あたしが座るのにちょうど良さそうな椅子。
雰囲気作りのためか、紫色の怪しげな布が置かれている。
〔この部屋で動画を撮る時は、あの椅子がサエちゃんの特等席〕
〔へぇー。そうなんだ〕
〔他人事みたいに言わないでよぉ。サエちゃんはトツオカにとって、なくてはならないマスコットになったんだから!喜びな!!〕
〔うーん…そうしたいけど……。毎回現象を期待されてもねぇ。頑張らないと目も体も動かせないから、疲れちゃう。期待ばっかりさせても悪い気がする…〕
〔トツオカだって、毎回現象を期待してるわけじゃないよ。こういうのはたまにがいいんだよ、たまにが〕
チッチッ、とはるちゃんはない舌を鳴らした。
どうやったんだろう、それ。気になる。
〔そろそろ夕方だから、会議は終わるはずだよ。みんなこれから夜勤バイトだからね〕
はるちゃんの声に合わせるように、
「よし、なら次回は心霊写真特集でいこう!」
タケが言った。
「これだけ枚数があれば、企画としても成り立つだろう」マサ
「フェイクだけには気をつけないとな」マモル
「結構厳重にチェックしたから、大丈夫だろ」博士
「そうだぞ。俺の技術を信じろ」マサ
「オッケー。んじゃ、撮影は2日後で!!」
4人は満足気に、
「おう!」「了解」「分かった」
返事した。
今度は心霊写真かぁ。
さてさて、どうなることやら……。




