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呪物のサエちゃん  作者: 栢瀬 柚花


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5/21

初めてのロケに行ってみた①

「凄い!」


 珍しく、冷静なマサが叫んだ。


「どうした?」タケ


「動画だよ!昨日アップしたサエちゃんの瞬きの動画、1日で再生数1万回超えてるんだよ!!!」


「え?!」「マジで?!」「うそっ!!」


 3人が嬉しいと分かる悲鳴を上げた。


〔わーぉ!!〕


 隣ではるちゃんも驚いていた。


 あたしはよく分からず、


〔それって凄いの?〕


 尋ねた。


〔凄いよ!!今まではよくて5千回だったのに!一気に倍だよ?!これはお祝いだぁ!!〕


 トツオカと同じ反応をしたはるちゃんは、声を弾ませていた。


 4人は、全員がパソコン画面に釘付けだ。


「うわっ!登録者数も倍じゃん!!」


「1万人超えてる!!」


「やっっっった!!!」


 ガッツポーズをして博士もマサもマモルも喜んでいる。

 タケはズンズンとこちらに歩いてくると、


「サエちゃん!!!」


〔うわっ?!〕


 あたしを掴んで高々と掲げた。


「凄いぞ!!!サエちゃんは福の神だ!!!」


 お父さんにしてもらって以来の高い高い。

 そのままくるくると回り、嬉しそうに笑っていた。

 

 幼子みたいな扱いだけど、嬉しかった。


 よく分からないけど、喜んでもらえたみたい。

 良かった。頑張った甲斐があった。


〔凄いね、サエちゃん!もう立派な呪物だよ!!〕


 後ろからはるちゃんの声がする。


〔うん、ありがとう。はるちゃん〕


 タケはあたしを持ったまま、3人の元へ行った。

 机の上に置かれると、全員に囲まれた。


「サエちゃん!ありがとう!!」


「これからは撮影の時、特等席にしよう!」


「やる気出てきたわ!」


 全員が笑っていた。


 ふわふわした温かい気を感じる。心地の良い風みたいに、あたしを包む。


 これはなんだろう?

 悪いものじゃなさそうだけど…。

 

 傍にいると力が湧いてくる気がする。

 いいな、気持ちがいい。

 トツオカの4人が喜んでくれてるからかな?


 

 彼らはピザを注文して、飲み物やお菓子を買い込み、お祝いを始めた。

 


 パソコンの横に立てかけられたあたしは、食べ物の活力の恩恵を受けて、元気が出た。食べ物と距離が近いから、お供えした状態になったらしい。

 喉が潤い、食事をしたような満足感に満たされる。


 お供えって、こんな効果があるんだ。知らなかった。


 できれば、はるちゃんも近くに来てほしいな…。

 怪奇現象を起こす手伝いをしてくれたし、友達だし。

 

 そう思っていると、


〔久々に乾きが癒えたよ〜〕


 満足そうなはるちゃんの声がした。


〔はるちゃんもお腹膨れた?〕


〔膨れた膨れた!トツオカが喜んでるからかな?陽の気が流れてきて心地良いし、部屋の空気が良くなったから食べ物の恩恵が倍増してる。部屋が狭いから、充満しやすいんだろうね。ビバ!狭い部屋!!グッジョブ!サエちゃんとわたし!!〕


 またよく分からない言葉が出てきたけど、はるちゃんも渇きと飢えが治まったみたいで、良かった。

 

 

 トツオカの4人は食べて、飲んで、たくさんお喋りしていた。

 U Tubeを始めてからの苦労、挫折、苦悩、心が折れそうになったこと…。

 若いのに、結構苦労してるんだと思った。

 彼らの印象が変わるなぁ。



 

 ひとしきり飲んで食べた彼らは、お酒で赤らんだ顔で、今度は真面目な話を始めた。

 内容は今後の動画についてだ。


「やっぱり、ロケいかね?」マモル


「ロケかぁ。心霊スポットだよな…。それにはマイクとか照明とか、準備がいるぞ?」マサ


「そんな金あるのか?」博士


「あるにはあるけど…。大事に使わないと、すぐに底をつくぞ」マサ


 その言葉に、博士とマモルは苦い顔をした。

 浮かれた気分が一気に落ちる。

 

 いつの時代も、お金は大事なんだな。


 それにしても、外で撮影するには色々な準備がいるのか。

 大変そうだ。


 沈む3人に反して、タケは「ふふっ」と笑った。


「実は、こっそり買ってある!」


 自慢げに言うと、タケはクローゼットから箱を取り出した。

 小さな箱には機械が入っている。


「ピンマイクと照明!それに手ブレのジンバル!マイクは防風機能付きのワイヤレスだっ!」


 3人はポカンとした後、

 

「「「マジで?!」」」

 

 声を揃えて驚いた。

 さすが幼馴染。息ぴったりだ。


「尊、いつの間に買ったんだ?!」マサ


「バイト代をコツコツ貯めてたんだ。Amazanのセール期間を狙った」タケ


「すげぇじゃん!」マモル


「初めて尊を尊敬したわ」博士


「そんなに褒めるなよ〜」タケ


「最後の、褒めたか?」マサ

  

 一瞬の間が空いた後、4人は明るく笑った。


 

〔仲いいな〕


〔本当にね〕


 あたしとはるちゃんは、温かく彼らを見守った。

 いい仲間だ。


 微笑ましく見ていると、

 

「サエちゃんをロケに連れ行こうぜ」

 

 タケが言った。

 

〔えっ?あたしを?〕


 驚くあたしとは違い、トツオカメンバーは、

 

「「「いいね」」」


 と即返事した。


「また何か映るかもだし」マサ


「どんとこい!怪奇現象!!」マモル


「どこかの教授じゃん」博士


 賛成するメンバーを見ながら、あたしは一人、


〔えっ?えっ?〕


 困惑した。


〔ロケって、外だよね?〕


〔そうだよー。いいな、サエちゃん。外の空気が吸えるじゃん!お土産話を聞かせてねー〕


 はるちゃんは呑気に言った。


 そして、あれよあれよという間に準備が整い、ロケに行くことになった。


            ◆


「皆さん、こんばんは!『突撃!オカルトチャンネル』略してトツオカのお時間です!この度、トツオカは登録者数1万人を突破しましたぁ!!!!」


「おめでとう、俺たち!」博士


 深夜の神社で、パチパチとトツオカ4人の拍手が響く。


 星が綺麗に見える、天候に恵まれた日とはいえ、街灯もなく民家もない境内は、静まり返っている。



「それを記念して、今回はロケに来ています!ここは某県にある、神隠しが起こると有名な神社です!最近では1999年に女子高生が消え、約1年後に帰ってきたことで話題になりました」


 そこから、当時の事件の説明が始まった。


 あたしはぼんやりとそれを聞きつつ、博士に抱っこされた状態で神社を見た。


 鬱蒼とした林が暗く、夏の季節も相まって、ジメジメしていそう。トツオカのみんなの額に、うっすらと汗が見えるのがその証拠だ。

 

 人形のあたしには感覚というものがないけど、夏の暑苦しい夜のことを思い出した。


 

 それに…変な匂いがする。これは思い出したものじゃなく、現実に感じている匂いだ。

 血のような鉄臭さを含んだ土のような、なんとも言えない匂い。

 

 これは霊的な匂いなのかな…。

 トツオカの部屋にいた時は、匂いは一切しなかった。食べ物に囲まれても、タバコを吸われようとも、全然感じなかったのだ。


 あたしはいよいよ人間から離れた存在になった、と複雑な気分になる。


 まぁ、それは置いといて…。

  

 匂いは神社本殿に続く道の先からする…。 

 うーん……。たぶん、向こうに何かいるな。

 

 それとは別に、人もいる。 

 もちろん、生きている人間ではない。


 この世の者でなくなったあたしの目には、いわゆる幽霊が映るようになっていた。生前にそんな力はなかったから、呪物としての力なんだろう。


 

 幽霊達は着物姿で、賑やかに喋るタケの姿を見ている。

 幽霊と聞いて想像する、血まみれ、恨みがましい顔つき、といった人は一人もいない。

 怪訝そうにこちらの様子を伺っている。


〔なんだ?〕

 

〔五月蝿いな…〕


〔また若造がきた…〕


〔肝試しだろう?まったく…罰当たりな…〕


 うんざりしたような顔つきからすると、どうやら噂を聞きつけた若者がしょっちゅうここへ来るのだろう。


 幽霊は遠巻きにこちらを見ているが、怒った顔の男性と女性が1人ずつこちらに向かってきた。

 比較的新しい時代の人の服装だ。


〔こら!今何時だと思ってる?!少しは迷惑を考えろ!〕


〔ここは由緒ある神社なのよ?!ずかずかと入ってきて、大声出して!死んでるからって、気にしないわけじゃないんだから!!〕

 

〔気軽に肝試しに来るんじゃない!!〕


 怒鳴っているが、見えない&聞こえないトツオカは、全く気にもとめない。


 

 男女はトツオカの周りをぐるぐると歩き、視界に入る位置で言葉を繰り返したが、意味がないと思ったようで、

 

〔まったく!最近の若者は怖いもの知らずというか、無謀というか…。検証だの科学だのって、頭でっかちなことばっかりだ!目に見えないものを信じなさすぎるぞ!!〕


 憤る男性。


〔神隠しを信じていた時代の方が、まだ良かったわね…。少なくとも興味本位で寄ってくる人間は少なかったわ……〕


 ため息を零す女性。


〔騒ぐしゴミを散らかすし…。生きてる人間だけじゃなくて、面白半分で見に来る霊まで来る始末…。死んでからも心霊スポットに来るって、何なんだ?〕


〔そんなに有名な心霊スポットになっちゃったのかしら?霊は話ができるけど、生きた人間は厄介よね…〕


 男女はそろって盛大なため息をついた。



 話の内容からするに、生者も死者も頻繁にここを訪れるようだ。

 ここを住処にしている霊たちにとっては、迷惑にしかなっていないらしい。


 あたしもその一員だし、ここは謝っておくか…。

 

〔あのー…ご迷惑かけてすいません〕


 あたしは2人に話しかけた。


 2人は誰が喋ったのか分からず、トツオカの4人を見た。

 しかし誰とも視線が合わず、首を傾げる。


〔あっ、すいません。こっちです、こっち〕

 

 博士に視線を向けた時、あたしと目が合ったタイミングで、

 

〔こんばんは〕


 挨拶した。

 

〔うおっ!?人形が喋ったのか?!〕 

〔わわっ!びっくりした!!〕


〔あぁ、すいません。あたし、サエちゃんです。日本人形に入ってます〕


 2人はまじまじとあたしを見た。


〔喋る日本人形か…〕

 

〔実物、初めて見たわ…〕


 ひとしきり眺めると、


〔話ができるなら、良かった。ここは由緒ある神社なんだ。この人達を連れて帰ってくれ〕

 

〔いやー。残念ながら、あたしの声は届かないんですよ。霊と喋れる人はいないんで…〕


〔そうなのね…〕


 がっかりした女性は困った、と顔を歪ませた。


〔神社の奥には行かないようにして欲しいわ。ここには飯綱様がいらっしゃるけど、“あれ”を抑え込むのが限界になってるのよ〕


〔飯綱様?〕

 

〔お稲荷様のことよ。まだお力があるうちは、悪しき者を追い払ってくださっていたのだけれど…。最近はそこまでお力が奮わないみたいで。わたし達の仲間も、取り込まれちゃった人がいるの…。近づけばサエちゃんにも被害が出ると思うから、気をつけて〕


〔彼らに伝わらないのなら仕方ないが…。まぁ、生きてる人間なら、少し生気を吸われるくらいだろう…。だが、気に入られると連れて行かれるぞ〕


〔つ、連れて行かれる?〕

 

 2人は頷いた。


〔昔は神隠しなんて言われてたらしいが…。一度連れて行かれたら、()()()には戻ってこられないぞ〕


〔若者が被害に遭うのは、寝覚めが悪いわ…〕


 女性は顔を歪ませた。


〔忠告は有難いんですけど…あたしにはどうすることもできません…。せいぜい目を動かせるくらいで…〕


 そう言うと、男性は、


〔いや、それも凄くないか?〕


 驚いた。


 そのタイミングで、


「では、幸運の日本人形、サエちゃんと共に、早速奥に進んでいこうと思います!」


 タケが言った。


 一旦カメラを止めると、4人は神社に向けて歩き出した。

 博士に抱っこされたままのあたしは、否応なく向きを変えられる。


〔あの!どうやるか分からないけど、注意しますー!〕

 

 姿が見えなくなった男女に向かって叫んだ。


 暗闇の中に、あたしの声が吸い込まれていった。

 

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