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呪物のサエちゃん  作者: 栢瀬 柚花


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3/19

「サエちゃん」の紹介


〔呪物っていっても、皆がみんな、意思を通わせられるわけじゃないの。お喋りできるのはわたしとサエちゃんだけ〕



 まだ夜が明けきらない時間。


 暗い部屋の棚の上で、はるちゃんはトツオカが所有する呪物について教えてくれた。

  

 

 例えば同じ棚の端っこにある布。

 血のような赤黒いシミ、髪の毛が見える気味の悪い布で、邪悪なオーラを放ってる。

 何かを呪っていると分かるけど、詳細は分からない。喋れないから。


 

 見た目と反して好感が持てるのが、一段下の棚にいるミイラ。

 

 体は偽物だけど、唯一髪の毛と爪はホンモノだ。

 髪の毛は女性のもの、爪は子供のもので、この2人は親子だ。

 母親の方の念を感じるだけで、喋ることはできない。親子の温かくて強い絆を感じる、いい呪物仲間。


 

 今のところ、この部屋にいる呪物はこの4つ。


 

〔トツオカが話し合って、呪物を買ったんだよ。わたしがここに来た時は、『布』だけがここにいたの。でも話し相手もいないからさぁ、めっちゃ暇で。トツオカ4人の観察をするしかなくてね。ひたすら話を聞いて、届かない声で突っ込み入れてたら、博士がだんだんと霊感上がっちゃって〕


〔そうなの?〕


〔タケも見込みはあるね。わたしが大声で笑った後とか、盛大な突っ込み入れた後にビクッと反応するから、何か感じ取ってる。やっぱりうちも呪物なんだなーって実感したわ〕


 遠くを見るような哀愁ある声で、はるちゃんは言う。


〔今のところ、人体への影響はそれくらい。呪ったり物を落としたり、声を聞かせたりなんて、簡単にはできないからさ〕


〔そうなんだ〕


〔サエちゃんもやってみればいいよ。次にトツオカが来たらさ、喋りかけて念を飛ばしてみな!〕


〔ええっ?!大丈夫なの?〕


〔大丈夫だよ〜。わたしがこんなに長く続けても、多少の霊感が開花したくらいなんだから〜。呪ったりできないって!〕


 はるちゃんは明るく言った。


            ◆

 

 しばらく経って、夜が明けるにつれ、外が騒がしくなってきた。


 ブロロ…とかチリンチリンとか、色んな音がする。

 あとは子供の賑やかな話し声。


 隣にも部屋があるのか、お母さんらしき人が、

 

「早くしなさーい!!」


 と何度も呼んでる。


 5回は呼んだ後に、


「もう起きてるよ!」


 男の子の声がした。

 

「なら返事くらいしなさい!」


 それからボソボソ会話らしき声がしたけど、はっきりとは聞き取れなかった。


「お母さん、もう出るね!」

 

 バタバタと音がして、『バタン』と振動がした。


 いつの時代もお母さんは忙しいんだな。



            ◆


 

 更に時間が経って、太陽が室内を照らし始めた頃……。


『ガチャガチャ……ガッチャン』


 ドアから音がした。


 そのあと、すぐに話し声が聞こえてきた。


「今日はハードになりそうだな」


「明日バイトだから、日付変わる前には帰りてぇな」


「あっ、俺も」


「なる早でいこう」


 男の人の声だ。


 どうやら彼らがトツオカという4人らしい。



 あたしとはるちゃんがいる部屋にやって来ると、定位置があるのか、それぞれに荷物を置いた。


〔この人たちがサエちゃんを買ったトツオカだよ〕

 


 なるほど…。

 20代らしき青年4人。


 身長高いなぁ。

 あたしが人形だから、そう見えるのかな?


 いや、あたしの記憶にある青年よりも、やっぱり高い気がする…。


 それに洋服だ。見たこともないやつ。 

 今の時代はこんな服装なんだ…。

 凄く斬新。


 半袖だから、今は夏らしい。

  

 観察をされてるなんて思いもよらない彼らは、雑談をしつつ、手を動かしていた。

 手際よく機械を机に準備し、紙や鉛筆を出していく。


 うん。

 雰囲気はいいな。

 

 

 はるちゃんの言う通り、あたしのことを「サエちゃん」と呼び、手を動かしながら撮影の話をした。


「サエちゃんの撮影、今日する?」

〔今喋ったのがタケだよ。4人のリーダー〕

  

「そろそろストック無くなってきたし、いいかもな」

〔あれが博士ね。メガネ掛けてるから分かりやすいでしょ?〕


「んじゃ、2人で打ち合わせよろしく。俺とマモルは、仕上げた動画の最終確認するわ」

〔彼がマサ。4人の中で一番冷静だよ。ひと言も喋らなかったのが、マモル。大人しめの性格かな〕


 はるちゃんの解説が入る中、タケと博士が、


「「オッケー」」


 と返事をした。

 それを機に、2対2に別れる。


 

 それにしても、はるちゃんがこんなに話してるのに見向きもしない。本当に聞こえてないんだ……。


〔ほら!サエちゃんも話しかけてみなよ〕

 

〔ええっ?でも、真剣な話ししてるよ…〕


〔大丈夫だって!わたしの声にも全然反応しないでしょ?〕


〔まぁ…確かに……〕


 彼らは自分たちの仕事に集中している。

 もしはるちゃんとあたしの声が聞こえているなら、凄い集中力だ。


〔ほら、話しかけてみなよ。ほら、ほら〕


 グイグイ言うはるちゃんに負けて、あたしは、


〔あのー……〕

 

 おずおずと声を出した。


 でも4人の反応はなし。


〔あたし、サエちゃんっていうんですかね?あなた達が付けてくれた名前ですか?〕


 反応なし。


〔あたしのこと、何処で買ったんですか?〕


 反応なし。声を大きくしてみよう。


〔あたしにも良くない曰くがあるんですかね?誰か呪っちゃいました?殺したりとか…してますかね?〕


 反応なし。


〔あのー…無視は嫌です。返事してくださーい!〕


 反応なし。


 さすがにイラッとして、

〔すいませーん!!こっち見てくださーーーい!!〕


 大声で言ったけど反応なし。 

 ひたすら話し合いを続けている。


〔ほら、聞こえてないでしょ?〕


 はるちゃんが言った。


 あたしはハァハァと息を切らした…つもりになった。

 人形でも疲れはするんだな…。

 

〔本当に反応しないね〕


〔博士とタケは霊感あるんじゃないの?〕


〔今は集中してるから、感じないんだよ。ボーッとしてる時とか、寝てる時なら気がつくよ〕


 そういうものなのか…。


〔今度やってみようよ〕


〔……はるちゃん、楽しそうだね〕


〔タケかビクッてするの、面白いの〕


 クスクスとはるちゃんは笑った。


 この時だけは、はるちゃんが呪物に見えた。



 

 彼らはしばらく話し合った後、

 

「よし、こっちの打ち合わせはいいぞ。そっちは?」


 タケがマサとマモルに尋ねる。


「オッケー」


 初めてマモルが喋った。


「よーし。んじゃ、撮るか」


 タケが立ち上がると背伸びをした。


 そして棚に近づいてくる。


 ドンドンと歩くから、棚に振動が伝わってきた。荒々しい歩き方だな…。


 そして目の前に来たと思ったら、胸のあたりをむんずと掴まれた。


〔わわっ!〕


 近くで見ると、人間ってこんなに大きいんだ。


 掴まれたまま移動すると、床に座り、机の上に置かれた。


 目の前には手の平よりも少し大きい、薄い機械がある。電気が眩しくこちらを照らしてる。

 

 タケの隣に博士が座ると、

  

「カメラ、オッケー?」 


 マモルに向かってタケが聞いた。


「オッケー」


「なら、5秒後に開始で」


〔えっ?開始って?何すればいいの?〕


 慌てると、


〔大丈夫。サエちゃんは何もしなくていいから〕


 はるちゃんの声が飛んできた。


 そっか。

 そもそも動けないんだから、じっとしておくしかないんだった。


 そんなことを思っているうちに、


「皆さん、こんばんは!『突撃!オカルトチャンネル』略してトツオカのお時間です!」


 急に明るく喋りだした。

 

 声デカッ!!

 

「本日の案内人は…リーダーのタケとぉ!」

「博士です」 


「今日は新しく仲間になった呪物を紹介します!」


「今回はマモルとマサが選びました」


 明るいタケに、冷静な博士。

 2人の声の落差といったら…。漫才みたいだ。


「いつもは裏方の2人ですが、今回はカメラの前で購入に至った経緯を話してもらいましょう!」 


 マモルとマサもこちらにやってきた。

 

 同じく腰を下ろすと、手の平サイズの機械に向かって話し出す。


「編集を担当しているマサです」


「同じく編集担当のマモルです」


「さて、マサ。この日本人形はどんな経緯があるんでしょうか?」


「この呪物はメルカルで見つけたんですが、説明文によると、元々老人ホームにありました」


〔老人ホーム?って何?〕


 あたしの質問に、はるちゃんが答えてくれる。

 

〔お年寄りがたくさんいる場所だよ。サエちゃんが『お婆ちゃん』って言ってたのは、老人ホームにいたからなんだね〕


 そう…なのかな?



「老人ホームにあった経緯までは分からないのですが、最初はごく普通の人形でした。しかしそこの入居者が、この人形を可愛がると亡くなるようになったらしいです。老人ホームという場所なので、最初は誰も気にしていなかったのですが、それが5人…8人と続くと、さすがに気味が悪くなったらしいです」


〔あぁ…なるほどね。連続すると確かに怖いかぁ。でも人形のせいっていうのはどうなの?高齢者だし、やっぱりたまたまじゃない?〕


 はるちゃんが感想を述べた。


「いつの間にかスタッフの間で死神人形として怖がられるようになり、廊下への展示もしなくなったそうです」


〔死神人形?!酷くない?〕


 あまりのネーミングセンスに、あたしは思わず声を上げた。

 はるちゃんは、

 

〔だよねー。サエちゃんが命を刈り取ってるならいざ知らず、安直すぎ〕


 突っ込んだ。


「倉庫にしまわれるようになると、今度はすすり泣きが聞こえるようになり、スタッフも用事がない限り、近づかないようになったらしく…」


〔そりゃ、あらぬ疑いをかけられて勝手に怖がって、倉庫に閉じ込められたら泣くわぁ。女の子だもん〕


〔確かに!〕


「倉庫にしまわれてから死人は減り、やはりこの人形が…となったようです。

 長年倉庫に置かれたままでしたが、ある時、施設長が覗いてみると、人形と目が合ったらしいんです。しかも瞬きをしたとかで…。最初は気のせいかと思ったようですが、他にも同じ訴えをする人が増え、仕方なく施設長が家に持って帰ったらしいです。それからも目が合う、泣き声がする…と家族から苦情がきて、知人の手を何度か渡り…最終的にはメルカルに出品された、というわけです」


〔なるほどねぇ。サエちゃんの購入経緯は分かったね〕


〔でも、あたしにはそんな記憶ないよ?暗い所にいた気はするけど…〕


〔自我が芽生える前だったんじゃない?どの段階で呪物になるのか、よく分からないし〕


〔それもそうか…〕


 マサの話を聞いたタケが、うんうん頷いた。


「そうすると、この日本人形は目が合う、泣く、もしかしたら死を呼び込むかも…というわけか」


「最後の『死を呼ぶ』は眉唾かもしれないが…少なくとも、“目が合う”と、“泣く”は簡単に検証できそうです」マサ


「定点カメラを置いて、観察するわけだ」マモル


「「なるほど」」博士・タケ


〔定点カメラ?〕

 

〔サエちゃんをずっと監視するって言ってるの〕


 はるちゃんの解説に、あたしは〔そんな!!〕と嘆いた。

 

〔女の子にそんなことするの?!〕


〔女の子だけど、人形だしねぇ〕


 あぁ…そうだった……。


〔じっと監視されてもお喋りは聞こえないし、動けないからね。サエちゃん、泣ける?目は動かせる?〕


 なんとかやってみようとしたけど、目は動かない。

 ならば……


〔えーん!えーん!……どう?〕


〔誰も反応しないね〕


〔…無理じゃない?〕

 

〔企画倒れかなぁ?〕


 はるちゃんはのんびりとそんなことを言った。

 


 トツオカの4人は、この後の流れを説明している。


 その会話の中で、あたしの名前が「サエちゃん」であり、名付けはマモルが行ったと発表された。


 

「では、数日定点カメラを付けて観察していきたいと思います!」


 タケがそう言うと、


「よし」「オッケー」


 マサと博士が立ち上がった。

 あたしはタケに再び掴まれ、はるちゃんの横に置かれる。


 監視の準備をするのか、4人が慌ただしく動き始めた。

 それを見ながら、あたしは疑問を口にした。


〔ねぇ、はるちゃん。もし瞬きも泣き声もしなかったら、あたしってどうなる?捨てられる?〕


〔さすがにそれはないよ。タケのことだから、『本当に死神人形か、引き続き検証します!』って言うに決まってる〕


〔決まってるんだ…〕


〔決まってるね〕


 そっか…。捨てられる心配がないのなら、はるちゃんと離れ離れになる心配はないわけか。


 少し安心した。


 でも…


〔やっぱり呪物として、頑張って怪奇現象を起こすべき?〕


〔できるならね〕


〔できるかなぁ…〕


〔ものは試しだよ。頑張ってやってみよう!〕



 こうして、頑張って怪奇現象を起こす努力の時間が始まった。

 

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